中国臓器狩り 臓器移植法20年

患者の安全確保できない臓器移植ツーリズム対策求め 埼玉県議会で意見書可決

2017/10/30
更新: 2017/10/30

日本で臓器移植法が制定されてから20年。臓器移植の普及により、機械や薬剤では治療困難だった臓器の機能回復が可能となり、多くの患者が救われた。いっぽう、臓器移植システムの整わない国では、臓器売買や臓器目的の殺人など、闇のビジネスとの繋がりが懸念されている。

臓器移植の環境整備の動きは、世界各国に見られる。このたび、日本政府に臓器移植環境の整備を求める意見書が、埼玉県議会で可決した。

埼玉県県議会は10月13日、定例会議で「臓器移植の環境整備を求める意見書」が全会一致で可決したことを報告した。ここでは、臓器移植と意志提供に関する知識を学ぶため、家族と話し合う機会を増やすよう提言するほか、「国民が臓器移植ネットワークの整わない国で臓器移植を受けることのないよう対策を求める」との海外渡航移植を抑制する文言が盛り込まれた。

関係者の取材によると、埼玉県議会議員たちは、大量殺人が背景にあると疑われる中国の臓器移植ビジネスについて有志団体から伝えられている。意見書は、日本国民が関与することのないよう、中国移植ツアーの規制を国に求めることを念頭に置いたものだという。

通常ではありえない、移植手術まで「待機期間はわずか数時間」

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通常、数カ月~数年を要する移植手術までの待機期間が、中国では最短で「数時間」という医学倫理上ありえないことが起きている。中国衛生部(厚生省)前副部長で中国移植界の権威とされる黄潔夫氏は、8月、AP通信の取材に対して「2020年までに世界トップの臓器移植大国になる」と主張した。しかし、なぜわずか数時間の待機期間で臓器移植を行うことができるのか、大量の移植手術件数をこなしているものの、その臓器の出所はどこなのかを明らかにしていない。

中国が臓器移植手術を大量に行えるのは、ウイグル人、チベット人、政治犯、法輪功学習者ら「良心の囚人」から臓器を強制摘出しているからだと、ノーベル平和賞候補の人権弁護士デービッド・マタス氏、カナダ政府元官僚デービッド・キルガー氏、ジャーナリストのイーサン・ガットマン氏が独自調査の結果に基づいて指摘している。

3人の調べによると、中国の「良心の囚人」たちは、移植手術の適切なタイミングで、本人の意思に関係なく強制的に摘出され、殺害される「生きた臓器バンク」になっているという。

こうした臓器移植をめぐる不正取引を防ぐために、世界65カ国から3000もの研究者が加盟する国際移植学会は2008年5月、移植臓器を自国で確保する努力を呼び掛ける「イスタンブール宣言」を行った。

署名国である日本は2010年、移植法を改正した。大阪大学の国立循環器病研究センター臓器移植部部長・福蔦教偉氏の論文によると、イスタンブール宣言により、患者の安全性を確保することが難しい海外渡航移植は「実質、禁止となった」とし、海外での成人の心臓移植手術は激減したという。

中国で渡航移植した日本人患者へアンケート「後悔の念」低く「他人に勧めた」3割

 

しかし、海外移植渡航者がゼロになったわけではない。アジアを行先とする海外渡航移植を調べる岡山大学大学院の生命倫理学教授・粟屋剛氏は、中国で臓器移植を行った日本人患者にアンケートを行い、その結果を2016年2月、発表した。66人から回答を得ており、9割が男性、50歳代と60歳代が78%を占める。イスタンブール宣言が行われた2008年以降、移植手術を受けた人は48人だった。

アンケートのなかで、「中国で移植を受けたことを後悔しているか」との問いに、イエスと答えたのわずか12%だった。また、中国での移植手術の結果を受けて、渡航移植を他人に勧めた人は3割に上った。

粟屋氏は10数人の患者に対して聞き取り調査を行った。患者の声からは、自ら生命の危機に直面するなか、倫理問題のちらつく中国での移植も、やむを得なかったとの微妙な心理がうかがえる。「なぜ私たちは責められるのか。透析を止めれば死ぬ。中国に臓器があり、移植を受けた。倫理的に問題があるかもしれないが、違法ではない」(60歳代後半、男性、医師)。「つらい透析で生きるより、刑務所に行ってもいいから中国で移植を受けようと思った(そして現に受けた)。なぜ責められるのか。私は何も悪いことはしていない」(60歳代後半、男性、自営業)。

回答した日本人患者たちが、中国での臓器移植には、移植のために殺される人がいるとの「オンデマンド殺人(需要に応じた殺人)」問題を、知らなかった可能性がある。

大紀元特集・中国臓器狩り

「日本人それぞれが(不正取引が懸念される臓器移植ツーリズム)問題の認識を高め、医師らは医療倫理を改め、立法機関は移植ツアーについての法整備を行うことが重要だ」と、粟屋氏とも交流のあるデービッド・マタス弁護士は今年6月の来日時、広く日本社会に向けて助言した。

日本の法整備促す検討会 患者の告知義務を提案

日本の臓器移植について法整備を検討・提言する「臓器移植を考える会」(発起人:加瀬英明氏)が10月に開催した、地方議員向け勉強会では、日本の移植法整備について▼1移植環境の整わない国へ患者をあっせんしたブローカーに対する厳罰化、▼2渡航移植する場合、リスクなどを医師が患者に告知するよう義務づけることが提案された。

イタリアでは、この厳罰化と医師の医療倫理に対する責任を問う法案が2015年に可決している。それによると、生きている人間から違法に摘出された臓器の取引に関わった人間に、3年から12年の禁固刑もしくは5万から30万ユーロ(600万円から3600万円)の罰金を課す。また、違法な臓器の入手を患者に促す医師は、医療倫理に反したとして、医師資格を剥奪される。台湾、スペイン、イスラエルでは移植ツーリズムを禁止している。

日本全国で、同問題の周知と移植法改正を呼び掛ける有志団体「移植ツーリズムを考える会」の根本敬夫氏は、このたびの埼玉県議会の意見書通過を受けて「日本全国の地方議会で、臓器移植法の法整備について意見書が相次いで可決すれば、国会が動き、法改正の実現性が高まるはず」と述べた。

(取材、文・佐渡道世)

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