米政府は国際的な児童人身売買の「仲介役」を買って出ているという。
この衝撃の内部告発を行ったタラ・ロダスさんが、このたびエポックタイムズの取材に応じた。彼女は様々な政府部門で勤務経験を持つ連邦政府職員だ。
ロダスさんはカリフォルニア州ポモナの移民収容施設に勤務していた時、人身売買の犠牲となった子供たちに直接接触した。彼女はそこで、政府の「家族再結合プログラム」が、メキシコの麻薬カルテルが斡旋する大規模な密入国の隠れ蓑になっていることを知った。
米国は現在、南部の国境沿いに移民の子供たちのための収容施設を運営している。麻薬カルテルによって米国に不法入国させられる子どもの多くは、性奴隷や児童労働用の売りものにされるという。
収容施設のケースマネージャーとなったロダスさんの仕事は、不法入国した子供たちを米国内の家族と再会させることだった。
しかし、実際には多くの場合、子どもとまったく関係がない「身元引受人」が子どもを預かり、面倒を見ることになるという。
2021年、連邦政府によって収容された不法移民の子どもの数が大幅に増え、12万人にのぼった。政府の「家族再結合プログラム」は、そうした子供を身元引受人に引き渡すことで、子供の安全を確保することを目的としていた。
同年、バイデン大統領は、不法移民の児童に対処すべく、スペイン語を話せる人材を国境に配置するよう連邦政府職員に緊急指令を出した。
エルサルバドル移民を夫に持ち、スペイン語話者でもあるロダスさんは、子どもたちのためを思い、政府の呼びかけに進んで応じたという。
そうして彼女は、米保健福祉省が監督する、カリフォルニア州ポモナにある緊急収容施設に赴任することになった。
当初、施設にやって来る不法移民の子どもは比較的少なく、多くても1日に数百人だった。身元引受人の審査もかなり厳しかったため、平穏な状況だったという。しかし、米国への不法滞在者の流入が増加するにつれ、ポモナや他の収容施設に流入する移民の子どもの数も増加したという。
「子どもたちと話したり、遊んだり、勉強を教えたりするだけだと思っていました」とロダスさんは当時を振り返る。
やがて彼女は、監察総監評議会での監査官としての経験から、移民の子どもがいかがわしい身元引受人に引き渡されていることに気づき、深刻な倫理的問題を指摘した。
ロダスさんは、保健福祉省が安全性よりもスピードを優先したことが、秘密裏の人身売買を大規模に促進したと見ている。
政府プログラムが「商品」を保護
なぜ、米政府が人身売買の「仲介役」となってしまったのか。ロダスさんは麻薬の密売との対比で説明している。
麻薬の場合、国境で大量に押収されることはよくあり、国境を越えても米国内のエンドユーザーに届くまでさまざまな問題が発生しうる。したがって、麻薬カルテルはその全過程に渡って商品を保護しなければならない。
しかし、児童人身売買の場合はそうではないとロダスさんは述べている。
「人身売買業者の場合は、子どもを連れて中米を出発し、米国国境まで守れば良いのです。米政府に引き渡せば、政府がその『商品』を保護してくれます。なので、国境を越えれば押収の心配はありません」。
「私たちがその 『商品』を預かることになります。人身売買業者の『資産』を保護してから、エンドユーザーに届けているのです。これはとても受け入れがたいことです」。
「彼らは私たちをビジネスモデルの一部と見なしているに違いありません。彼らにとっての商品や資産を、私たちが守っているのですから。恐ろしいことです。私たちは仲介役になってしまっています」。
こうした事態が起こる可能性について、政府は職員に警告していなかったという。したがって、ポモナに出向いたロダスさんがそのようなことを知るはずもなかった。
身元引受人1人が児童6名以上を引き取り…
ロダスさんが最初に疑問を抱いたのは、ある2人の兄弟の案件を受け持った時だったという。
本国と身元引受人の話が食い違っていたため、ロダスさんが間に入ったところ、子供たちと身元引受人の間に本当の関係がないことは明らかだった上、身元引受人は子どもたちに対し、住む場所について矛盾した説明をしていたという。
こうした混乱の原因として、そもそも身元引受人の審査に当たるケースマネージャーらが、審査やセキュリティに関するトレーニングをほとんど受けていなかったと、ロダスさんは指摘している。
適切な上司すらいない環境は 「まるで自由奔放だった」そうだ。
また、調査を進めるうちに、ある身元引受人が少なくとも6人の子どもを受け入れていることに気づいたという。4日間の調査の後、子供たちとの関係性がないことが分かった。
さらに、米政府の援助により、5人の身元引受人で18人の子どもを引き取っていたことも判明したという。
問題に気づいた直後の2021年6月、ロダスさんは疑わしい身元引受人に関する報告書を提出した。
その時点では、事態が解決に向かうと楽観視していたが、時間が経つにつれ、保健福祉省が問題に気づいていながら、対処する意思がないことに気づいたという。
政府は安全性よりもスピードを優先
不法移民の子どもたちの流入が増加するにつれ、米政府は子供たちの安全性よりもスピードを優先するようになったと、ロダスさんは指摘している。
収容施設を監督する保健福祉省は、子供達を到着後10〜14日以内に退去させるよう、ケースマネージャーを追い込んだという。
「このスピードの追求が子どもたちの幸福を犠牲にしました。とても心が痛みます」。
