パプアニューギニアで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、米副大統領は演説でアジア太平洋諸国に対し、中国政府との返済困難な融資契約を懸念して、主権を害する重い負債を受け入れないよう警戒を促した。フィリピン財務相はAPEC開催期間中、一帯一路関連協定を見直すと発表した。
フィリピンの最大手紙マニラ・ブルテンによると、財務相カルロス・ドミンゲス3世は一帯一路協議の見直しについて「言われているような事(重度債務と主権侵害)がフィリピンの状況に合致しているかどうかを検討している」と述べた。
2016年にドゥテルテ政権誕生以来、同盟国である米国との距離を置き中国接近が見られ、多くのインフラ建設を中国側に委託してきた。国内では240億米ドル(約2兆7千億円)もの中国との融資契約や、現地経済に反映しない中国企業への委託に政権批判がおきていた。同報道によるとドゥテルテ政権の支持率は低下している。
2018年8月、ドゥテルテ大統領は中国共産党政府に対して批判的な姿勢を示してきた。係争中の南シナ海問題について、北京に「再考」と「行動の緩和」を求めた。
相次ぐ「一帯一路」キャンセル 10月中旬までに300億米ドル
米政府系ボイス・オブ・アメリカの報道によると、アジア、アフリカ、ヨーロッパの68カ国が参加する中国の広範囲経済構想「一帯一路」で、少なくとも13カ国が債務危機に陥っている。10月中旬までに、同構想に参加する国々はプロジェクトの見直しや停止を決め、変更額は300億米ドル(約3兆4千億円)に及ぶ。
8月に就任したばかりのパキスタンのイムラン・カーン首相は、前政権と中国が結んだ複数のインフラ計画のための融資の規模を縮小する措置を取った。カーン首相は縮小について「富を創造しておらず、赤字を創造している」と表現した。
マレーシアのマハティール政権は、中国出資の鉄道プロジェクトの当面中止、および中国主導の海上都市構想の見直しを決めた。スリランカやモルディブなど他のアジア諸国でも、前政権が締結した中国との契約に懸念を示す新政権が誕生した。
中国銀行、中国企業による 現地経済に寄与しないプロジェクト
英字紙サウスチャイナ・モーニングポストは、中国政府が約束した電気および輸送プロジェクトのための約260億〜300億米ドルの融資は、パキスタンの銀行に一文も入っていないと報じた。
その仕組みは、融資計画の枠組み内で中国銀行が中国企業に融資し、中国で設備を購入・調達し、在パキスタンの中国企業が建設を請け負っている。結果、中国主導のインフラ計画はパキスタンに経済的利益をもたらしておらず、しかもパキスタンに巨額の債務を負担させ、債務不履行のリスクを高めた。パキスタンは最近、国際通貨基金(IMF)の緊急援助を要請した。
調査会社FTコンフィデンシャル・リサーチ(FTCR)は世界銀行のデータを引用して、東南アジア6カ国の対外債務水準が、債務危機が危ぶまれる途上国水準よりも高いと指摘した。
例えば、ラオスの対外債務は国民総所得(GNI)の93.1%を占めており、途上国の平均26%をはるかに上回っている。これに続いて、マレーシアでは69.6%、カンボジアでは54.4%だった。ベトナム、インドネシア、タイの対外債務比率も全体の平均を大きく上回っている。
FTCRの報告は、6カ国の債務危機の懸念は、一帯一路の関連契約と融資による影響が大きいと書いている。
APECの演説で、ペンス米副大統領は中国の一帯一路を念頭に「米国のパートナーを借金で溺死させない」「国の主権を損なう危険な対外債務を負わないように」と各国首脳に呼び掛けた。
「国民の権利を奪うような政府は、しばしば近隣諸国の権利もはばかることなく侵害する」とし、インド太平洋地域において権威主義と侵略行為は容認できないと述べた。また脅迫、腐敗、独立性を犯したりするような行為も許されないと付け加えた。
安倍首相はAPEC演説のなかで自由貿易の重要性を強調した。首相はインド太平洋地域の同盟国とともに、日米印豪が主体となる自由で開かれたルールに基づく外交、貿易、経済および安全保障にまたがる構想を打ち出している。
(編集・佐渡道世)
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