<中国の深層>ネット情報操作部隊「五毛党」

2011/08/12
更新: 2011/08/12

【大紀元日本8月12日】インターネットの普及が急速に拡大する中国では、当局がネット世論を操作・誘導するため、政府擁護の意見をネットに発表する匿名の「ネット評論員」を大量に雇っている。民間で「五毛党(ウーマオダン)」と呼ばれるこの匿名集団について、米VOAはこのほど、詳細に報じた。その内容は以下の通り。

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中国の「五毛党」の存在は、世界史上における一大珍現象と言えるであろう。共産党が絶対的権力を握り、国家の政治、司法等の権力を独占するこの国において、党のために従事するこの集団は秘密裏に運営されており、組織そのものの存在、活動方式と計画、およびそのメンバーの身元など全て極秘事項である。

ところが、極秘事項のはずの「五毛党」の存在を知らない中国人はいない。国際社会にもその名が広がっており、世界の各メディアの関心を呼んでいる。重大な事件が発生して、中国国内のウェブサイト利用者の意見が噴出するとき、「五毛党」は連日連夜働いて、「党」のために精一杯尽くすのである。

最近では、特に7・23(7月23日に起きた中国高速鉄道の大事故)が発生してから、中国の多くのウェブサイト利用者および海外メディアも、彼らの積極的な活動ぶりに気づいている。

なぜ「五毛党」と名づけられたのか

これは非公式な名称である。中国共産党政権から特定の「手当て」をもらう匿名集団を指すわけだが、その金額が、いつしかあだ名となって定着した。

彼らはインターネット上で、中共およびその政権への批判的意見を探って追跡したり、影響力のある異見者を監視したりしている。また、以前暴露された中共の内部資料によれば、中共の宣伝機関がいわゆる「ネット評論員」を雇い、インターネット上で一般のウェブサイト利用者に扮して中共寄りの書き込みをさせる。一つの書き込みに対して、中共から5毛(約6円)の報酬が支給されるというわけだ。 

このため、いつの間にか「五毛党」という皮肉な名称が付けられて、国内のみならず世界にまで知られた。この名称には、「小銭のために自分の魂まで裏切っている」という軽蔑的な意味も含まれている。

非常に興味深いのは、「五毛党」は中国特有の国産品だが、それに関する最も簡潔かつ的確な解説は外国からなされていることである。

例えば、ドイツ語では「ネット民意工作員の大軍」(einer Armada von Netzagenten die offentliche Meinung)、日本語では「政府の情報操作部隊」と説明されている。

言うまでもなく、ドイツ語のこの名称は、インターネット上に「民意」を作り上げ、捏造、歪曲、誘導、妨害等をする厖大な人数の工作員組織を意味する。日本語のこの名称は文字通りで、説明を要しないだろう。

「五毛党」についての詳細な説明

グーグルの検索エンジンでドイツ語新聞を探してみたところ、オーストリアの第三の都市リンツの地元紙・ナハリヒテンの7月12日付け報道に、「五毛党」に関する記事を見つけた。ベルンハード・バジシャ記者による長編の記事で、「中国はどうやってインターネットを通して独裁を強化しているのか」と題されている。

同記事の冒頭では、「五毛党」問題の要点を次のように指摘している。

「インターネットは、独裁政権を倒すことができる一方、独裁を強化することもできる。中共内部の宣伝計画からは、彼らがネット民意工作員の大軍を利用してコントロールを強化しようとする裏が窺える」

その上で、バジシャ記者はこう続ける。

中国の著名な芸術家・艾未未氏が今年2月、ある声明を公表した。「高額な報酬で、数十人あるいは数百人の五毛党メンバーを取材したい」とのことだ。彼らの「仕事」のやり方を知りたいからという。これまでにも中共を怒らせることを多くやってきた艾未未氏は、4月3日、ついに秘密裏に逮捕されたが、このこともその一因であろう。

ナハリヒテン紙の報道と明らかに異なるのは、日本の産経新聞の関連報道である。7月30日、矢板明夫記者による「中国ネットウォッチ」というコラムで、「高速鉄道事故 政府の情報操作部隊、五毛党の原形」というタイトルの記事が出た。

7・23の発生後、中国国内のインターネット上には、政府の事故対応を非難する書き込みが噴出した。一方で、「世界中のどの国でも列車事故がある。騒ぎ立てるような話ではない」「政府は誠実に対応していると思う」など、当局をかばう書き込みもあった。すると、そのような書き込みに対して、「君は五毛党の工作員か」「五毛党はさっさと消えてくれ」などの反論が殺到したという。

