韓国製ミサイルの射程や弾頭重量を制限する取り決めであった「米韓ミサイル指針」が、完全に撤廃された。 2021年5月21日に開催された文在寅(Moon Jae-in)韓国大統領とジョー・バイデン米大統領の米韓首脳会談後の記者会見で発表された。
アナリスト等の見解によると、今回の制限解除により、韓国が高まりつつある北朝鮮のミサイル脅威に対応して自国を防御する能力を強化できるようになる。さらに、この措置は北朝鮮政府と中国政府に対して米国の断固たる姿勢を示す役割も果たしている。また、将来的な韓国からのミサイル輸出の可能性も視野に入っている。
大韓民国(ROK)陸軍の大将を務めた経歴を持つ韓国国家戦略研究所の文聖墨(Moon Sung-mook)上級研究員はFORUMに対して、「北朝鮮のように、韓国にICBM[大陸間弾道ミサイル]を開発する必要性があるとは思えないが、米韓ミサイル指針の廃止により韓国のミサイル能力だけでなく米韓同盟による抑止力も強化される」と説明している。
文上級研究員の説明によると、韓国の国防科学研究所(ADD)が初の国産短距離地対地ミサイルNHK-1「白熊」を開発した翌年に当たる1979年に締結された米韓ミサイル指針により、韓国で開発できるミサイルが射程180キロ、弾頭重量500キロに制限された。韓国が強力な新ミサイルを開発することで北方近隣の中国、北朝鮮、ロシアとの緊張が高まることを懸念した米国が、ミサイルの技術を提供する代わりに課した制限が米韓ミサイル指針である。
同上級研究員は、「しかし、北朝鮮による核とミサイルの脅威の高まりに伴い、昨年までの間に4回にわたり米韓間で同指針が改訂されたことで射程制限は800キロまで伸びていた」とし、「改訂の間に弾頭重量制限は廃止され、人工衛星打ち上げロケットへの固体燃料使用禁止も解除された」と述べている。
韓国政府系報道機関の聯合ニュース(Yonhap News Agency)が報じたところでは、今回の制限排除により原則的には韓国は朝鮮半島の軍事境界線よりも北に到達する射程のミサイルを開発できることになる。
大陸間弾道ミサイルの実験に満足した北朝鮮は現在、韓国が標的となり得る短距離ミサイルの開発に焦点を合わせていると説明した同上級研究員は、「ミサイル指針を廃止したことで韓国と米国は北朝鮮と中国に特定の重要な姿勢を示すことができた」と話している。
聯合ニュースの報道では、北朝鮮政府は国営通信社を通じて指針廃止を批判している。北朝鮮が米国本土まで到達可能なミサイルを開発している事実を指摘した同上級研究員は、同国の金正恩(Kim Jong-un)総書記の非難を「二枚舌」として一笑に付した。
同上級研究員の説明によると、ミサイルは輸入するよりも国内開発するほうが費用対効果が良く、これが将来的に韓国の一収入源になる可能性もある。
同上級研究員は、「韓国独自の弾道ミサイルと巡航ミサイル技術は相当に高い精度と能力に達している」とし、「米韓ミサイル指針の撤廃により、他諸国が韓国製ミサイルの輸入に関心を持つようになる可能性が十分にある」と述べている。
(Indo-Pacific Defence Forum)
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