中国共産党序列5位の王滬寧氏 1カ月姿を見せず、プロパガンダの失敗と関係か

2018/08/07
更新: 2018/08/07

中国最高指導部の1人である王滬寧氏がここ1カ月、公の場に現れていないことに対して国内外から注目が集まった。王氏は党内序列5位で、イデオロギー・プロパガンダを担当する。一部のメディアによると、最高指導部は王氏を自宅軟禁し、政策の失敗について反省を命じているという。

王氏は7月6日、中国共産党の中央全面深化改革委員会会議に出席した後、動向が報じられていない。また、不可解なことに、同月12日に開催された党中央と政府機関の「党の政治建設」関連会議に、主宰者の王滬寧氏は出席しなかった。代わりに、習近平国家主席の側近である丁薛祥・党中央弁公庁主任が会議を仕切った。王氏は、習主席の7月下旬の中東・アフリカ各国の歴訪にも同行せず、異例だと言える。

個人崇拝を強化

海外メディアや専門家は、王氏に関する憶測は党の宣伝に関するいくつかの事件と関係していると推測する。

まず、米中貿易戦が始まる前後、中国共産党のプロパガンダ宣伝は、映画『すごいぞ、わが国(厲害了我的国)』を製作し上映した。映画は共産党の指導を礼賛しながら、中国に対して貿易措置を辞さないトランプ米政権を痛烈に批判した。その後に行われた米中通商交渉において、中国側の担当高官は気まずい状況にあったに違いない。

トランプ大統領が中国に対して貿易措置を次から次へと打ち出し、中国側はようやく米国を罵倒しても全く効果がないことに気づいた。当局がその後、映画の上映を取りやめ、商務部や外交部、政府系メディアによる貿易戦や米政府への攻撃が一段落した。

党がこの局面に追い込まれたことに、イデオロギー・宣伝を担当する王滬寧氏は責任を負わなければならない。7月上旬、海外中国語メディアが掲載した社説で、中国指導部関係者の話を引用し、共産党内部の激しい対立を指摘した。

報道によると、王岐山氏や劉鶴氏などの党内現実主義派は「中国は米国に対抗する実力がない」と主張する一方で、「現実に目を向けない党内の大物」と「陰険で腹黒い保守派」が民族主義を大々的に宣伝し、米国と戦うことを扇動していると指摘した。「現実に目を向けない党内の大物」は王滬寧氏を指しているという。

2つ目は、最近のプロパガンダで、習近平国家主席に対して、過剰な礼賛と持ち上げが行われている。これは、習指導部に対する「高級黒」(ネットスラング。表面的に称賛しているように見えるが、実は風刺し皮肉っていることを指す)の手法だと思われている。これも、王滬寧氏が大きく関与しているとみられる。

昨年秋の党大会以降、王氏は「習近平社会主義新思想」を掲げた後、習近平氏を党の「核心」と位置付けることに大きく貢献した。

米ラジオ・フリーアジア(RFA)の昨年の報道によると、王滬寧氏が中央政治局常務委員に昇任した翌日、国営新華社通信の報道記事に目を通した後、国内メディアに対して、習近平氏に関する報道・宣伝で「指導者」「統帥」などの名称は使っていいが、「偉大な」などの形容詞の使用禁止を指示した。

昨年の党大会が閉幕してから半年後、習近平氏を礼賛する歌、研究、書籍が次々に出され、中国各地で習氏の肖像画入りポスターが大量に貼られ、習氏が「神棚」に祭られたかのように、いわゆる習氏への個人崇拝の動きが一気に広まった。

プロパガンダ政策の転換

一方、7月に入ってから、こういった風向きが変わった。4日、上海の女性が習氏のポスターにインクをかけた。11日、政府系メディアが、個人崇拝で批判された華国鋒元国家主席がかつて最高指導部内で自己批判を行ったとこぞって報道した。これらの出来事の後に、王滬寧氏の動向が分からなくなった。