矢板記者のコラム記事は、このような中国の状況を取り上げた上、五毛党の名前の由来や、その沿革、中国社会における肩身の狭い立場などを詳細に説明している。

矢板記者の記事はまた、中国の情報筋からの証言として、次のことを伝えた。

それによると、中国共産党当局は非常にネットの世論を重要視している。ただ、政権を批判する書き込みを削除する方法は、その効果が限定的で、政府を支持する世論を作り上げることは永久にできない。そこで、2005年頃から、中国の中央と各地方の政府機関は予算を組んで「ネット評論員」を雇い始めた。2006年頃には、中国共産党の内部資料がインターネット上で何者かによって公開された。それによると、湖南省長沙市では、「ネット評論員」の基本給は月600元(約7000円)、ネットでの書き込み1件につき5毛(0.5元)が支給されるという。以来、インターネットで政府寄りの発言をする人は、みな「五毛党」と呼ばれるようになった。

「五毛党」の賃上げ

これまでに、「五毛党」に関連する最も有名な風刺文は、中国の著名ネット作家・韓寒氏が書いた「2010年の新活動ー-金は打ち延ばさねばならず、子供は鞭打たれねばならない(原文、「2010年新活動ー-三天不打,上房揭瓦」)」というブログ文章である。

その「五毛党」に関する皮肉たっぷりの文言には、思わず噴き出してしまうほどである。もちろん、中国政府は面子を失った。そのため、同文がネット上に掲載されて間もなく削除された。しかし、韓寒氏の支持者らが挫けずに繰り返し転載したため、削除され続けてもネット上から消えなかった。

韓寒氏は、この文章で冗談めかしながら、2011年1月から「五毛党」の報酬が5毛から倍の1元に引き上げられる、という大胆な予測を出している。驚いたことにこの予測は、矢板明夫記者の取材調査に照らし合わせると、大筋で的中したようなのだ。

矢板記者の報道によれば、五毛党の多くは、フリーターの大卒生がアルバイト感覚で、または政府系団体の若手職員が副業としてやっている。最近では一件の書き込みへの報酬が1元、または1・5元に引き上げられた。そうすると、毎月「1万件以上」発信すれば、サラリーマンの平均より高い収入が得られることになる。秘密厳守の誓約書の提出を求められているが、世間から白い目で見られる仕事でもあるため、それを周りに言いふらす人は少なく、家族にも言えない人も多いという。

ニュージーランド人教授が出くわした「五毛党」

この匿名集団の人数は一体どれほどなのか。その予算はいくらなのか。これらの事項は中国の国家機密であり、外部に知らされることはない。しかし、確実なのは、「五毛党」の人数が非常に多いこと、そして歩調と口調が一致し、役割が細かく決められていることである。また、中国国内のインターネットを監視するグループと、国外のメディアとインターネットの言論に目を光らせているグループもいる。

2010年10月4日、米ニュースサイト「ハフィントン・ポスト」は、ニュージーランドのマッセー大学のウッサー・ヘンリー教授のブログ記事を掲載した。タイトルは「中国インターネット宣伝の五毛党」。そのなかで同教授は、「五毛党」に遭遇した実体験を語っている。

「初めてハフィントン・ポストでブログ記事を発表したとき、不可思議な出来事があった。そのブログ記事は、中国政府の製紙業界への政府補助に言及し、米国に政策的な提案を呈した。掲載してからすぐ、ある人が私の記事にコメントしてきた。私の観点に同意できず、不愉快な思いをさせられたという。この人は、まず2篇の長い書き込みで、私のデータと米国の対中政策に疑問を呈してきた。その後、別の論点を私の記事の読者に提示してきたのだ。私は当時、自分が中国の『五毛党』に目を付けられたと知らなかった。私のブログ記事を評価する書き込みがある度に、この人物が昼夜を問わず反応を示していた。最終的には計20余りのコメントが書き込まれた」

産経新聞の矢板明夫記者と同様、ヘンリー教授も「五毛党」に関する中国政府の内部資料を入手できたという。彼らの役割分担について、同教授は次のように概括した。

「中国国内では、『五毛党』は当局に不都合なインターネット上の情報を報告する。国外では、『五毛党』は中国のメディアや現地の中国大使館と連携している。また、外部の観察者には、『五毛党』は胡錦濤主席の『世論を誘導する新たなやり方』を実感させている」

「ネット警察を導入する国は世界の中で中国だけではない。しかし、中国政府がこの分野に費やした労力は目を見張るものである」

全国の「五毛党」の総人数は不明だが、「10万人を下らないはず」(韓寒氏)との見解もある。

(翻訳編集・叶子)