【大紀元日本2月1日】米中両国の国民の、本国と相手国への認識を比較してみるのは、とても面白いことだ。米国人の中国に対する認識は往々にして、中国人の本国への認識と背反している。最近、調査機関Pew Research Center for the People & the Pressの調査結果によれば、「世界最強の経済大国はどの国」との質問に対して、47%の米国人は中国と回答。米国が依然として世界一の経済大国であると回答した米国人は31%にとどまった。
しかし、GDP世界第二位とされる新興経済大国で生きる中国人の大多数は、生活の質に不満を抱いている。生きる上でのプレッシャーが強過ぎて、将来は灰色だと思う人が少なくない。「人民論壇」誌の昨年12月の調査によると、共産党幹部、エリート会社員、知識人層というグループ内でも、自分は社会の弱者層であると認識する人が約半数存在している。また中国が世界第二位の経済大国に成長したと騒がれた昨年、大多数の中国人は、生活の質が改善されたという実感がないという。中国政府系の環球時報による世論調査では、中国が超大国になったと認識する人は12%にとどまっている。様々な面において、中国内では中国が世界第二位の大国になったという兆しが見受けられない。一方、中国人の米国に対する認識については、政権の高級幹部から中産階級の家庭まで、百手を尽くしても子女を米国に留学・移民させようとしている事実から、米国が自国より優れていると思っていることが裏付けられる。
中国を「世界最強の経済大国」とする米国人の認識に根拠はあるのだろうか。客観的にみると、まことに事実無根だ。米国の名目上のGDPは中国の約3倍であり、国民一人あたりでは中国の11倍である。しかし、米国人はこれらの数値にあまり興味がないようだ。彼らが羨ましがっているのは中国の4.3%の失業率である。
金融危機以来、米国の失業率は10%前後の状態が続いている。米国社会は生活貧困者に医療の救済や、社会安全保障基金、食品券、失業保険、その他各種の保障措置を提供しているが、過去2年間、依然として中産階級から脱落した人は後を絶たない。統計によれば、2009年の米国の貧困者層は4400万人に達した。医療保険に加入していない人は500万人増の5100万人に達した。多くの米国人は万一のときの備えがない。このような状況下では、中国の4.3%の失業率は米国人にとって、羨ましい限りだ。13~14億の人口を抱えながら中国の失業率は、3億人余りの米国より大幅に低い。厖大な人口の就業問題を解決している中国を世界一の経済大国と位置づけることは当然のことかもしれない。
もちろん、ほとんどの中国人は当局の統計データを信じていない。これは首相、常務副首相から一般庶民まで浸透している常識である。しかし、中国当局が多くの統計データを偽造する苦心を、米国人は知る術もない。もちろん、中国当局の各機関が発表する統計データも互いに矛盾していることが多いとう事実も、米国人には知られていない。中国国家統計局のデータによれば、2009年の「登記失業率」は4.3%。しかし、中国社会科学院の「社会青書」によれば、2009年の中国の実質失業率は10%に近い。2010年9月、国務院新聞弁公室が公表した「中国の労働資源状況白書」によれば、2009年末時点の中国国内の労働力人口は10.6億人強で、就業者総数は7.8億人弱である。この数値を用いると、中国の失業率は27%と算出される。
米国人は「登記失業率」という中国独自のカラクリを知らない。「登記」された失業率は大幅に粉飾された数値であるということを知る術がない。そのため、米国人は中国は世界第一の経済大国と認識してしまった。これは米国人のせいではない。粉飾された中国を研究する学者ら(中国系米国人に止まらない)は、声を揃えて中国の繁栄を讃えており、2030年(あるいは2020年)に中国は米国を抜いて世界一の強国になると宣言している。学者たちがこう唱えるので、一般の米国人は、中国の大多数の農村部がいまだにアフリカ同様であると推定すらしない。ここ2年間、世界的な経済不振の中、中国の富裕層は海外で豪快に羽振りよく大金を使っており、パリ、東京、ニューヨークの高級ブランドショップで中国人の経済力を見せつけている。このため中国語が堪能な店員まで配置することになった。立て続けに開催した北京五輪、上海万博、アジア大会で、中国当局は湯水のように勢い良く大金をばら撒いており、黄金の国に貧困の兆しはどこにも見受けられない。
それだけではない、金融危機の衝撃の中、米国の大手新聞「シカゴ・トリビューン(The Chicago Tribune)」紙や、「ザ・フィラデルフィア・インクワイアラー(The Philadelphia Inquirer)」誌が相次ぎ閉鎖となり、「ニューヨーク・タイムズ」紙も資金難に悩まされている。一方、中国当局の機関紙・新華社の海外支局は高賃金で外国記者を雇ったり、対外国宣伝の役割を担う各メディアに巨額の資金を投じたりしている。中国当局が出資する「孔子学院」(※)も欧米各国で相次ぎ設置されている。また、胡錦濤主席の訪米に先駆けて、ニューヨークのタイムズスクエアの大型スクリーンで、中国国家のPR映像が8400回繰り返し放送された。しかも、BBC、CNNのゴールデンタイムでも放送するらしい。ここまで豪快に巨額の金をばら撒ける国はどれほどの富を築いているのか、米国人に「世界第一の経済大国」であると映るのは当然だろう。
もちろん、中国当局も時々「世界にもう一つの真実の中国を認識させるべきだ」と思い起こす。例えば、温家宝首相は昨年9月26日に、国連会議で同タイトルの演説を行った。中国のGDPは依然として世界第三位であると強調するほか、1.5億人の貧困者層や、8億人の就職問題をも提起した。「中国の平和的な勃興」を大々的に宣伝し続ける中、温首相の国連という特殊な場でのこの演説も、国際的責任から逃れようとしているだけではないか、と世界からは受け止められてしまう。
要するに、中国は「世界第一の経済大国」であるという見方は、中国当局の対外宣伝の素晴らしい成果であるに過ぎない。この果実が甘かろうが苦かろうが、中国人の一人ひとりがゆっくりと味わうしかないのだ。
※孔子学院:中国当局が各国の大学などと提携して設立し、共産党文化や中国語などの教育・伝播を行うための機関である。孔子の名を冠しているが、儒教教育を行う機関ではない。
※何清漣:ニューヨーク在住の中国人経済学者・ジャーナリスト。54歳、女性。中国湖南省生まれ。混迷を深める現代中国の動向を語るうえで欠かすことのできないキーパーソンのひとりである。中国では大学教師や、深セン市共産党委員会の幹部、メディア記者などを務めていた。中国当局の問題点を鋭く指摘する言論を貫き、知識人層から圧倒的な支持を得たが、常に諜報機関による常時の監視、尾行、家宅侵入などを受けていたため、2001年に中国から米国に渡った。1998年に出版した著書『現代化的陥穽』は政治経済学の視点から中国社会の構造的病弊と腐敗の根源を探る一冊である。邦題は『中国現代化の落とし穴』。
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