世界の二大経済大国・米国と中国の間では、激しい貿易紛争をはじめ、さまざまな問題をめぐり緊張が高まっている。米中の専門家は、両国関係の悪化は、表面的には通商分野の衝突によるものだが、根本には民主主義対共産主義のイデオロギーや価値観をめぐる対立と闘争があると分析する。
米ジョンズ・ホプキンズ大学国際教養学科のハル・ブランズ(Hal Brands)教授は最近、米中両国の価値観に根ざした根本的な違いが米中関係に及ぼした影響は、「私たちの認識をはるかに上回っている」と語った。
ブランズ教授は10月18日、ワシントンD.C.のブルッキングス研究所で行われた『価値観による米中の競争への影響』と題したセミナーで、「アメリカは自由で民主的な国として、自由民主主義が強くなることを望んでいる。いっぽう権威主義国家の中国は、共産党政権の権力と生存を維持できる国家秩序の確立を望んでいる」と述べた。
ブランズ氏は、中国共産党政権が自らの政治モデルを広げるなか、中国国内の政治腐敗も海外に輸出し、アジア太平洋地域などの民主主義を破壊していると指摘した。さらに、サハラ砂漠以南のアフリカやラテンアメリカの軍事政権への支援など、権威主義的な政府を支えていると批判した。
オバマ政権時代のアメリカ国家安全保障会議(NSC)アジア太平洋事務局長だったライアン・ハス(Ryan Hass)氏は同セミナーで、中国共産党政権が利益確保と政権の安定をはかることで強引な推進姿勢が目立ち、「無慈悲な機会(日和見)主義者と現実主義者」と例えた。
北京を拠点とする民間シンクタンク・天則経済研究所の張林(Zhang Lin)氏は7月30日、香港英字紙サウスチャイナ・モーニングポストで特集記事を発表、米中両政府の姿勢から、貿易問題が米中の衝突における唯一の争点ではないと述べた。
張氏によると、中国は2001年の世界貿易機関(WTO)加盟後、西側の自由市場モデルである「ワシントン・コンセンサス」と相反する道をたどり、暴走し続けた。腐敗した利益集団が政府主導の経済発展モデルの下で私腹を肥やし、経済自由化と政治改革に抵抗した。張氏は、こうした「中国モデル」を中国共産党政権が海外に広げようとしていると指摘した。
「中国モデル」(Chinese model)とは、中央政府が主導して、国有企業や国内産業が国際市場における競争率や占有率を高める経済政策。大規模な財政刺激策や保護政策などを通じて経済基盤を支えるため、一党支配でなければ実現できないモデルだ。しかし、こうしたモデルは持続可能なものではなく、経済構造そのものを歪め、経済基盤の脆弱(ぜいじゃく)さから逃れられない。
いっぽう、米トランプ政権は、中国モデルの継続が最終的にはアメリカの中核をなす民主主義的価値観と国益を危うくすることを認識し、同盟国と緊密な関係を築き、中国モデルの拡張を断ち切ろうとしている。
「ワシントンか北京か」選択を迫られる世界
貿易戦争を勝ち取るための戦略として、米トランプ政権は同盟国との関係を強化し続けてきた。中国共産党政権の孤立が浮き彫りになりつつある。
張氏は文章のなかで、「アメリカは価値観で敵味方を識別している」と述べ、アメリカの同盟国や多くの国々にとっては、北京との関係よりもアメリカとの関係の方が極めて重要であると認識している。もし敵味方を区別せざるを得なくなるとしたら、多くの国々は北京よりワシントンを選ぶと分析した。
米ワシントンD.C.に本部を置く民間のシンクタンク戦略国際研究所(CSIS)は16日、講演会を開催した。出席した米外交問題評議会(CFR)のエリー・ラトナー上級研究員は講演で、一部のホワイトハウス関係者はアメリカには中国経済への「過度の依存」が問題であると認め、制裁関税の本当の目的はこうした関係を断つことだと語った。
バーバラ・ワイゼル元米通商代表部(USTR)代表補は同講演会で、ペンス副大統領が4日に行った演説から、米中間の紛争が貿易のみならず、より広い範囲の問題を含むことが明らかになったと述べた。トランプ政権は中国の孤立化を図る対中政策で、同盟国には「ワシントンを選ぶしかない」というメッセージを発信していると語った。
(文・呉英/翻訳・王君宜)
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