米国疾病管理予防センター(CDC)が6月15日に発表したデータによると、新型コロナワクチンの入院に対する予防効果は時間の経過とともに弱まっている。
CDCが運営する病院ネットワークのデータによると、従来型の新型コロナワクチンを接種した人の入院予防効果はマイナス8%に減少した。
また2価ワクチンを1回接種すると、予防効果は29%まで上昇したものの、89日を超えると予防効果はマイナス8%まで落ち込んだことがデータで示されている。
この予防効果の推定値は、米国でXBB株が主流だった1月23日~5月24日まで、正常な免疫を持つ成人を対象としたものである。このデータは「急性疾患ネットワークにおける呼吸器ウイルスの調査(the Investigating Respiratory Viruses in the Acutely Ill network)」に参加している米20 州の25の医療施設の入院患者から得たものだです。症例、対照ともに新型コロナウイルスに似た疾患で入院したが、症例はコロナウイルスの検査で陽性反応を示し、対照の患者は陰性だった。
CDCのルース・リンクゲレス博士は、ワクチンの成分構成の改良を検討している米国食品医薬品局(FDA)での専門家パネル会議でデータを提示しながら、「入院を防ぐ効果が弱まる傾向が見られる」と述べた。
リンクゲレス氏は、入院予防効果がマイナスになった理由については特に言及しなかったものの、一部の効果推定値について信頼区間が広いことを指摘した。
米バイオ医薬品会社モデルナ社および米製薬大手ファイザー社が製造した2価ワクチンは、従来型のワクチンの予防効果が短期間しか持続しなかったことを受け、入院や死亡に対する予防効果の向上を目指して昨年秋に導入された。
製薬会社がワクチンに利用しているmRNAワクチン技術の発明に貢献したロバート・マローン博士は、時間の経過にともなう効果の弱まりについて、ワクチンの接種回数が増えるごとに感染リスクが高まることを示したクリーブランド・クリニックの研究論文などの以前のデータと一致していると指摘した。
別の論文でも、感染予防効果が時間の経過とともに弱まると推定されている。複数のデータセットでは、ワクチン接種者は、重症化の代名詞とされてきた入院のリスクが高いことが示されている。
最近の論文では、ワクチン接種を繰り返すと(米国人の中には接種回数が3年以内に6回を超えている人もいる)、免疫力が低下し、がんなどの生命を脅かす疾患に罹患しやすくなる可能性があると指摘されている。
CDCの担当者が年齢や性別、民族などの要因を調整した後でも、この推定値はマイナスのままだった。従来型ワクチンを1回以上接種した人の最終接種からの期間の中央値は464日で、2価ワクチンを接種したが予防効果がマイナスになったグループの場合、中央値は137日だった。
ほかのデータでも効果低下示す
別のネットワークのデータでも、時間の経過とともに入院に対する予防効果が0%に近づいていることが分かった。
XBB株が主流になった後、CDCのVISIONネットワークが正常な免疫を持つ成人を対象にした調査で、従来型ワクチン接種による入院予防効果は9%と測定された。2価ワクチンは51%に上昇したものの、接種後90〜179日で20%に急降下した。
2022年9月~23年5月、同ネットワーク内で従来型ワクチンのみを接種した免疫不全状態の成人の入院予防効果はわずか3%だった。2価ワクチンの接種で39%となったが、119 日を超えると11% に低下した。
VISIONネットワークには、米カイザーパーマネンテ北カリフォルニア病院やニューヨークのコロンビア大学など、11州にわたるサイトが含まれている。
米国では、各年齢層の半数未満が2価ワクチンの接種を受けたことがある。65歳以上が43%、2〜4歳が0.6%など。
CDCは感染症に対する有効性に関するデータを提示していない。
米国では冬に、オミクロン株の「BA.5」系統に変わり「XBB」系統が主流となった。現在、中国・武漢由来の従来株のmRNAと、オミクロン株の系統の「BA.4」および「BA.5」の両方に共通するmRNAを含む2価ワクチンを採用している。FDAは、2023年後半~2024年前半にかけて、XBB系統に対応した新たなワクチンを導入し、ワクチンキャンペーンを行う予定だ。
「FDAのピーター・マークス博士は会議の中で、『ウイルスが更に進化し、集団免疫がさらに衰える時期に、冬季の屋内生活へと移行する際に、新型コロナウイルスの再流行が起こることを心配している』と述べた」
「重大疾患」に注目
入院予防効果が一段と低下するなか、CDCはいわゆる重大疾患、つまり集中治療室(ICU)への収容を防ぐ効果や死亡に対する予防効果に注目している。
XBB株が主流だった当時のVISIONのデータによると、2価ワクチンによる重大疾患に対する予防効果は当初58%で、48%までしか下がっていないとしている。
「急性疾患ネットワークにおける呼吸器ウイルスの調査」には、重症化に対する予防効果の推定値を提供できるほどの重症例はなかったとリンクゲルス氏は述べている。
リンクゲルス氏は、2価ワクチンの予防効果の弱まる傾向は、「1価ワクチンで分かっていたことと非常に類似している」とし、米当局は「ワクチン効果のデータのみに基づいて」ワクチンに関する政策を決定しているわけではないと述べた。
当局によると、データにおける正確性の限界として、過去の感染、つまり自然免疫のレベルが高いこと、ワクチン未接種者とワクチン接種者の間に潜在的な違いがあることが挙げられるとした。
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