ソ連・東欧の社会主義崩壊 その歴史が今、中国で繰り返されようとしている

2023/02/17
更新: 2023/02/17

中国の武漢や大連で今月15日、医薬品補助の削減を伴う制度改革に抗議する大規模デモが発生した。デモ参加者の多くが退職者などの高齢者であることから、ネット上では白紙革命ならぬ「白髪(はくはつ)革命」と呼ばれている。

大きな「歴史の転換点」になるか

最近の3カ月ほどの間に、中国各地でこのように大規模な抗議活動が頻発しているのは、なぜだろうか。中国には、政権打倒をもたらす「政治革命」が起こる条件がどれほど整ってきているのか。

さらには「ソ連の崩壊」や「東欧諸国の民主化」に匹敵するような歴史の大転換が、中国で再演される可能性があるのだろうか。

湖北省武漢市で今月15日、同市では「二度目」となる大規模デモが発生した。この日、抗議のために武漢市街に繰り出した市民は数万から数十万人と言われている。

これに先立ち、武漢ではその1週間前(8日)にも1万人以上が参加したデモが起きていた。前回と異なり、今回は同じ日に武漢と連帯する形で1千キロ以上離れた遼寧省大連市でも同様の大規模デモが発生している。

高齢者たちが、当局への抗議をもって要求することは前回と同じで、今月1日から実施された「医療保険制度改革の撤廃」だ。

この新制度が実施されてから、高齢者たちは医療費関係でもらえるお金が大幅に減り、払わなければならないお金が大幅に増えた。さらに、薬の購入や払い戻し手続きが非常に煩雑になった。抗議者は、こうした切実な危機感から新制度の撤廃を求めたのである。

増え続ける「火種」に頭を悩ます当局

昨年11月末、中共政府による行き過ぎた「ゼロコロナ政策」に抗議して、各地で「白紙運動(革命)」が勃発した。

当時、抗議の意を無言で示す白紙を手にして集った民衆は、ついに「共産党、退陣しろ」という禁句のスローガンを叫ぶまで至った。

中国全土に広がる勢いの大規模抗議を前にして、当局は相当冷や汗をかいたことだろう。それが早期のゼロコロナ政策撤廃につながったことからも、当局の困惑ぶりが分かる。

「白紙運動(革命)」に続き、今年の元旦(新暦)前後には各地で「花火運動」が勃発した。

人が集まるという理由で花火が禁じられているにも関わらず、若者を中心とする民衆は「新年を伝統的に祝うため」に集まった。

彼らは当局の禁令など無視し、花火を上げて気勢をあげ、阻止しようとする警官と衝突を起こした。その結果、一部地域では花火禁令が実質上撤廃されることになった。

そして直近では、武漢や大連で数万から数十万人が参加した「白髪運動」だ。

見ての通り、中国では過去3カ月間に、ほぼ「月に1回」のペースで全国規模の抗議運動が起きている。しかも、これらの運動は各地で自発的に起きたものばかりだ。

「白髪運動は『白紙運動』のように広がるのではないか」あるいは「白髪運動が中国で政治革命のきっかけになるのだろうか」と考える人は多いだろう。

「白紙運動」が起きている時に、私はかつて番組の中でこう分析した。

「この(白紙)運動は共産党政権を倒すほどの全民革命には発展しないかもしれない。しかし、全民革命へつながる火種をまた一つ点けることにはなる。だから、今後は同様の運動が次々と起こるだろう」

今振り返ってみると、確かに、以前分析した通りの方向へむかって進んでいるようだ。

歴史は繰り返される

さて「白髪運動が中国で政治革命のきっかけになるのだろうか」という質問の前に、まず歴史上の共産主義政権がどのようにして崩壊するに至ったかについて、振り返ってみることにしよう。

1989年から始まった東欧諸国の共産主義体制崩壊について、そのきっかけとなる反共ブームが形成された社会的背景とは何だったか。

「人民の生存が困難」「深刻な腐敗」「政府の信用が破綻」さらには「軍や警察の離反」などが挙げられる。これらは、実は今の中国でも同様の傾向はすでに見られているのだ。

例えば「人民の生存が困難」ということ。対米貿易戦争やゼロコロナ政策は中国経済に壊滅的な打撃を与えた。外資企業は、我先にと中国から逃げ出し、残されたのは膨大な数の失業者だけである。

さらに悪いことに地方政府は借金まみれで、もうお金がない。この危機を乗り越えるため、地方政府は人民への社会福祉や医療補助金に目を付け、これを削減したわけだが、その結果が今日の「白髪運動」を招くことになる。

次に「政府の信用が破綻」したこと。共産主義政権というのは、往々にして「全民富裕」「自由民主」など、夢のような明るい未来を胸を叩いて国民に約束するものだ。しかし結局は、そのような夢など実現できないことが多い。

