中国政府が掲げる広域経済圏構想「一帯一路」は近年、世界経済の減速と、参加国の債務急増に対する国際社会の批判が原因で挫折している。
インド紙プリント(The Print)は3日、今年1~6月までの「一帯一路」構想を介した中国の対外投資額は前年同期比11.7%減となったと伝えた。ロシア、スリランカ、エジプトなどへの投資がほぼゼロに近い状態であるのに対し、サウジアラビアが最大の投資先となったという。
対露投資が上半期でゼロ 制裁を意識か
中国商務部(省)の統計によると、「一帯一路」構想下で昨年上半期の対外投資額は842億ドル(約11兆9143億円)だったが、今年上半期は747億4000万ドル(約10兆5757億円)までに低下した。
対露では、中国は2000~17年まで「一帯一路」構想を通じて総額1250億ドル(約17兆7100億円)を投資したが、今年上半期はロシアへの「投資を行っていない」。2月にウクライナ侵攻したロシアに対し、西側諸国が次々と経済制裁を発動したため、国際社会の制裁を回避する狙いがあるとみられる。
中露両国は協力関係を深化すると表明しているため、中国商務部は中国の対露投資減少は「限定的なものだ」と示した。
パキスタンに「興味なくなりつつ」
「一帯一路」構想の目玉プロジェクト、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)を巡る工事延期や批判の高まりで、中国側の投資額は13年から減少傾向だという。20年1~9月のCPECへの投資額は1億5490万ドル(約219億円)に達したが、昨年同期は7690万ドル(約109億円)にとどまった。さらに、今年1~6月の上半期は前年同期比で56%落ち込んだ。
インドのシンクタンク、オブザーバー研究財団(Observer Research Foundation)の研究者によれば、中国とパキスタンが2013~15年にかけてCPECプロジェクトを発表した当時、多くの資金を調達した。しかし同プロジェクトの第1段階が計画通りに進まず、予算が膨れ上がったことがその後の投資の妨げになった。
また、CPECの南側に位置するグワーダル港(Gwadar Port)の開発を巡り、地元住民による抗議活動が頻発し、中国企業と癒着する地元政府の汚職スキャンダルもありCPEC開発は頓挫している。
研究者は、中国企業はパキスタンへの「興味がなくなりつつある」が、投資を撤退せず「後回しにする」とした。
サウジアラビアへ接近
サウジアラビアは近年、中国との友好関係を深めている。同国は16年に中国と全面的な戦略パートナーシップを結び、19年に両国は合同軍事演習を行った。
サウジは昨年、中国の最大原油供給先となった。今年上半期における中国の対サウジ投資額は55億米ドル(約7783億円)に達した。「一帯一路」構想の参加国の中で最も多い。うち46億ドル(約6509億円)は原油や天然ガス開発に投じられる。
香港メディア「アジア・タイムズ」は、サウジと米国の関係が原油価格の高騰やウクライナ情勢などでぎくしゃくしていることを背景に、中国は「中東での存在感を高める機会」と捉え、一帯一路を通じてサウジへの資金提供を増やしたとの見解を示した。
(張哲)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。