12年前、中国で大手乳製品製造メーカーが供給した赤ちゃん用粉ミルクに有毒化学物質が混入している問題が明るみになった。家族や子どもたちは今もなお、健康問題に悩まされている。
「娘は現在13歳で、ずっと体調は良くありません」。王峰さん(仮名)は大紀元の取材に答えた。王峰さんの娘は、この有毒ミルクを飲み、腎臓結石ができた。
王峰さんによると、彼女の娘が6歳の頃に結石は消えた。しかし、別の健康問題が現れ、のちに発達障害と診断されたという。彼女の娘は同じ年齢の他の子どもたちに比べて背が低くて痩せている。リンパ腫や肝、腎機能の異常もみられた。
「娘はてんかんで倒れ…精神発達も遅れています。小学1、2年生程度の知能です。彼女は今中学校にいるはずです」。しかし、受け入れてくれる学校がないため、王さんが自宅で娘に勉強を教えている。
「トマトの目玉焼きの作り方や、『蛋(中国語で卵の意味)』という字の書き方も教えましたが、なかなか覚えられません。50たす50の計算の答えを聞いても、娘は60と答えます」
2008年9月11日、中国の大手粉ミルクメーカー三鹿集団は、有毒化学物質メラミンで汚染された製品があるとして、同社製品の一部のリコールを発表した。
同日、甘粛省では、三鹿の粉ミルクを飲んだ後、59人の子どもが腎臓結石にかかり、1人が死亡したと報道された。
メラミンは多くの工業用途を持つ合成化合物だ。米国食品医薬品局によると、一部の調理器具、紙、工業用塗料などの製造に使用することが認められている。しかし、食品や動物の飼料に添加する直接添加物としては承認されていない。
メラミンは窒素に富み、三鹿は粉ミルクのタンパク質含量を高めるために添加した。
中国国内ではスキャンダルを隠蔽する傾向があり、影響を受けた子どもたちの状況や規模を把握するのは難しい。温家宝首相(当時)は2010年、国営メディアのインタビューで、少なくとも3000万人の子どもたちが汚染された粉ミルクによって影響を受けたと明かした。
中国国営メディアは、中国政府が被害者支援のために20億元(当時レートで約260億円)を準備していると報じた。しかし、多くの親は補償を受けていないと不満を表明した。子どものために正義を求めて当局に陳情したが、親たちは圧力を受け、活動できなくなっている。
王峰さんの家族は経済的に困窮しており、中国当局は十分な支援を行っていないという。「娘は5歳の時に抗てんかん薬を飲み始めました。毎月1000元近くかかります」。障害者として認知された娘は、社会保障として毎月約260元を受け取っている。
大紀元は、もう一人の有毒粉ミルクで健康障害を患った娘を持つ親、陳寧さん(仮名)に話を聞いた。娘は中学に進学でき、性格も明るく学業も順調だと言う。しかし、娘はしばしば腎臓の痛みを訴え、膀胱にも持病を抱えている。
陳寧さんによると、米国では9月11日の同時多発テロの記念碑が建てられているが、中国人は中国で起こったことを少しずつ忘れているという。
被害者の家族らは「中国の911を忘れないで」と書かれたTシャツを作製し、活動の時に着用している。
別の被害者の親、向宇さん(仮名)は、幸運にも子どもに重篤な健康問題は起きなかったと語った。しかし、「政府が提示した賠償金は不当です。子どもの症状は軽く、補償の対象になりませんでした。裁判所に訴訟を起こしましたが却下されました」と向宇さんは述べた。
向宇さんは、被害者の家族が立ち上げたソーシャルメディアチャットグループから、一部の親が損害賠償を請求しようとした際に、地元の保険会社が取り合わないという問題が起きていることを知った。
中国当局は毒粉ミルク問題を語るチャットグループの多くを強制閉鎖しており、被害者たちは情報発信したり、交流する場が奪われつつある。中国は、この事件を忘れているようだと向宇さんは述べた。
子ども擁護団体「腎臓結石の子どもの家」の創設者・趙連海さんには、有毒ミルクを飲んで病気を患った息子がいる。趙さんは2010年、北京で保護者の集会の開催を手伝い、メディアのインタビューを受けた後、「社会秩序を乱す」罪で2年半の刑を言い渡された。
(フランク・ファン/翻訳・佐渡道世)
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