【大紀元日本6月4日】共産党機関紙人民日報傘下の環球時報は5月29日、「現段階では腐敗を根絶できないことに市民は理解を示すべきだ」という論調の社説を掲載した。これに対し、同じ政府メディアの中国青年報は5月30日、「誤った認識」と環球時報を名指して批判し、新華社通信傘下の新華網も「国を誤らせる論調」と強く否定した。官製メディアの間でバトルが勃発したのは異例なことで、専門家は腐敗に対する意見が上層部で食い違っているとし、宣伝を主管する中央宣伝部もお手上げ状態だと指摘する。
バトルの発端となった環球時報の記事は、前鉄道相の劉志軍氏が汚職問題で党籍を剥奪されたことに触れ、「現段階では腐敗を根絶することができない。市民が理解すべきだ。さらに、腐敗はどの国でも根絶することができない。大事なことは、腐敗を市民の許容範囲内にコントロールすることだ」と述べた。
また、「腐敗を根絶できない」理由として、基本賃金が低い中国では、幹部だけの賃上げは世論が受け付けないから」だとしている。
これに対して、中国青年報は「制度と民主以外に、腐敗の解決法がない」と題する記事を発表し、環球時報の記事は「人々を驚かせた謬論(誤った認識)」と痛烈に批判した。
さらに、1日には新華網も参戦し、「国を誤らせる論調」だと一蹴。環球時報の記事が「腐敗を許す世論作りをしている」と非難した。
北京在住の評論家、陳傑人氏は、腐敗に対して、どこまで容認するかについて、上層部では明らかに意見の違いがあると指摘する。
香港の中文大学でメディア論を専門とする李立峰副教授は、官製メディアの論戦は、上層部の意見割れを反映するもので、政府内部の論争が表面化しているに過ぎないとしている。指導部交代をめぐって各派閥が活発な動きを見せる中で、中央宣伝部もお手上げ状態だと分析する。
一方、左派メディアと目されている環球時報は、江沢民派の中心メンバーの曾慶紅・前国家副主席や、中央政法委のトッブ周永康氏に支配されていると香港メディアはかねてから指摘していた。中国青年報は、胡錦濤主席の出身である共産主義青年団の機関紙で、両紙の論争は胡主席と江沢民派とのバトルとの見方もある。
胡主席、温家宝首相、習近平副主席はこれまで、「腐敗を根絶しなければ、政権が滅びる」「腐敗分子を党内から追放せよ」などと相次ぎ深刻化する腐敗問題への危機感を口にしていた。米在住の政治評論家、石蔵山氏は、環球日報が明らかに指導者らの意思と相反する論調の記事を掲載した背後には、汚職で利益を手に入れた幹部を取り込もうとする周永康氏らの意図があると指摘している。