[東京 11日 ロイター] – 10日に投開票された参議院選挙で、NHKなど国内メディアによると、与党の自民党が単独で改選議席124の過半数63を獲得した。岸田文雄政権が勝敗ラインとしていた公明党と合わせた改選過半数を大きく上回った。憲法改正に前向きな自民、公明、日本維新の会、国民民主の4党合わせた議席は、改憲の発議に必要な参院全体の3分の2以上を確保した。市場関係者の見方は下記の通り。
●日銀金融緩和は継続、目先は137円超えも
<三井住友銀行 チーフストラテジスト 宇野大介氏>
3分の2の議席を確保した改憲勢力の4党は日銀の金融政策について緩和継続派だ。また、岸田首相は安倍晋三元首相の死去を受けて「安倍元首相の思いをしっかりと受け止め、引き継がさせていただきながら、引き続き責任を果たしていきたい」と述べている。日銀の金融緩和継続が導かれた選挙結果となった。
岸田政権は新型コロナウイルスとの闘いやウクライナ情勢への対応、物価高などの経済政策を掲げているが、着手するにしても秋以降となる。供給の目詰まりを緩和するような話がでているものの、円安の一因と言われている金融緩和の手を緩めることは考えにくい。
日本サイドからの円安の動きをとどまらせるような対応は選挙結果からは得られず、円安は続いていく。目先のターゲットとしては137.50円と直近の高値を超えると予想する。
●思惑は出ても金融政策の転換には直結しづらい
<みずほ証券 チーフ債券ストラテジスト 丹治倫敦氏>
今回の参院選は大方の事前予想通り、与党の勝利に終わったと解釈できる。また、選挙前には安倍元首相が演説中に銃撃され、死亡する事件が起きた。一連の出来事を受けて岸田政権の自民党内での政治的な力が強まった結果、経済政策にも影響が出る可能性が市場の一部でも意識されるかもしれない。特に、安倍氏の死去によって経済政策の「アベノミクス」色が弱まり金融政策にも影響が出るとの思惑は生じやすいだろう。
一方で、先週末以降の政治的な出来事が経済政策、特に金融政策の転換につながる可能性は低いと考える。
そもそも、岸田政権が現時点で緩和継続を志向しているのは、岸田首相と安倍元首相との距離感といった政治ゴシップ的な側面よりも、政策的なコスト・リターンを考慮した結果の自然な帰結という側面が強い。金融引き締めは海外要因によるエネルギー・食料価格の上昇には効果がないほか、円安に対抗しようと思えば大幅な引き締めが必要であり、景気を悪化させた結果物価が上昇する中で賃金が下落することになりかねないからだ
。また今回の参院選の勝利からも読み取れるように、円安が進む中でも今のところ岸田政権の支持率は安定しており、コスト対比のリターンが見合わないと承知の上で円安と戦っているという「パフォーマンス」のために金融引き締めを促さなければならないほど追い詰められた状況でもない。
岸田政権の党内での力が強まることで独自色を出しやすくなり、それが結果的に反「アベノミクス」的な政策につながる可能性も無くはないが、それは主として規制・構造改革分野、いわゆるアベノミクスの「第3の矢」に当たる部分である可能性が高い。
金融政策に関しては岸田政権は一貫して緩和継続を主張しており、金融緩和解除・引き締めに対する強い意志を持っていることは読み取れない。
財政政策の分野では、岸田首相と所属派閥である宏池会が元々財政緊縮派と目されるだけに、岸田首相の影響力が強まれば、特に結果として長期政権となれば、中長期的には国債発行額に対して発行減額方向でのインパクトが生じる可能性がある。
ただ、足元の岸田政権は防衛費増額やグリーン・トランスフォーメーション(GX)経済移行などの財政拡張的な色が濃い政策を公約に掲げており、急速に緊縮方向に舵を切るとは想定しづらい。そもそも近年では国債市場発行額の増減については大部分を国庫短期証券(TB)発行額の増減で賄うことが慣習化しており、イールドカーブ全体へのインパクトという意味ではなおさら限定されやすい。
●岸田政権の長期化濃厚、日本株優位の状況継続か
<三菱UFJモルガンスタンレー証券 チーフ投資ストラテジスト 藤戸則弘氏>
参議院選挙は自民党が大勝したと言ってよい結果となった。これを受け、岸田政権の長期化シナリオが濃厚になり、マーケットはポジティブに反応している。欧米が政治的な混迷を深める中で、元々、岸田政権の支持率はかなり高く、欧米とは隔絶している。欧米諸国に比べて日本の政治的安定度はかなり評価されるだろう。
日経平均のバリュエーションは低い状況が継続し割安感がある上に、円安傾向も続いている。加えて、政治的な安定が評価され、欧米株に比べて相対的にパフォーマンスが上回る傾向は続くとみている。ただ、世界景気の減速懸念、状況によっては景気後退リスクもある中で日本株の上値余地は限定的になるのではないか。
米金融政策引き締めの動向は、引き続き市場のテーマとなりそうだ。先週末に公表された米雇用統計は堅調な結果となり、今週には米消費者物価指数(CPI)の公表も控えている。6月分の米CPIも強い伸びが想定されており、インフレのピークアウト感が出る可能性は低いだろう。以上を踏まえると、欧米株が一段と上方向を試すシナリオは考えづらく、日経平均も2万7000円近辺までは上昇しても、徐々に様子見姿勢が強まるとみている。
●改憲の前にコロナ・エネルギー・インフレ対応
<ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト 矢嶋 康次氏>
自民党の大勝で岸田文雄首相は独自のカラーを打ち出しやすくなった。8月とみられる内閣改造・党人事が当面の注目点だ。改憲の機運も高まりやすい。
しかし、国民の今の関心は、新型コロナ、エネルギー、そしてインフレだ。エネルギーでは原発再稼働という難しい決断を迫られる。先進国ではインフレへの批判が高まる中、政権の支持率が低下しており、岸田政権もこれからこの問題に直面するだろう。
「アベノミクス」という言葉は使わなくなるとしても、現状では緊縮的な政策に転換するのは難しい。緩和的な政策を継続しながら、これらの諸問題に対応していく可能性が大きいとみている。
●岸田政権に好結果、銃撃事件は接戦区で影響
<政治評論家(自民元幹部職員) 田村重信氏>
与党で過半数、目標も超えた。改憲4党で82を上回り、岸田政権には非常に良い結果となった。
安倍晋三元首相の事件は(投票に)影響があったとみている。接戦区で自民勝利につながった可能性がある。比例票も予想より増えている。今後の政権運営にも影響が出そうで、憲法改正には弾みがつきそうだ。経済政策で「アベノミクス」の転換もやりやすくなっただろう。
問題は円安と物価高。岸田首相として経済政策をどうするか、30年間給料が上がっていない問題をどうするか、真正面から受けとめることが必要だ。経済をどう活性化するかが問われる。
日本維新の会は議席を伸ばしており、成果があったと言える。
*内容を追加しました
10日に投開票された参議院選挙で、NHKなど国内メディアによると、与党の自民党が単独で改選議席124の過半数63を獲得した。自民党本部で代表撮影(2022年 ロイター)
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