必死の中国と余裕のアメリカ G20米中「停戦協定」で勝負は持ち越し

2018/12/10
更新: 2018/12/10

ブエノスアイレスで開かれたG20サミットには一つの重要な目的があった。それは米中間で貿易の合意を達成することだ。しかし、公開された合意文書を見れば、それが事実的な合意というより、むしろ外交的な停戦に過ぎないと分かる。

アメリカは2019年1月1日に予定されていた対中関税の引き上げを先延ばしすることで合意した。その代り、中国は、外資企業に対する法的保護の改善や資本市場の開放、知的財産権の保護に努力すると約束した上、アメリカからより多くの農作物とエネルギー関連製品(液化天然ガス等)を購入することにした。しかし、その約束は漠然としたものだった。

貿易戦争は新しいことだと思うかもしれないが、それは違うだろう。事実、アメリカと中国は長年貿易戦争を行ってきた。アメリカは中国やその他の国家の貿易障壁を長年非難してきたにもかかわらず、世界貿易機関が何ら対策を取らなかった。アメリカは世界で最も開かれた経済主体であったにもかかわらず、前政権のときからG20内のどの国よりも多くの保護貿易主義的手段を採用してきた。

死にもの狂いの中国

中国はそのいびつな経済発展を維持するため、対米貿易黒字を維持しなければならない。中国はアメリカ以上に米国債を必要としている。中国はアメリカ国債の主要な持ち主ではなく、最大の外国の買主でもない。米国債の最大の保有者は北米の民間銀行と連邦準備制度理事会を含む各種機関である。

アメリカ国債に対する需要は依然として大きく、利回りは大きく変わっていない。その間、中国の外貨備蓄は減少し続けている。

10月には中国の外貨準備高は3兆8261億円減少し、18か月以来最低水準となった。これは2016年12月以来最大規模の減少であり、中国の外貨準備高は2017年4月以来最低基準となった。

巨大な債務バブルにより、対米貿易額が減少すると、中国は経済成長を維持することが難しくなる。対米貿易の減少分をまかなえる市場は一つもない。中国の対米黒字は毎年4兆円に上り、アメリカは中国の最大輸出相手国となっている。

中国の対外貿易額の減少はその外貨準備高の減少を意味する。2014年度の外貨準備高よりも30%減少した現在の中国にとって一大事だ。

もたらされる結果

外貨準備高の崩壊は現在の資本逃避をさらに加速させ、その結果さらに厳しい資本流出規制をもたらす。資本流出規制は低い成長率をもたらし、すでに高く積みあがった債務をさらに増加させ、人民元の価値の下落につながる。2018年にも上記と同じような問題が起こったが、小規模にとどまった。

つまり、貿易戦争はアメリカにとってマイナスであるが、中国にとっては壊滅的なのだ。

アメリカのGDPに占める輸出の割合は11%と低いため、アメリカはいかなる圧力にも対抗することができる。したがって、米国と中国が貿易戦争から受ける影響は等しくないのだ。

ただの話し合い

G-20サミットにおける米中合意は暫定的な休戦協定に過ぎない。中国は知的財産権の保護や資本流出管理の撤廃、そして政府の経済に対する過大な介入をやめるつもりは全くない。

それどころか、たとえアメリカの対中輸出が増加しても、中国の貿易黒字に変わりはない。中国の対米貿易黒字は今年1月の4兆円から9月の4兆5000億円に急増した。たとえ中国がアメリカから二倍の農産品とエネルギー関連製品を購入しても、中国の貿易黒字額はたった3400億円しか減少しない。

今回の合意はただの暫定的な「停戦合意」であり、状況の改善がなければ25%の追加関税が中国に課される。

米中の齟齬

今回の合意について米中両政府の発表が異なっている。

アメリカ側は、中国は知的財産権保護や資本規制等に関する政策を転換するだろうと発表したのに対し、中国側はただ「(米国と)協力していく」と発表した。アメリカは、合意は90日間の期限付きのものであるとしたが、中国は期限について言及しなかった。さらに、中国が北米の特定の産業製品の輸入量を増加するとアメリカは言っているが、中国はより多くの製品を買うとだけ言っている。

今回の合意は米中両国の貿易政策を変えることはないだろう。むしろ失敗に終わった5月の合意に似ている。実際の貿易に変化が起こるか我々は辛抱強く見守る必要がある。もし中国政府が人民元安と、金融業や企業に対する融資を続けているのなら、それは中国政府が今回の合意を守らないというシグナルである。

今回の米中合意が世界を再び成長軌道に乗せ、株式市場を新たな高みに導くと思うのは賢明とは言えないだろう。逆に、今回の米中「取引」が世界貿易に良い影響を与えないことは事実である。

(この文章は、ヘッジファンド「Tressis Gestion SGIIC」主席経済分析担当ダニエル・ラッセル(Daniel Lacalle)氏による英文大紀元EpochTimesへ寄稿されたもの/翻訳・文亮)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。