中国批判声明めぐる共同通信の記事、国会議員「事実と異なる」相次ぎ指摘

2020/06/08
更新: 2020/06/08

共同通信は6月7日、中国による香港版国家安全法制の導入について「日本政府は欧米から打診された中国を批判する共同声明への参加を拒否した」と報じた。しかし、日本の国会議員らは報道内容は「事実と異なる」と指摘している。日本政府はすでに5月28日、安全法制導入をめぐり、駐日中国大使を呼び出し、深い懸念を伝えている。

共同通信ワシントン支局は7日、匿名の関係国当局者の話として、日本政府が参加を拒否した理由を挙げている。「中国と関係改善を目指す日本側は欧米諸国に追随せず」「習近平国家主席の国賓訪日に向けて中国を刺激するのを回避する狙い」。これについて、「米国など関係国の間では日本の対応に失望の声が出ている」と書いている。

香港版国家安全法制は5月、中国の全国人民代表大会(全人代)で可決した。香港当局が反体制派と見なした勢力の言論や行動を一層厳しく鎮圧する法律となる。菅義偉官房長官は28日の記者会見で、「国際社会や香港市民が強く懸念する中で(採択が)なされたことや、それに関連する香港情勢を深く憂慮する」と述べた。同日、外務省・秋葉剛男外務事務次官は、孔鉉佑駐日中国大使を呼び、香港情勢への懸念と、香港は「我が国にとって緊密な経済関係および人的交流を有する極めて重要なパートナー」であり、一国二制度の維持を支持するなどの申し入れを行った。

共同通信6月7日付の記事のなかにある「共同声明」が、どの声明を指すのかは報道にない。5月28日、英語圏多国間情報協定ファイブ・アイズに加盟する5カ国のうちニュージーランドを除くアメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダの4カ国の外相が、香港版国家安全法制について批判声明を発表しており、これを指すと見られる。

菅官房長官は8日の定例記者会見で、「共同声明の拒否」に関する一部報道についての質問に答えた。菅長官は「ほかの関係国に先駆けて、直ちに『深い憂慮』を表明し、強い立場をハイレベルで中国側に伝達した。国際社会にも明確に発信している」と述べた。また、米英をはじめとする関係国は、香港情勢をめぐる日本の対応を評価しており、「失望の声が伝えられているという事実は全くない」とした。

日本の国会議員は相次ぎ誤報であるとの指摘を行った。

長尾敬衆議院議員は7日、「日本政府が米国や英国などの共同声明に参加を打診された、という事実はないようだ」とツイートした。

片山さつき参議院議員も同日、外務次官との話として「G7で香港問題につき中国大使を呼んで抗議したのは日本だけ」とし、日本は香港版安全法制について否定的な態度をすでに表明していることを強調した。「声明には独仏も参加しておらず、突然言われても、というだけの話」と、共同声明への参加の呼びかけも確認できていないとした。

山田宏参議院議員は同日、「酷い印象操作記事。当初、各国足並みの揃わない時期未定の共同声明ではなく、速やかに明確な形でわが国は独自の声明を出した。後追いでEUが同様の『深い懸念』声明となったというのが事実」と書いた。また、海外メディアも共同通信の記事内容を引用していることを受けて、「外務省に速やかに正確な情報発信をするよう要請した。不審火は即座に消さないと大変なことになる」と書いた。

共同通信の記事は英語版「Kyodo News」でも配信され、これまでに通信社のブルームバーグ、ロイターがそれを引用して報道している。

元共同通信記者である青山繫晴参議院議員は、7日からのブログ記事で、共同通信の記事には「いつ、どこで、どの国の誰から、どのように打診されたかが、全くない」と報道記事の要素が抜けていると指摘。「共同通信の信頼性にとって、あり得ないほどの致命的な不祥事」と厳しく批判した。

香港の自由と民主主義の危機を憂慮する、25カ国の230人以上の国会議員らは、中国政府に対して香港版国家安全法制の撤回を求める声明に署名している。自民党の有志議員らも参加を呼び掛けている。声明は、香港の高度な自治を2047年まで保障した中英共同宣言に対する「明白な違反」と指摘している。

(編集・佐渡道世)