旧ソ連や東欧の共産主義諸国もかつては、その種の「美しい新世界」の嘘で国民を騙して革命を起こさせ、政権を奪取した。

しかし、結局は独裁体制に変貌してしまい、国民に示した約束が何一つ守られなかった。そうして共産主義政権に対する信用は失墜し、民衆の不満がどんどん蓄積されていったのである。

今日の中国もまさにそうではないだろうか。中国共産党は「共同富裕」「全過程民主」「法治」「全面的な貧困撲滅」などの実現を繰り返し国民に約束してきたが、どれか一つでも実現できたのか。中共の嘘に翻弄され続けてきた国民は、何度失望させられたことだろう。

旧ソ連や東欧の共産主義国に共通する最も悪名高い特徴は「腐敗」「権力乱用」「国民への搾取や迫害」「社会不平等」などが挙げられるが、今日の中国でも、全く同じ特徴が見られる。

習近平国家主席は10年も「腐敗撲滅」を掲げてきた。しかし、今日に至っても腐敗は依然として蔓延し、腐敗官僚が失脚するニュースは後を絶たない。

中国共産党による人民への弾圧・迫害、不法逮捕、監視、盗聴は今も続いている。中国国民の人権状況は改善されるどころか、悪化の一途をたどっているのだ。このようにして、政権に対する国民の恨みはますます蓄積されている。

「給料」が出なければ警察も動かない

歴史上、共産主義国の崩壊をもたらしたいくつかの共通点のうち、「軍や警察の離反」ということだけが、まだ今の中国では起きていない。

現在、各地での抗議運動は依然として警察によって厳しく弾圧されているが、しかし地方政府にはもうお金がないのである。

公務員の給料すら払えないところも現れているとすれば、次に払えなくなるのは警察官への給料かもしれない。給料が支給されないとなると、果たして誰が共産党のために人民を弾圧するのか。

地方政府は人民への様々な福祉手当や補助金を削減したため、あまりにも多い基層の国民がその影響を受けている。警察と言えども、この膨大な数の抗議の民衆に対処するのは非常に難しいだろう。

しかも、鎮圧で被害を受けた人たちの中には、警察官の知り合いや友人もいるはずだ。彼らが最終的に、民衆に同情しない保証がどこにあるだろうか。

そして本当に、この「社会の安定維持の任務を担う大軍」まで給料が支給されなくなれば、彼らも街に出て、抗議民衆の列に加わるしかないのである。

以上の通り、今日の中国では「革命が起きる社会的条件」が、ますます整ってきているのは明らかだ。

目下起きている「白髪運動」が、すぐに本格的な政治革命へ発展するには至らないかもしれない。それでも「白紙運動」と同様、中国共産党政権に抵抗する民間の火種を、もう一つ着けることになったのは間違いない。

今後、さらに多くの地域で、大規模な抗議活動が頻繁に起こる可能性は非常に高いと思われる。

広がる連帯「武漢から大連、そして全国へ」

注目すべき現象は、「白紙運動」や「花火運動」さらには「白髪運動」にせよ、いずれも発生地以外の離れた地域や都市が、密接に連帯して行動していることである。

清朝を滅ぼした辛亥革命(1911)の幕開けにつながった「武昌起義(または武昌蜂起)」は、武漢三鎮の一つである武昌(ぶしょう)で起きた。

その勝利の鍵は、武昌での武装蜂起に呼応して「各地で民衆が反対運動を起こす」ことだった。

中国人は、70年以上にわたり中国共産党によって教化・洗脳されてきたが、近年では中共の欺瞞を見抜き、覚醒する人が増えている。

今後も間違いなく、より多く、民間からの抵抗運動が起きる。このうちのどれが大規模な「政治革命運動」へと発展するか、今はまだわからない。

しかし、一つだけ確かなことは、現在の中国の社会情勢が、すでに「政治革命が勃発してもおかしくない環境になっている」ということだ。

ソ連や東欧の社会主義体制崩壊の歴史が、今まさに、中国でも繰り返されようといている。

(翻訳・李凌)

唐浩
台湾の大手財経誌の研究員兼上級記者を経て、米国でテレビニュース番組プロデューサー、新聞社編集長などを歴任。現在は自身の動画番組「世界十字路口」「唐浩視界」で中国を含む国際時事を解説する。米政府系放送局ボイス・オブ・アメリカ(VOA)、台湾の政経最前線などにも評論家として出演。古詩や唐詩を主に扱う詩人でもあり、詩集「唐浩詩集」を出版した。旅行が好きで、日本の京都や奈良も訪れる。 新興プラットフォーム「乾淨世界(Ganjing World)」個人ページに多数動画掲載。