中国問題専門家は、米中貿易戦の激化と米政府の華為技術(ファーウェイ)禁輸措置によって、中国当局が混乱に陥っていると指摘した。
米ITニュースサイト「ザ・ヴァージ(The Verge)」は5月29日、米中関係について中国問題専門家2人を取材した記事を掲載した。記事は、トランプ米政権の中国通信機器大手のファーウェイ禁輸措置は、科学技術歴史上の大事件とたとえた。米政府の制裁で、次世代通信規格(5G)通信網構築の有力なサプライヤーとされたファーウェイは現在、八方塞がりになった。
ロイター通信など複数のメディアによると、ファーウェイは17日、米政府の制裁の影響で今後2年間の売上高が事前予想と比べて約300億ドル(約3兆2570億円)減少するとの見通しを明らかにした。
欧州シンクタンク、欧州国際政治経済研究所(European Centre for Internaitional Political Economy、ECIPE)のディレクターを務めるホスク・リーマキヤマ(Hosuk Lee-Makiyama)氏は、中国当局が先に「貿易戦を仕掛けた」と指摘した。中国当局は国内企業保護のため、数年前から米製品の一部に対して関税を課し、米グーグルやフェイスブックなどのIT企業を中国市場から排除した。
豪シンクタンク、ローウィー研究所(Lowy Institute)のエリオット・ザーグマン(Elliott Zaagman)氏は中国に10年間滞在したことがある。同氏は、中国経済は表面的には繁栄しているように見えるが、実際には脆弱だと強調した。「中国の経済成長は、生産活動ではなく、完全に投資に頼っている」ため、中国当局が成長率目標を達成するには、より多くの融資が必要だという。「中国当局の金融拡張規模は、主要国の中央銀行である米連邦準備制度理事会(FRB)、日本銀行と欧州中央銀行の合計よりも大きい」
「ザ・ヴァージ」は、中国経済がネズミ講(Pyramid scheme)に近いと指摘した。
専門家は、中国側が持つ切り札は米国債の大量売却、レアアース、中国国内の米国企業への報復措置があるとした。しかし、深刻な景気低迷の中で、これらのカードを出しても、逆に中国側に大きな損害をもたらすとの見方を示した。
中国当局は1兆ドル規模の米国債を保有しているとみられる。中国当局が米国債を大量に売却するかに注目が集まっている。専門家はこの可能性を否定している。中国側が世界金融市場で米国債を大量に売れば、米国債の価格が下落し、利回りが上昇する。米国債の利回り上昇に伴い、米国内の社債や住宅ローンの金利も跳ね上がるため、消費者や企業の活動に悪影響を与え、経済の減速を招き、ドル安も進む。これによって、中国当局の手元に残る米国債の価値も急に目減りし、米の需要減少で米国向けの輸出もさらに鈍化する可能性がある。中国当局にとって得策ではない。
レアアースのカードも勝算の可能性は低い。リーマキヤマ氏は、日本の例を挙げた。2010年、領土問題で日中関係が緊張した際、世界最大のレアアース生産国である中国当局は、日本企業に対してレアアースの輸出を禁止した。日本政府と企業はレアアースの中国依存を脱却するために、近年代替原料の技術開発を進めてきた。また日本の研究チームは昨年、近海の海底下にレアアース資源を発見した。リーマキヤマ氏によると、米政府の企業も日本と同様に、近年レアアースの中国依存を脱却しようと努めている。
「ザ・ヴァージ」は、現段階では、中国当局が有効な報復措置として、中国に進出している米企業に制裁を加えることだとの認識を示した。リーマキヤマ氏は、この措置も逆に中国当局を苦しめることになるとの考えを示した。アップル、ナイキ、ゼネラル・モーターズ、ウォルマートなどの米企業が数百万人以上の中国人労働者を雇用しているからだ。報復措置で、中国人労働者が職を失い、その怒りの矛先を中国当局に向けることになる。また、米企業への締め付けが強ければ強いほど、トランプ政権にさらなる強硬措置を打ち出す理由を与えることにもなる。
リーマキヤマ氏は、米中貿易戦の激化で、米国内総生産(GDP)成長率が3%水準から2%水準に低下し、米経済は減速すると予測されるが、その影響は限定的だとした。一方、中国GDP成長率が同じく1%下落すれば、中国経済にとっては「壊滅的な影響を受ける」とリーマキヤマ氏とザーグマン氏が口を揃えた。
ザーグマン氏によれば、米中貿易摩擦などの問題で「疾風迅雷の進撃」をしてきたトランプ大統領について、中国当局は「常に不意を突かれている」「予想もつかない」ために困り果てているという。
両専門家は、中国当局が完全にパニック状態に陥っていると指摘した。
(翻訳編集・張哲)
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