ドナルド・トランプ大統領は最近、イスラエルとテロ組織ハマス(Hamas)の間で停戦合意を成立させることに成功した。この合意は、2年間続いた地域紛争を終結させ、中東に持続的な平和を築くための画期的な契機になると多くの専門家が評価している。
数日にわたって行われたエジプト・シャルムエルシェイク(Sharm El-Sheikh)での交渉の結果、ハマスは10月9日に合意文書に署名し、ガザ地区で拘束している48人の人質全員(死者・生存者を含む)を解放することを約束した。現在、生存している人質はおよそ20人とみられている。
2023年10月7日にイスラエルへの攻撃を開始して以来、ハマスは人質を交渉材料として利用してきた。これまでの和平交渉では一部の人質のみの解放にとどまっていたが、今回は全員を釈放する決断に至ったことで、和平プロセスは大きく前進した。中東における恒久的平和の実現可能性について、国際社会の見方もより前向きになっている。
トランプ大統領はこの合意を「重大な突破口」と称賛した。
同日、ホワイトハウスの閣議で大統領は「誰もこんなことが可能だとは考えていなかった。しかしいま、我々は中東で平和の実現に近づいている」と述べた。
また、大統領は人質の解放が10月13日または14日ごろに行われる見通しであると明らかにし、「その日は喜びに満ちた一日になるだろう」と語った。
トランプ大統領はさらに、停戦合意の正式署名式に出席するためエジプトを訪問する意向も示した。
10月9日には、世界各国の首脳が相次いで声明を発表し、中東和平に尽力したトランプ大統領の成果を称賛した。英国のキア・スターマー首相(Keir Starmer)は記者団に対し、「トランプ大統領の指導力がなければ、この合意は到底実現しなかった」と述べた。
また、元NATO事務総長のアナス・フォー・ラスムセン(Anders Fogh Rasmussen)氏は、トランプ大統領の和平計画が他の紛争解決においても参考になり得るとコメントした。同日、英スカイニュース(Sky News)の取材に応じ、「トランプ氏が中東合意を成立させたことは称賛に値する。同様の手法でウクライナ和平プロセスも進めるべきだ」と述べた。
一方で、多くの人々が期待を寄せる中、専門家の間ではガザの将来や、トランプ大統領の「20項目和平計画」の第2段階が円滑に履行されるかどうかについて、懐疑的な見方も根強い。

中東地域での信頼関係構築
米国のマルコ・ルビオ国務長官は、トランプ大統領が独自の交渉術を駆使し、数か月にわたる努力の末、今回の中東合意を実現させたと評価した。
トランプ大統領の最初の行動は、本年5月の湾岸諸国訪問であった。彼はサウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)などの指導者たちと個人的な信頼関係を築くことを最優先事項とした。
10月9日の閣議でルビオ国務長官は、「トランプ大統領が中東の指導者たちと強固な関係を築いたことが、最終的な和平実現の基盤となった」とし、「5月の中東訪問が、その後の成功の土台を築いた」と述べた。
ルビオ長官はさらに、「1か月前の時点では、私自身もこの目標が達成可能だとは思っていなかった」と振り返った。
彼によれば、転機は数週間前の国連総会期間中に訪れたという。トランプ大統領は会期中、アラブ諸国やイスラム教徒多数国の指導者らをワシントンに招き、「歴史的会議」を開催。自らの和平構想への支持を取り付けたとされる。
さらに、トランプ大統領は9月29日、カタール防衛を目的とする大統領令に署名した。これは前例のない措置である。同命令が発表される以前、イスラエルは9月9日にハマス指導者を標的としたカタールへの軍事攻撃を実施しており、中東情勢は一時極度に緊迫していた。
大統領令には、「米国は、カタールの領土、主権、または重要インフラを標的としたいかなる武力攻撃も、米国の平和と安全への脅威と見なす」と明記された。
この決定は、トランプ大統領がカタールおよびハマスとの膠着状態を打開するため、他国との協力強化に踏み切る意思を明確にしたものと受け止められている。
イスラエルのネタニヤフ首相の支持
アラブ諸国やイスラム諸国の支持を得ることは重要であったが、トランプ大統領が決定的な突破口を開いたのは9月29日である。この日、イスラエルのネタニヤフ首相がホワイトハウスを訪問し、トランプ大統領が提唱する和平計画を公に支持した。
同計画では、イスラエルがガザ地区を併合しないこと、パレスチナ国家設立を「パレスチナ人民の正当な願い」と認めること、さらに一定の条件を満たした場合にはパレスチナ建国の実現を明記している。
しかしそのわずか1週間前、ネタニヤフ首相は英国、フランス、カナダ、オーストラリアなど西側諸国によるパレスチナ国家承認を強く批判していた。

