米国、英国、欧州連合(EU)、カナダは22日、ウイグル人に対する重大な人権侵害に関与した中国政府関係者に対する制裁措置を共同で発表した。オーストラリアとニュージーランド(NZ)の外相もまた23日、この制裁措置を歓迎すると表明した。主要国が足並みをそろえるなか、制裁法の作成段階にある日本の対処も注目される。
欧米は足並みそろえ制裁発動 日本の議連、本国会で制裁法成立目指す
中国共産党による新疆ウイグル自治区の少数民族に対する恣意的な拘束、強制労働、強制不妊手術などの大規模な弾圧について、米国務省や複数国の政府、議会がジェノサイド(大量虐殺)と認定している。この責任を中国政府に問うため、欧米主要国は協調的な取り組みを行った。
いっぽう、日本は制裁について言及を避けた。主要7カ国(G7)で対中制裁に参加していないのは日本だけとなった。加藤勝信官房長官は23日の閣議後の記者会見で、中国の新疆ウイグル自治区の人権状況に関し「深刻な懸念」を表明するも、日本国内法には「人権問題のみで制裁を実施する規定はない」と述べた。
茂木敏充外相は23日、参院外交防衛委員会で、日本独自の制裁について「人権侵害を認定して制裁を科すような制度を導入すべきかについては、これまでの人権外交との関係や国際社会の動向など、さまざまな観点からの分析、検討が必要だ」と述べ、態度をあいまいにした。
米国務省のポーター副報道官は22日の記者会見で、日本が欧米の制裁に同調するかどうかは日本が判断することだと述べた。
道半ば 日本の人権制裁法
ウイグル人弾圧問題をめぐっては、日本でも中国への制裁措置に関する議論が国家安全保障局(NSS)や経済産業省、国会議員の間で始まっている。超党派国会議員は、人権侵害者に対する制裁法を制定させる議員連盟の結成を表明しており、3月24日に発起人会を開く。同議連は、今国会中の人権侵害制裁法の議員立法を目指す方針という。佐藤正久議員の公表によれば、25日、自民党外交部会の人権外交PTは、日本ウイグル協会からヒアリングする。さらに、中国側からもヒアリングして提言をまとめるという。
日本における外国組織や個人に対する経済制裁措置は、従来から国連安全保障理事会決議に基づき、テロ組織やイラン、北朝鮮に対して実施されている。他国内の人権侵害を理由にした制裁はアパルトヘイト(人種隔離政策)以来、しばらく行われていない。
日本では「外国為替及び外国貿易法(外為法)」で、貿易規制や取引規制を行うことはできる。「国際約束を履行する必要がある」「国際平和のための努力に日本も寄与する必要があるとき」を要件として、経済制裁措置が発動できる。
中国の人権問題に詳しい、自由インド太平洋連盟副会長兼日本代表・石井英俊氏は大紀元の取材に対して、「日本は現在、人権外交を掲げており、対応が求められる。国会で与野党を問わず議論されているが、単なる議論で終わらないことを願う。早く行動しなければならない」と述べた。
シンガポール国立大学で政治学を専門に扱う莊嘉穎博士は、米インド太平洋軍運営のメディアの取材に対して、日本は制裁対象を絞り、米国の法律と同様の法案が作られる可能性が高いと語った。「(日本にとって)国連決議がない限り制裁は難しい状況だが、そもそも国連安保理常任理事国の中国が、(中国制裁)決議を認めるはずがない」
「中国によるウイグル人の組織的な弾圧に対する国際社会からの注目が十分に高まっている。民主主義を謳い、国際社会の指導者的役割を果たしていると自負する国家が、こうした状況を無視できなくなっている」と説明する。
オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が2020年3月に発表した報告書で、強制労働を含むウイグル人労働者の関与が指摘された主要国際ブランドは83社ある。そのなかで、14社の日本企業が名指しされた。一部の日本企業は指摘を受けて独自調査を行い、強制労働への関与があった場合は排除すると発表している。
IPAC日本共同代表議員「日本は毅然と行動しなければ」
中国外務省は22日、欧米の制裁措置に対する報復として「対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)」に加盟する欧州議員や中国人権問題を指摘する学者ら10人の個人と4団体への制裁を発表した。中国への渡航禁止、中国とのビジネス禁止が含まれる。
山尾志桜里議員は中国の報復制裁の発表を受けて、「日本が制裁法成立に向けて弱腰になれば、中国は反撃が奏功したとみるし、連携する国々は失望する。だからこそ日本は毅然と行動しなければならない」とSNSに書いた。別のツイートでは、「人権と国益に与野党の別はない。超党派で真剣に議論して結果を出したい」と意気込みを書いた。
昨年10月、米国、日本、多数の欧州連合(EU)加盟国など39カ国は、少数民族ウイグル人、チベット人の人権を尊重するよう中国に求めた。さらに、香港の状況への懸念も表明した。
22日に発表された3種の制裁措置は、新疆生産建設兵団と新疆公安局の個人を対象としている。両組織は多数の大手中国テクノロジー企業と契約し、集団収容所や監視システムを構築してきた。米トランプ政権は昨夏、両組織を制裁した。
1989年の天安門事件以来、EUが中国の人権侵害を理由に制裁を科すのは今回が初めて。英国もグローバル人権制裁法の発動は今回が初となる。
人権問題については、先週、アラスカで行われた初の米中ハイレベル戦略対話で、米国のアントニー・ブリンケン国務長官とジェイク・サリバン国家安全保障顧問が、中国の楊潔篪国務委員、王毅外交部長に対して突きつけている。楊氏はこの問題を含む米側の指摘に憤り、16分以上の通訳のない主張を行った。
(佐渡道世)
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