<赤龍解体記>(86)共産党の機嫌取りか 莫言のノーベル賞受賞に議論

2012/10/15
更新: 2012/10/15

莫言ノーベル賞受賞に議論(GettyImages)

【大紀元日本10月15日】先日、2012年度ノーベル文学賞は中国人の作家で中国作家協会副主席の莫言氏に決定したと発表された。翌12日の記者会見で莫氏は「受賞できたのは文学の勝利で政治の勝利ではない」と述べた。莫氏の受賞について、中国の民間とりわけネット上において、さまざまな議論が沸き起こった。受賞に異議を持つものも少なくない。「中国作家協会副主席が党に奉仕しないはずはない」「彼の文学はみな出来が悪い」などの声も上がっている。

鳳凰ネットによると、記者会見内容で特にネットで注目されたのは、莫氏が毛沢東の文芸を論ずる文章「延安文芸座談会での談話」を書き写したことだ。同文章について莫氏は「筋が通っている」とし、評価しているという。

共産党との関係があまりにも緊密という問いに対し、莫氏はそれを否定せず、ただ自分の作品は人間の感情、運命を描いたものであり、それらはすでに階級や政治的境界線を超越したものと説明した。また、文学賞は政治の賞ではないので、党に奉仕するものではないと強調した。

コラムニストであり上海の作家・趙蘇氏が次のようにコメントした。「昨今の中国において、もし文学は政治と無関係というならば、それは馬鹿馬鹿しい話である。今の政治状況下において、すべては政治で、文学も例外ではない」

また記者が「作家として、作品をめぐって争議が起きた際に、かつて高行健氏※のように中国を離れていくつもりはあるか」と質問すると、莫氏は「わたしはなぜこの国を離れなければならないのか? わたしは故郷を離れたくない」と述べた。

中国国民の反対の声

受賞には議論が起こった。スウェーデンのノーベル賞選考委員会に対し、莫言氏の受賞を反対する著名人がその理由を綴った公開状を送った。

公開状には古川氏、北風氏、夏業良氏など著名な学者や評論家が署名した。多くの事実を挙げ、莫氏が作家として良識を尊守していないと指摘する。また、ノーベル文学賞選考委員会が中国共産党の現体制を賛美し、良識を切り捨てて道徳を無視する作家に賞を与えることは、中国国民を侮辱し、人権と自由の価値に背離し、勇気と良識を呪うものである、と厳しく非難した。

公開状は莫氏の履歴に触れている。莫氏の本名は管謨業で共産党員。1976年に中国人民解放軍に入隊し、1979年から解放軍総参謀部で機密管理員、政治教員、宣伝幹事などを歴任し、1997年に退役した。彼は2006年から、中国作家協会第7回主席団委員となり、2011年から中国作家協会第8回副主席を務めた。

2009年9月、共産党の体制に異見を持つ作家の戴晴氏、貝嶺氏、徐星氏など異見作家による書展が米国フランクフルトで行われた際、莫氏は他の中共官員とともに書展の撤回を求めていた。

2010年3月、莫氏は米誌タイムズのインタビューに応じた際、言論の自由を制限する共産党の文学の検閲制度について、文学としての価値がマイナス影響をもたらすことを否定した。莫氏は「制度の下で、作家は社会問題について婉曲的した表現を用いるかを心得ており、それこそ美学の原則に合っている」と主張し「現代社会の諸問題を正面から描く作品の多くは読む価値がない」と述べた。

元フランスのRFIラジオ中国語の記者・呉葆璋氏は、今回の受賞を通じて、ノーベル文学賞はすでに国際政治取引の産物に堕落したと非難した。米国に亡命したジャーナリスト・魏京生氏は、「共産党政権のご機嫌を取ったもの」と受賞を批判した。

※江西省出身の長編小説作家。現在はパリ在住でフランス国籍。代表作は『霊山』や『ある男の聖書』で、1990年に『逃亡』を発表した後、政治亡命。2000年ノーベル文学賞受賞。

 (翻訳編集・呈工)