9月26日、ネタニヤフ首相は国連での演説で次のように述べた。
「10月7日以降、エルサレムからわずか1マイルの地点にパレスチナ国家を築くことを許すのは、9月11日以降にニューヨーク市から1マイルの地点にアルカイダ国家を築くことを認めるに等しい。それはまさに狂気の沙汰である。」
ワシントンD.C.に本部を置くカーネギー国際平和基金(略称CEIP)の上級研究員であるアーロン・デイビッド・ミラー(Aaron David Miller)氏は、これまでトランプ大統領に対して批判的な立場を取ってきた。しかし最近、シカゴに本部を置くニュース専門局『ニュース・ネイション』(News Nation)のインタビューに応じ、中東情勢の進展について一定の評価を示した。
ミラー氏は「ドナルド・トランプが示した意志の強さは、これまでのいかなる大統領(共和・民主を問わず)とも異なる」と述べた。
ミラー氏は1978年から2003年にかけて複数のアメリカ国務長官の下で勤務し、その間にアラブ・イスラエル和平交渉にも深く関与した経歴を持つ。彼はまた、「トランプ大統領は、過去のどの政権も行わなかった形でイスラエル首相に圧力をかけた。この問題はイスラエル首相にとって政治生命に関わる極めて重要なものであり、イスラエルの安全保障上の要件をいかに定義するかにも影響を及ぼす」と語った。
イギリスの軍事史家ローレンス・フリードマン(Lawrence Freedman)氏も最近の記事で、「バイデン政権とは異なり、トランプ氏はイスラエル側から大きな譲歩を引き出す方法を見つけた」と指摘している。
イスラエル・ハマス間合意の今後の課題と展望
今後の展開はどうなるのか。専門家たちは、イスラエルとハマスの間で新たに合意された最新の協定が、長年にわたる衝突を終結させる貴重な機会になり得ると見ている。しかし、その成功は、ガザ再建、ハマスの武装解除、そして長年にわたって議論されてきたパレスチナ建国への道筋といった難題をいかに乗り越えられるかにかかっている。
ワシントンD.C.拠点のシンクタンク「ディフェンス・プライオリティーズ」(Defense Priorities)上級研究員で、米陸軍退役将校のダニエル・L・デイヴィス(Daniel L. Davis)氏は『エポック・タイムズ』(大紀元時報)の取材に対し、この協定がガザ地区の民間人犠牲の終結につながることを期待していると述べた。ただし、各当事者がこの「難題」にどう対応するかについては依然として懐疑的な見方を示している。
デイヴィス氏は「今後、情勢が変わる可能性はある。しかし現時点では戦闘が収まったように見えることを喜ばしく思っている」と語った。

今年初め、ハマスは先の協定の第一段階に基づき、一部の人質を解放した。しかしその後の段階の進め方で意見が対立し、協定の枠組みは最終的に崩壊した。ハマスは第二段階への移行を試みたが、イスラエルは米国大統領特使スティーブ・ウィトコフ(Steve Witkoff)氏が提案した第一段階の停戦条項延長案を支持し、さらなる交渉の時間を確保しようとした。
3月に入ると停戦協定は破綻し、イスラエル軍はガザ全域での軍事作戦を再開した。
ワシントンD.C.拠点の米国イスラム関係評議会(CAIR)の全国執行ディレクター、ニハード・アワド氏は10月9日の声明で次のように述べた。
「国際社会は、協定の次の段階がガザをイスラエルの占領や西側の植民地主義的支配から解放し、再建を進めるとともに、パレスチナ人民への長年の占領と抑圧を終わらせ、公正で持続可能な平和を築くための明確な道筋を示すことを確実にしなければならない」
今後数日間は、ガザで犠牲となった人質の遺体を捜索・確認する作業が大きな課題になると予想されている。和平計画では、イスラエルが正式に合意を受け入れてから72時間以内に「生存者および犠牲となったすべての人質」が送還されることが定められている。
イスラエルの報道によれば、イスラエル、米国、エジプト、カタール、トルコの5か国はすでに合同作業部会を設立しており、建物の掘削や解体が必要な場合は重機を提供して人質の遺体捜索を支援する方針である。

専門家が語る合意の意義と不安要素
ワシントンD.C.に本部を置く米国ヘリテージ財団の中東・北アフリカ上級政策アナリスト、ダニエル・フレッシュ氏は、ガザで人質救出の可能性を知ったときの第一の反応について「喜びと安堵だった」と語った。
長期的な和平プロセスには多くの困難が予想されるが、フレッシュ氏は「イスラエル市民がハマスの支配下に人質として残らなくなれば、イスラエル政府にはより多くの選択肢と余裕が生まれる」と指摘した。
「人質たちが無事に帰還すれば、政府や国全体は大きな重圧から解放されるだろう」とも述べた。
エジプトの学者ダリア・ジアダ(Dalia Ziada)氏は、フロリダ州に本部を置く国際反ユダヤ主義・政策研究所(ISGAP)の研究アナリストであり、イスラエル・エルサレムに本部を構えるエルサレム安全保障・外交問題センター(JCFA)の上級研究員でもある。ジアダ氏は、今回の和平プロセスの次の段階を「非常に脆弱」と表現し、トランプ大統領の和平計画の実施には大きな不確実性が残ると指摘した。
「書面上では非常に優れた計画であり、包括的だと思う。文書自体は長くないが、すでにすべての側面が網羅されている。最終的に文書に沿って実現できる道筋が見つかることを期待している。ただしご存じのとおり、成否を分けるのは細部である」と『エポック・タイムズ』の取材に語った。
ワシントンD.C.の米国外交政策評議会(American Foreign Policy Council、略称AFPC)上級副会長イラン・バーマン(Ilan Berman)氏も、ジアダ氏の見方に同意した。バーマン氏は『エポック・タイムズ』への電子メールで、「和平協定の成功は“持続的な国際的支援と投資”、パレスチナ自治政府を実際に改革する枠組みの構築、そしてイランがこれらの計画を妨害できないようにすること」にかかっていると述べた。
「もっとも、これらの条件がすべて自動的に満たされるわけではない」と付け加えた。
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