米バイオ 対中模倣警戒で機密強化

2026/07/11
更新: 2026/07/11

米バイオ企業が中国勢による「ファストフォロワー薬」台頭を警戒し、初期データの公開を抑える動きを強めている。臨床試験のスピードとコストで優位に立つ中国バイオ企業に対抗するため、機密管理の強化や対中投資規制の議論が進み、米中バイオ覇権争いは新たな局面を迎えている。

過去数十年、アメリカのバイオテクノロジー系スタートアップは、資金調達を目的に初期段階の研究成果を公開するのが一般的であった。  

しかし近年、中国のバイオ医薬企業による追随や模倣、さらに臨床試験の早期実施を懸念し、研究成果の公開を控える動きが広がっている。初期段階の情報を機密として管理する傾向が強まっている。  

スタートアップが「見せない」戦略へ転換

アメリカの有力紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』によると、大規模な医学会議で臨床試験の成果が発表された場合、中国企業が類似技術の開発に着手し、短期間で臨床試験に進むケースがあるとされる。  

中国企業は、研究開発のスピードがアメリカ企業の約2倍、コストは半分程度に抑えられると指摘されている。こうした状況が、アメリカの製薬業界に影響を与えている。  

このため、企業規模を問わず、最新技術の公表にあたって慎重な対応を取る企業が増えている。  

アリゾナ州フェニックスに拠点を置くバイオ医薬企業「ブレイクスルー・メディスン」は、これまでに13種類の医薬品についてFDA=食品医薬品局の承認取得に関わってきた。  

同社の責任者スティーブ・ポッツ氏は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』に対し、現在開発中のがん治療薬について、従来以上に厳格な情報管理が必要だと述べている。  

ファストフォロワー薬拡大で米製薬のリスク高まる

情報が外部に漏れた場合、中国企業が先行し、いわゆる「ファストフォロワー薬」が市場に投入される可能性があるためだとしている。  

このような背景から、研究内容を厳重に管理する企業は増加している。  

ポッツ氏によると、同社はベンチャーキャピタル向けの説明会を行わず、学会での発表も控えているという。資金については、限られた投資家や大学から受け入れているとしている。  

アメリカ企業では、中国企業との共同研究においても、情報管理を強化する動きが見られる。  

バイオテクノロジー大手のバイオジェンは、中国企業と協力する際、中国当局の規制に基づき提出が求められる情報を除き、自社の機密情報を共有しない方針を取っている。  

同社の開発部門責任者は、その理由について、中国企業が短期間で追随・模倣する可能性を懸念しているためだと説明している。  

中国のバイオ企業は、既に知られている標的に対して改良型の治療法を開発する能力に強みがあるとされる。  

小規模バイオ企業が直面する資金調達と情報漏えいのジレンマ

一方、小規模な企業にとっては課題もある。資金調達のためには技術の説明が必要である一方、情報の流出を防ぐ必要があるためである。  

従来の資金調達では、複数の投資家に同時に説明を行うことが一般的であり、その過程で機密情報の管理が難しくなると指摘されている。  

このため、限られた関係者による投資に依存するケースも見られる。  

アメリカの研究機関の関係者は、かつてはアイデアだけで投資を集めることも可能だったが、現在は有効性を示すデータが重視されるようになっていると指摘する。  

中国では臨床試験の進行が比較的速く、データを早期に得やすい環境があるとされる。  

複数のアメリカ企業が、技術情報の開示を限定する動きを強めている。  

調査会社ノーステラによると、中国で行われた初期臨床試験の件数は2025年に、10年前と比べておよそ5倍に増加した。一方、アメリカでは同様の試験数の伸びは限定的だとしている。  

こうした動きを受けて、大手企業が中国から技術を導入するケースも見られる。  

米議会で進む対中投資・データ規制の強化論議

アメリカ議会では、対中投資をめぐる規制強化の検討が進められている。  

先月には、中国の製薬企業への投資について、財務省の審査を義務づける法案が提出された。  

また、中国で得られた臨床試験データの受け入れを制限する案も議論されている。  

一方で、中国発の「ファストフォロワー薬」は増加傾向にある。  

ノーステラによると、2015年から2025年にかけて、この種の医薬品は15倍に増えたとしている。  

市場調査会社のデータによると、2021年2月、デンマークの製薬大手ノボノルディスクが減量薬の有効性を発表した後、中国で同様の作用機序を持つ複数の開発が進められた。  

その後18か月の間に、少なくとも16件のプロジェクトが臨床試験に向けた手続きを進めたとされる。  

2026年6月時点では、関連する中国のプロジェクトは少なくとも62件に上り、その一部は欧米企業にライセンス供与されている。  

同社自身も、中国で開発された関連プロジェクトの一部を取得している。  

減量薬・がん治療薬で顕在化した中国発プロジェクトの急拡大

同様の動きはがん治療の分野でも見られる。  

2023年末、アメリカの製薬企業アムジェンが新たな治療薬候補を発表した後、中国企業が短期間で競合する臨床試験を開始した。  

その後、中国では同じ標的を対象とした複数の開発が進められている。  

遺伝子医療の分野でも同様の傾向が指摘されている。  

アメリカのビーム・セラピューティクスは、希少な遺伝性疾患の治療法について臨床試験を計画していたが、その後、中国企業が同様の技術を用いた開発を進めた。  

2026年3月には、この中国企業がアメリカの規制当局から後期臨床試験の承認を得たとされる。  

さらに、アメリカ企業がその医薬品のライセンスを取得したとの情報もある。  

一方、関係者によると、両社間の人材の移動も確認されているが、競合製品の開発への関与については否定されている。  

李平