アングル:金価格上昇、アマゾンの熱帯雨林を荒廃させる理由

2023/05/08
更新: 2023/05/08

Anastasia Moloney Andre Cabette Fabio

[ボゴタ/リオデジャネイロ 25日 トムソン・ロイター財団] – 金価格の上昇は、アマゾンの熱帯雨林にとっては悪いニュースだ。金需要が過熱し、森林破壊や先住民コミュニティーに対する暴力につながる違法採掘が増加するためだ。

金は伝統的に政治不安や金融危機の際の資金の安全な安全な避難先と見なされており、その価格は4月初めに1オンスあたり2000ドル(約27万円)を超えて以来、史上最高値に迫りつつある。

<アマゾンの熱帯雨林の金鉱脈>

南米9カ国にまたがるアマゾン川流域の一部では、16世紀後半以降、金の採掘が行われてきた。

何世紀にもわたり、採掘者たちはシャベルと原始的な選鉱鍋を使って、アマゾン地域を流れる河川の水中や河岸で泥や砂の中に埋もれた小さな金塊を探してきた。

この数十年、アマゾン川流域は小規模な金の違法採掘の中心地となっており、2000年代初頭に金価格が高騰してゴールドラッシュを引き起こして以来、違法採掘は急激に増加している。

<アマゾンで金の違法採掘が盛んに行われている場所は>

アマゾン熱帯雨林の最大面積をもつブラジルをはじめ、コロンビア、ペルー、エクアドル、ボリビア、ベネズエラといった国は、いずれも金の違法採掘によって多大な影響を受けた地域を抱えている。

先住民グループが影響を受けることも多い。世界資源研究所によれば、先住民居住地の20%以上が採掘権の対象地域や違法採掘が行われている土地と重なっている。

ブラジルで小規模な金採掘が最も盛んなのは、北部パラ州のタパジョス川流域周辺とされる。

もう1つ採掘の盛んな地域が、ベネズエラとブラジルの国境にまたがる先住民族ヤノマミ族が住む地域だ。ここでの違法採掘は、2015年から2020年にかけて20倍に増加した。

ペルーは世界第6位の金産出国だが、マードレ・デ・ディオスの熱帯雨林地帯では金の違法採掘が盛んに行われている。南東部のブラジル国境沿いに広がる、アマゾンでも最も生物多様性の豊かな地域の1つだ。

<違法採掘が熱帯雨林に与えるダメージは>

金鉱脈を探そうと群がってきた無許可の探鉱者たちは、森林を破壊し、川を汚染し、アマゾンの先住民コミュニティーに致命的な病気をもたらしてきた。

過去10年間、ブラジルやペルー、コロンビア、エクアドル、ボリビアで起きた一連のゴールドラッシュにより、かつての原生林が広い範囲で破壊され、最終的にクレーターが散在する砂漠のような荒涼とした景色になった土地もある。

違法採掘者が砂礫(されき)から金を選別するために使用した水銀が、川と土壌、そして食料を汚染した。

採掘井の溜まり水も、マラリアなどの病気を媒介する蚊の温床となっている。マラリアを最初に地域にもたらすのは採掘者である場合が多い。

金採掘の中心地であるペルーのマードレ・デ・ディオス地方で暗躍する人身売買業者たちは、先住民族の貧しい農村の女性や少女たちを食い物にし、高給の仕事を紹介するという口実で、採掘者たちが通うバーでの売春行為を強いている。

<違法な金採掘を止めるためにできることは>

金の違法採掘の取り締まりは複雑であり、当局はこの問題への対応に苦心してきた。

バイデン米大統領は4月、ブラジルのアマゾン熱帯雨林の破壊を抑制し、金の違法採掘を含めた森林破壊を促進させる要因を解消するための基金に5億ドルを拠出する計画を発表した。この提案は米連邦議会の承認が必要となる。

近年、ブラジルとペルーの軍隊は採掘者のキャンプを捜索し、採掘者を逮捕・起訴し、浚渫(しゅんせつ)船やブルドーザーなどの機材を押収した。

ペルーは2019年、1000人以上の警察官と軍部隊を派遣し、マードレ・デ・ディオスのラパンパ地域における金の違法採掘を根絶しようと試みた。金価格の急騰を受けて、森林破壊が深刻化したためだ。

また今年2月には、ブラジル環境保護庁が武装部隊による作戦を開始。ヤノマミ族が住む同国最大の先住民保護区から、数千人の違法金採掘者を追放しようと試みた。

しかし、警察や軍による取り締まりは、違法採掘を一時的に狭い範囲で阻止するだけにとどまる。どこか別の場所で採掘がすぐに始まるのがいわゆる「風船効果」で、ある地域から締め出された違法採掘は、別の場所で膨らんでしまう。

環境保護活動家らは、採掘業者を立ち入らせないためには、先住民コミュニティーが自らの土地で計画されている大規模な採掘事業について意見を聴取される権利も含め、先住民の権利を保護する法律の強化が必要になると指摘する。

エクアドルでは、先住民グループが違法採掘から自らの土地を守るため訴訟を起こし、最高裁で勝訴している。

エクアドルの先住民コファン族の人々は、違法採掘と戦うため、国内で初めて、IT機器を装備した制服の自警団を立ち上げた。この部隊は定期的に部族の土地をパトロールし、採掘業者を寄せ付けずにいる。

(翻訳:エァクレーレン)

Reuters