米国上院議会は1日、2019会計年度(18年10月~19年9月)の国防予算の大枠を定める国防権限法案を可決した。予算総額は7170億ドル(約80兆3000億円)。法案には南シナ海問題や孔子学院など、中国に対するいくつかの厳しい対抗措置が盛り込まれた。
1200ページもの法案書類のなかで、中国への言及回数は66回、次いでロシアが55回、イランが8回、北朝鮮が3回であることから、国防総省が中露を念頭に防衛戦略を敷いていくことがうかがえる。
7170億ドルの国防予算は前年度比で約2.3%増加となる。賛成87反対10で可決した同法案は、すでに前週に下院で可決した。現在の米政権は対中国強硬姿勢であることから、詳細の調整を経てトランプ大統領が承認し、署名するとみられている。
同法案は特に、中国が影響力を拡大させている「インド太平洋」地域の戦略と計画に広く詳細に言及しており、過去に使用した「アジア太平洋」地域という言葉を使わなかった。「中国は現代化した軍事力とルールに反する経済的行為で、インド太平洋諸国で影響力を増し、秩序を圧迫している」と指摘している。
ラジオ・フリー・アジアによると、米国の世論は、米政府がインドなど同地域のパートナー国の役割を重視しているとみている。また、トランプ政権は同地域における米国の関与において、前オバマ政権と一線を画し、踏み込んだ政策を採るとみている。
法案は、米国と台湾の合同訓練、武器販売、軍事交流を拡大についても明記した。
ワシントン拠点の人権団体「公民力量」の楊建利氏は、トランプ大統領の対中政策は、両国の根本とする価値観の違いを露呈していると述べた。「中国は世界で既存のルールを変えてきた。関係国の大きな反発を招いた」。
この米国の法案は、中国共産党政府の世界的な影響力の拡大を懸念し、幅広い分野の抑制策を打ち出している。
第1に、米国の技術輸出の制限を強化する。米国外資委員会(CFIUS)は国家安全保障の観点から中国の対米投資計画の審査を強化する。
最近、米政府が外国資本の投資を見直したことなどから、中国企業の対米投資は減速した。しかし、中国企業はまだ米国の多くの経済分野で大量の資本を支配している。また司法省は、米国で技術を学んだ中国人が機密技術を中国に渡した例を数多く公開した。
第2に、この法案は、中国共産党政府の思想宣伝を担う中国語教室「孔子学院」が、米国の教育機関に資金提供をすることを制限している。中国教育部(文部省)が全面的に管理する中国文化プロジェクトである孔子学院は現在、米国の大学などに110設置されている。
中国国務院などは、孔子学院について、国際社会に中国語と中国文化を普及させることを目的とすると説明している。しかし、米国社会では、中国共産党による統一戦線(共産主義の革命運動)の宣伝機関であると認知されている。学院は言論の自由に対する規制や共産党賛美を通じて、世界範囲で洗脳を施している。
第3に、この法案では、中国が、2年に一度開かれる環太平洋海戦演習(RIMPAC)に参加することを禁止している。米政権は中国が南シナ海を軍事拠点化していることを問題視している。この禁止措置の解除には、中国が南シナ海諸島でのすべての埋立地を放棄し、開発を停止し、兵器システムを除去することを条件とした。
バージニア州拠点のシンクタンク「プロジェクト20149」は、ウォールストリート・ジャーナル紙に対して、新たな米国防予算のなかの南シナ海の構想は、同地域の米国同盟国であるオーストラリア、日本、台湾に向けられた、中国の許容できない行動への警告だと分析する。
米FBIクリストファー・レイ長官は最近ワシントンで開かれた安全保障フォーラムで「中国は単独で支配的な超大国としての位置づけを確立しようとしている。さらに米国から世界の地位を置き換えようとしている」「中国を仮想敵国とみなせば、米国が直面する最も広範囲で挑戦的、強大な脅威であると考える」と述べた。
(編集・佐渡道世)
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