米トランプ政権はこのほど、中国脅威への対抗策であるインド太平洋地域戦略の機密文書を解除した。専門家は、政権交代間際に機密の戦略文書が異例にも解かれたのは、このビジョンの継続を後押しし、同盟国や友好国と自由主義の連携の再確認を促す目的があるとみている。
1月5日に機密解除され、12日に公開されたインド太平洋戦略文書によれば、「インド太平洋地域で米国の戦略的優位性を維持し、既存の規範を破る中国の影響範囲が確立されるのを防止し、自由な経済秩序を促進する」ことを大きな目標としている。
米国の安全保障文書は30年以上機密になることが通常とされ、3年前にまとめられた同文書の解除はまれだ。ホワイトハウスのロバート・オブライアン(Robert C. O’Brien)安全保障問題担当大統領補佐官は声明を発表し、解除について「インド太平洋の同盟国やパートナー国に向けて、米国の戦略的関与に透明性を示す」ためと書いている。
米トランプ政権は2017年末、中国との関係を「戦略的競争相手」と定義した。インド太平洋地域における強制力を伴う行動により、米国との対峙があらわになった。この時期に今回の戦略文書の草案は作られ、2018年2月には閣議決定した。戦略作成は主に、当時の国家安全保障会議(NSC)顧問H・R・マクマスター氏と、NSCアジア担当代表で、のちの安全保障補佐官マット・ポッテンジャー氏が関わっているとされる。
文書の中で、米国は地域の同盟国や友好国に対して「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」という共通概念を強調し、軍事を含む技術支援を行い、中国の「一帯一路」に代替するアイデアの存在を伝えていくとしている。さらに、中国の情報作戦によって生み出される「中国の地域支配は避けられない」という言説を打ち払うために、FOIPに基づく強力な公共外交を開発するという。
中国による「第一列島線の支配」を否定
インド太平洋戦略文書は軍事や経済、外交、情報分野にまたがる中国の影響力に焦点を当てている。中国の影響力の急増は米国国益に挑戦し、「米国同盟やパートナー国との解消を図っている」と指摘した。「(米と同盟国の)結びつきが弱まることで生まれる空白とチャンスを利用する」と中国の手法を分析する。
軍事戦略においては、中国が米国や同盟国、パートナー国に対して軍事力を行使することを抑止するため、日本の南西諸島、台湾、フィリピン、インドネシアにつながる中国の対米防衛ライン「第一列島線」をはじめ、中国が空と海を支配しようとする行動に対抗する能力を開発するとしている。
ここには具体的に、「米国の利益と安全保障上の関与を守るために、インド太平洋地域で信頼できる米軍のプレゼンスと態勢を強化する。1.紛争時に第一列島線内での中国の持続的な空と海の支配を否定し、2.台湾を含む第一列島線国を守り、3.第一列島線外のすべての領域を支配する」と記されている。
日米同盟については「インド太平洋の安全保障の骨格と地域的に統合され、技術的に進歩した柱となる」と掲げ、自衛隊の近代化を支援することにも言及した。
大紀元の取材に答えた台湾中山大学中国・アジア太平洋研究所の郭玉仁教授は、台湾が第一列島の安全保障上の重要なパートナーであると明らかにした初めての米政府公式文書だと述べた。また、対中国共産党戦略のなかで第一列島線は重要視されていることが明白になったと付け加えた。
オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)研究員のマルコム・デイビス(Marcom Davis)氏は第一列島線の明記について「中国が台湾の人々の意思に反して併合を強行しようとするならば、米国が台湾の支援に来るという明確な意思を示している」とツイッターに書いた。
インドについては、「強いインドは志を同じくする国々と協力して、中国に対抗する役割を果たす」「米国は強力な軍に支えられたインドと戦略的パートナーシップを強固にする」とし、防衛協力と相互運用性を高め、防衛貿易と防衛技術移転の能力を拡大し、原子力供給枠のインド参加など、エネルギーや情報などの分野の支援も明記した。
また、インドの「アクト・イースト」政策と世界をリードする大国になることを目指すインドの志を支持し、自由で開かれたインド太平洋に加わる同国と日本、オーストラリアのビジョンとの整合性を高めるとした。
政策提言シンクタンク「マラソン構想」創設者のエルドリッジ・コルビー(Elbridge Colby)氏は、「トランプ政権初期に発表したインド太平洋戦略は、米国の戦略を正しい方向に転換させた。アジアを優先し、中国に対抗するための不可避のステップであるのみならず、基本かつ重要なものだ」と評価した。
オーストラリア国立大学安全保障カレッジ代表のローリー・メドカフ(Rory Medcalf)氏はASPIへの寄稿文で、第一列島線に関する具体的な記述や、中国の対抗を見越したインドとの関係強化など、手の内をあえて明かしたのは、「米国利益を損なうリスクよりも開放性を示すことで得られる利益が勝ると判断したのだろう」と予想した。
メドカフ氏はさらに、機密解除は「バイデン新政権が中国の覇権争いに挑戦することのコミットをまだ明白にしていない懸念を反映する」とし、公開することでFOIPに基づく米同盟国やパートナー国の連帯を呼びかけるものだとした。
(翻訳編集・佐渡道世)