同時に、各地で習近平氏のポスターの撤去が始まった。また習氏への個人崇拝プロジェクト「梁家河大学問」や各地で行われた「習思想研究」も中止された。明らかに、これまでのプロパガンダ方針と違う。

王滬寧氏の政策失敗は、意図的なのか、それとも政治情勢への判断を誤ったのか。

王氏は上海の名門、復旦大学で教授を務め、マルクス・レーニン主義、共産党理論の講義をしていた。党指導理論の第一人者でトップブレーンとして、江沢民政権、胡錦涛政権、習近平政権を支える「三朝帝師」と呼ばれている。また、党内の熾烈(しれつ)な権力闘争をうまく乗り切り、指導部に居続けた「不倒翁」でもある。

 

王氏は、江政権で「三つの代表」、胡政権で「科学的発展観」と習政権で「習思想」を構築した。異例にも、3人の最高指導者に重用されたことは、王氏のゴーストライターとしての能力の高さ、その党内情勢を見てすぐ対応を決めるずる賢さと大きく関係するだろう。

昨年の党大会でチャイナ・セブン入りを果たした王氏は、プロパガンダのほか、党中央政策研究室主任、党中央全面深化改革領導小組秘書長などの要職を兼任。習近平氏の外国訪問にも常に同行していた。

習氏が王滬寧氏に信頼を寄せたのは、王氏の提唱した政治理論に、習氏が共鳴したからだとみられる。公開されている『王滬寧日記五則』において、王氏がかつて、「社会現代化の過程は、法制化の過程にほかならない。法治がなければ、現代化と言えない」「反腐敗の重点の1つは、反『超腐敗』である。次官レベル以上の幹部の腐敗行為は、反腐敗の重点だ」と唱えた。

一方、習近平政権が2012年に始まってから、反腐敗キャンペーンを展開し、「依法治国(法により国を治める)」と強調してきた。また、2016年3月、習氏は、民主制度および政府改革に関する討論会の開催を王滬寧氏に任せた。この会議では、王氏が指導部内部の対立や、憲政実施をめぐる課題について言及。習氏の王氏に対する信頼を浮き彫りにした。

ただし、昨年党大会以降、中国共産党政権は「習核心」を大々的に宣伝したと同時に、「初心を忘れてはいけない」として、マルクス・レーニン主義に関するプロパガンダを強化するなど、党大会前の宣伝方針と全く変わった。王氏の指示かどうかは定かではない。

この変化によって、中国当局が、改革を大きく推進する機会を逃したのは事実だ。現在、中国国内では、深刻な社会問題、元軍人・元投資家などによる大規模な抗議デモ、金融危機などさまざまな社会不安が起きている。これらはすべて、共産党政権の終焉(しゅうえん)を示唆している。

一方、王滬寧氏をめぐって「自宅軟禁」説、あるいは「失脚」説が広がっていることから、中国最高指導部は、王氏のプロパガンダ政策を見直ししようとしているのが分かる。もし、王氏が意図的に、江派閥と共謀して、わざと「高級黒」政策を出したなら、問題は深刻であろう。

しかし、長年において中国指導部の権力闘争を目にしてきた王滬寧氏は、非常に慎重で計算高いため、ひそかに江派と内通する可能性は低いと思われる。これは、2014年王氏が自ら起草した「三つの代表」を否定したことから見て取れる。

香港誌「争鳴」同年8月の報道によると、当時反腐敗運動の指揮者である王岐山・前中央規律検査委員会書記の前で、王滬寧氏は、部下や親族らの汚職・不正蓄財を放任したなどと自己批判したほか、江沢民のために編み出した「三つの代表」について、「本心からではない」と述べた。

王氏は、国際情勢および国内政治情勢について判断を誤った可能性が高い。王氏が、習国家主席を「強国の指導者」に作り上げようとしたことが失敗だったかもしれない。

中国最高指導部は今後、プロパガンダの面において、習陣営に対して陰謀があったかどうかを精査して、王滬寧氏の去就を決めるであろう。

(大紀元コメンテーター・周暁輝、翻訳編集・張哲)