中国の弁護士、「強制失踪」の恐怖を語る 秘密拘束が合法化へ

2011/09/16
更新: 2011/09/16

【大紀元日本9月16日】今年2月から2カ月にわたって秘密裡に拘束された中国の著名な人権弁護士江天勇氏は14日、釈放後初めて沈黙を破り、香港や米国メディアに自身が受けた迫害について語った。一方、このような秘密拘束を「合法化」させるよう、中国で刑事訴訟法の改正案が検討されている。同法案がいったん成立すれば、「当局者がいつでもどこでも誰をも拘束できる」権限を与えることになるため、国内外の人権擁護者などから批判が出ている。

「おまえは人間ではない」

江天勇氏は2月19日、中国で初のジャスミン集会が伝えられた前日に家族の目の前で当局者に車に押し込まれ、連れ去られた。14日付の香港英字紙・サウスチャイナ・モーニング・ポストによると、その日の深夜から2晩にわたり、江氏は殴る蹴るの暴行を受け、「おまえは人間ではない」などと罵倒された。その後の3日間も、夜中から翌朝6時まで尋問され、ほとんど睡眠がとれない状態が続いたという。

さらに監禁の間、毎朝「政府の教育を喜んで受ける」と呼号し、当局が決めた3曲の「愛国ソング」の歌詞を暗唱するよう強要された。また毎日15時間、壁に向かって座り「反省」することも強要され、少しでも動くと罵声を浴びせられたという。

江氏はこのようなことも言われた。「手続きや法廷なんて、そんな甘っちょろいものを夢見るな。この状態(監禁)は1カ月でも続くし半年でもいける。1年でもいいし、さらに長くもできる」(米VOA)。江氏は「いつでも気が狂ってしまいそうだった」と振り返る。

拘束されて60日後に「洗脳」が上手くいったと見なされ、江氏は当局者に示された8つの誓約にサインして釈放された。「誓約を破ったら、いつでも強制失踪させてやる」。当局者は江氏にそう告げ、さらにそのような場合は夫人も拘束されかねないと脅した。

「恐怖。それは彼らが我々に植え付けたいものだ」と述べる江氏は、「黙っていたら脅しが利いていると認めることになる」と、取材を受ける真意を明らかにした。

秘密拘束が「合法化」

江氏が拘束されていた2カ月間、彼自身も彼の親族も何の通知書類も受けたことはない。彼がどこで拘束されているのか、生きているのか死んでいるのか、誰も知らない。

6月に保釈された艾未未氏も、自分の情報を求めるために奔走する家族を、「町の自治会から、裁判所、国の幹部、ひいては国の指導部までも誰も相手にしてくれなかった」と語っている。

さらに、著名な人権弁護士・高智晟氏は昨年4月にふたたび行方が分からなくなり、いまも音信が途絶えたままだ。

一方、彼らに対するこの種の秘密拘束が「合法」となるような法律条文が中国で検討されており、今月末にも成立する見通しとなっている。先月30日、全国人民代表大会常務委員会で議論されている刑事訴訟法修正案(草案)が公開され、反体制派や国家治安に関する犯罪の容疑者を、秘密の場所に拘束する権限を警察に与えることが盛り込まれている。

現行の刑事訴訟法に定められている一種の自宅拘束である「居住監視」について改正案では、「国家安全保障、テロ、重大な汚職に関する事件の容疑者」について、警察が「自宅では捜査に支障がある」と判断した場合は、容疑者を「特定の場所」に拘束できるとの条項が追加されている。その際、警察が取り調べの妨げになると判断すれば、容疑者の家族に連絡を取らなくてもよいとされている。

「これが法制化されれば、当局者はいつでもどこでも誰をも拘束することができ、中国では『強制失踪』する人が著しく増えるだろう」。香港に拠点を置く「中国人権弁護士注目チーム」のメンバー潘嘉偉氏は危惧し、「この修正案は中国人権状況の後退を示す」と批判した。

潘氏はさらに、中国政府は秘密拘束の法的根拠を定めることで、国際社会からの人権状況批判をかわそうとしていると指摘。「我々は中国の法律に基づいている。この人たちは中国の国家安全を脅かしているのだ」と、当局はそのつど秘密拘束の「合法性」を主張するに違いないと潘氏はみている。

国際人権組織ヒューマン・ライツ・ウォッチ(ニューヨーク)アジア支部のリチャードソン主任は、このような秘密拘束を合法化することで、拘束される人が今までよりもさらに残虐な暴行、悲惨な迫害に遭うとの懸念を示した。

「中国の司法主権を尊重せよ」

中国の刑事訴訟法修正案に注目が集まる中、中国外交部(省)の姜瑜報道官は14日の定例記者会見で、修正案は人民代表大会が決めるものだとし、国際社会に「中国の司法主権への尊重」を求めた。

さらに、姜報道官は「弁護士は法律が定めた範囲内で行動するべき」と強調し、「さもなければ懲罰を受けることになる」と威嚇した。

この日は江弁護士が受けた迫害が明らかになった日でもあった。

(翻訳編集・張凛音)
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