米国防総省が9月1日に発表した「中国共産党の軍事力に関する2020年報告書」によると、中国軍は最新の民用技術を軍事に利用する「軍民融合」政策により、現代化を早めている。他方、外国企業からの強制的な技術移転を利用して欧米の先進技術を入手している。
報告書は、中国共産党が今も外国の機器や技術、知識の輸入に頼っており、技術力の差を埋めていることを説明している。さらに、軍民融合によりどのようなことが起きているのか、またどの中国の民間企業が党の軍事力の構築を支えているのかに重点が置かれている。
中国共産党の軍事費に組まれていない「軍事開発」
中国共産党は2019年、年間国防費予算6.2%増の1740億ドル(国内総生産の約1.3%)に増額すると発表し、米国に次ぐ世界第2位の国防費支出国となった。
しかし、米国防総省の報告は、中国共産党が発表した軍事予算には、研究開発や外国の武器調達など、いくつかの主要な支出項目が書かれていないことを強調した。実際の軍事関連支出は2000億ドルを超えている可能性が高く、公式発表を大きく上回っている。
共産党政府の財政は不透明で計算が難しいが、研究開発の分野に関して中国当局は軍事技術の研究開発部門を再編し、軍民融合の発展に重点を置いた。
2017年、中国共産党中央委員会の下部組織として「軍民統合発展中央委員会」が設立され、軍民統合の責任は一元化された。また、中国共産党国家科学基金会、中国科学院、科学技術部は、科学技術の意思決定と財的支援を行う主要機関であり、中国全土の基礎研究と応用研究、科学技術革新、科学技術のハイテク統合を推進している。
報告書によると、中国共産党は、ターボファン技術やガスタービンを含む航空機エンジン、量子通信、革新的な電子機器とソフトウェア、自動化とロボット工学などの分野に焦点を当て、兵器の研究開発のために、防衛産業部門を大幅に再編した。
ほかにも、超音速兵器、電磁レール砲、指向性エネルギー兵器、対宇宙能力など、多くの先進的な軍事能力を追求している。
防衛産業部門の研究には、軍事に応用できるナノテクノロジー、神経科学、人工知能(AI)、深宇宙探査も含まれている。さらには、核融合や超音速兵器技術の応用、多機能衛星の運用拡大などの研究も進めている。
中国共産党が補助金を与えるAIチャンピオン企業
報告書は、中国共産党がAIを将来の軍事力や産業力に決定的な影響を与えると考えていることを強調している。 中国共産党は、特定の軍民両用技術を重点的に発展させるため、一部の民間企業を「AIチャンピオン」に指定した。AIのグローバルリーダーになるよう政府が支えている。
報告書は、インターネット企業の百度(Baidu)、阿里巴巴(アリババ)、騰訊(テンセント)、通信機器メーカーの華為技術(Huawei)、中興通訊(ZTE)を筆頭とする中国の民間企業が、顔認証や5Gなどの新興技術を進化させるために、イノベーションセンターの設立や新興技術に公的な資金提供するなどして、次世代ネットワークの構築を支えたと指摘する。
2017年に中国共産党は、百度、アリババ、テンセント、科大訊飛(アイフライテック)を国の正式な「AIチャンピオン」企業に選出した。2018年には商湯科技(センスタイム)が加わった。2019年にはさらに華為、海康威視(ハイクビジョン)、曠視科技(メグビー)、依図技術(YITU)など10企業が指定された。
2017年11月、依図技術は、米政府主催の顔認識技術のコンペティションで優勝した。 中国はビデオ監視技術の世界最大市場となっている。
2017年に制定された中国国家情報法によれば、中国企業は民間、国営問わず、中国共産党の国家情報活動を支援、協力することが求められている。海外に設置された支社もこれに従う必要がある。
中国共産党は多額の補助金をテコにして、民間企業や学術機関に省政府および軍と協力させ、先端技術の開発を進めてきた。さらに、特定分野の技術はいまもなお外国技術に依存しているが、海外企業から不当な方法で中国へ技術を移転させ、技術力の差が縮まりつつある。
2019年9月、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、米国の当局者の話と新しい報告書を引用して、共産党が軍事力を強化するために民間企業を利用して外国の技術を獲得するケースが増えていると報じた。
同紙によると、中国共産党は技術進歩を促進するため、民間企業が国防関連の契約に入札するよう推している。これまでの長い間、国防関連の事業は一握りの国有企業や研究機関に占有されていた。
米商務省は4月28日、米国の半導体製造装置などの先端技術が中国で軍事転用されるのを防ぐため、中国に対する技術輸出規制を強化した。
商務省は8月17日、華為技術への輸出管理を強化し、21カ国にある華為の関連会社38社を禁輸対象の「エンティティリスト」に追加したと発表した。
国防総省は6月20日、中国軍と協力する企業20社を指定し制裁リストに追加した。多くは航空技術、通信、原子力発電、海運などに関係の企業。華為や海康威視のほか、中国移動、中国電信、中国航空工業公司なども含まれていた。
8月28日、国防総省はさらに中国中化集団や中国交通建設など11社を同リストに追加した。国防総省は発表で、中国の「軍民融合」戦略について「企業や大学などが取得・開発した先端技術やノウハウを中国軍が入手できるようにするものだ」とし、今回の認定が対抗措置であることを明らかにした。
(翻訳編集・佐渡道世)
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