「保健福祉省は人身売買の疑惑を知りながら、それを知る人材を現場に置きませんでした。しかも、子供たちを捕まえている悪徳業者の存在を知りながら、10〜14日で子供たちを移動させろと言っていたのです」。
「私は政府に奉仕することに全生涯を捧げてきました。今は『自分は間違った側にいるのではないか』と考えています。私は繰り返し苦悩に苛まれています」 。
ロダスさんは、保健福祉省のザビエル・ベセラ長官が、子供達を施設から送り出すプロセスを「流れ作業のようにする必要がある」と発言したことに言及している。
「以前なら、子どもの身元引受人になる場合、受け入れ先の18歳以上の大人の名前をすべて伝え、身辺調査を行う必要がありました。ところが、バイデン政権はそれらを全て取り払い、安全性よりもスピードを優先しました。でも、それは実現不可能です」 。
身元引受人の9割は不法滞在者
さらに、身元引受人の9割以上は不法滞在者であったとロダスさんは指摘している。不法滞在者の場合、犯罪歴を確認するのが難しい。
ところが、どの政府機関も身元引受人の審査をサポートしてくれなかったため、ケースマネージャーらは身元引受人から提出された検証不可能な書類に頼らざるを得なかったという。
あるケースでは、20代の身元引受人が自分の妹だと主張する16歳の少女を引き取ったが、事実無根だったそうだ。
ロダスさんは、不法滞在者の犯罪歴を評価するために必要な「ハイレベル」な情報にアクセスできる、FBIをはじめとする連邦法執行機関が出向かなかったことを非難した。
「彼らは米国市民ではないのだから、通常の身辺調査では犯罪歴は分かりません。母国での犯罪歴にアクセスできないのですから、『身元引受人を入念に検査している』なんて言えるはずがありません」。
ロダスさんがポモナの収容施設での勤務を終えるころには、1日にやって来る子どもの数は数百人から2千人にまで増え、半年間で8,314人の子供が施設から送り出された。つまり、8,000人以上の子どもが不法滞在者のもとに送られた可能性があるというのだ。
「人道的な移民支援」の嘘
トランプ政権時代が終わってから、多くの民主党議員は、不法移民への支援は「思いやり」であり「人道主義」であると主張してきた。
しかし、ロダスさんは「人道的なことは何一つない」と述べている。
「私たちは被害者集団を作り出しています。子どもたちは搾取され、虐待され、放置されています。人道的なことは何一つありません」。
ロダスさんによると、毎月250人以上の子どもたちが保健福祉省の電話相談窓口で虐待、育児放棄、人身売買について報告してくるという。
「化学熱傷を負った13歳の子供が屠殺場で夜勤をしています。これが人道的といえるでしょうか。今までの人生で、ここまで恐ろしいものを目にしたことはありません。子どもたちは奴隷労働を強いられています。ただ働いているのとは訳が違います」。
他にも、10代の若者が屋根の上で作業中に15メートルの高さから落下して死亡したケースや、叔母を名乗る身元引受人が16歳の少女の売春を斡旋しているケースが報告されているという。
「人身売買で訴えられることはないわ」
「何かしなければならない」と考えたロダスさんは、リスクを承知の上で内部告発を決意した。
その後、彼女が最初に疑惑を抱いた身元引受人が、すでに数人の子どもを引き取っていたにもかかわらず、再び子どもを引き取りに来た。
ロダスさんが施設の法律顧問でもある上司に相談し、懸念を共有したところ、上司は「タラ、私たちが訴えられるのは、子供を長く保護した場合だけだよ。人身売買で訴えられることはないわ」と返したという。
この唖然とするような返答の後、ロダスさんは施設内の同じ懸念を持つケースマネージャー同士で協力して問題に取り組むようになった。
「私たちは不正と戦い、子供たちを救おうとしました。子供たちが悪質な身元引受人の手に渡らないよう、長期養育を行いました。しかし、すべての不正に対抗することは不可能だと分かっていました」。
内部告発者を見せしめ処罰
ロダスさんが司法省監察総監室に内部告発を行ったところ、保健福祉省からの反発に遭ったという。
「保健福祉省は、私が司法省監察総監室に問い合わせたことを知ると、10日以内に私を担当から外しました。その1週間後には現場から追い出されました」。
ロダスさんは、「内部告発者に何が起こるか」ということを現場の職員に知らしめるために、自身が見せしめにされたと考えている。
問題の解決策について尋ねられたロダスさんは、いくつかの提言を行っている。
まず、保健福祉省に対し、身元引受人が適切に審査されるまでは移民の子供たちを送り出さないよう求めた。
「それこそが、悪徳業者に子どもが引き渡される問題の根源です。ですから第一にそれを止めることです。子どもたちを保護し続けなければなりません」。
さらにロダスさんは、バイデン大統領に対し、身元引受人が適切な審査なく子どもたちと接触することを容易にする以前の命令を取り消すよう求めた。
2022年12月、米共和党のロン・ジョンソン上院議員は保健福祉省のベセラ長官への書簡で、ロダスさんらの申し立てを根拠に、同省が「故意に」移民の子どもたちを犯罪者や性売買業者に引き渡していると非難した。
連邦上院議員からの申し入れにもかかわらず、同省はこの書簡を無視している。
エポックタイムズは保健福祉省にコメントを求めたが、本記事の掲載時点(米国では4/26)で返事はなかった。
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