心理戦、世論戦、法律戦。これらの「三戦」は中国共産党が「戦わずして勝つ」ための重要な戦略となっている。心理戦は敵を萎縮させ、世論戦は大衆の心を形成し、法律戦は法体系を用いて敵の攻撃を抑止する活動だー。
この言葉は、仏国防省傘下のシンクタンク軍事学校戦略研究所(IRSEM)が最近発行した、中国共産党の世界的な影響工作を包括的に示した報告書に記されている。執筆者2人が2年あまりかけて50人以上の専門家に見解を聞き、数百の資料を元に作られた。その量は600ページ以上に及ぶ。
分析によれば、中国共産党政権は「統一戦線」と「三戦」を組み合わせた基盤をもとに、西側の民主主義国に影響をもたらす活動を展開していると指摘した。
中国共産党の初代最高指導者である毛沢東が「魔法の武器」と表現した「統一戦線」は、政権が「内外の敵を排除し、権威に挑戦する集団を統制し、党を中心とした連合を構築して利益を追求し、海外に影響力を投じる」政策であると報告書に記述されている。
広範囲にわたる活動
中国政府は国家や党組織など広範な影響工作のためのネットワークを構築してきた。IRSEMによると、中国の対外工作は2つの主要な目的がある。「中国の肯定的なイメージを作り上げ、海外の人々を誘惑し、服従させること」、そして「浸透し、強要すること」だ。
「浸透は、党の利益に反するいかなる行為も制圧し、対立する社会にゆっくりと潜入すること」 「強制は、懲罰的または強制的な外交を徐々に拡大し、党の利益を脅かす国家、組織、企業、個人に組織的な制裁政策を取ること」だと報告書は記述する。
統一戦線
報告書によると、中国政府の海外における統一戦線の多くは、中国大使館や統一戦線工作部など、中国共産党機関によって緩やかに組織された 「仲介者の不透明なネットワーク」 を通じて行われている。
米国のデービッド・スティルウェル国務次官(当時)は2020年の講演で、中国共産党は何千もの海外グループを活用して、政治的影響力を行使し、反体制運動を抑圧し、機密情報を集め、中国への技術移転を促進していると指摘。そのほとんどが「草の根型のNGO、文化交流フォーラム、メディアや学術団体などを装っている」と述べた。
報告書では、その一例として中国・米国交流基金会(CUSEF)を取り上げた。
CUSEFは、中国人民政治協商会議(CPPCC)の副主席・董慶華氏が代表を務める香港の非営利団体。同団体は、2009年から2017年にかけて、ウォール・ストリート・ジャーナルやニューヨーク・タイムズ、AP通信など35のメディアの幹部や編集者と会食や会合を開催した。CUSEFが外国代理人登録法(FARA)に基づき開示した情報によると、会食は「報道業界のリーダーたちから支援を得る上で、計り知れない効果がある」と説明した。
抑圧
報告書によると、華人は中国の影響工作の「優先的なターゲット」となっている。IRSEMはその目的は「彼らが権力への脅威とならないように支配すること」と、「自国の利益のために動員する」ことにあると述べた。
国際NGO団体フリーダムハウスは2月の報告書で、海外在住のウイグル人や法輪功学習者は、中国共産党が起用した諜報員などから身体的な攻撃や脅迫、監視に直面していると発表した。
フリーダムハウスはその一例として、中国の悪名高い「馬三家労働教養所」に不当に投獄され、生死をさまよう拷問を受けながらも生き延びた法輪功学習者、孫毅氏を挙げた。同氏は収監されていたとき、SOSの手紙を自分が生産した輸出用のハロウィーンの飾り箱に忍び込ませた。それを購入した米国人女性が見つけ、世界を駆けるニュースとなった。
孫氏は出所後、自身の経験を記したドキュメンタリー映画を撮影した。中国を脱出することに成功し、インドネシアに渡った。しかし、映画の完成前に突然の不審死を遂げた。海外にいる間も、孫氏は中国公安当局者の接触を受けていた。検死が行われることなく、病院側は急いで遺体を火葬。家族は、警察に捜査を求めたが、受け入れられていない。
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