法輪功迫害 中国人権

「中国根本の問題、善悪の判断だ」法輪功裁判に臨む弁護士たち

2018/07/31
更新: 2018/07/31

「世界最大の人権問題を抱える国は中国であり、しかも中国最大の人権問題は法輪功だ」。中国の弁護士・謝燕益氏と謝陽氏は5月15日、検察当局と北京の裁判所あての書簡につづった。両氏は北京で拘束されたカナダ籍の法輪功学習者の裁判を担当している。

この書簡は、2人の弁護士が、中国共産党政権が国家ぐるみで弾圧政策を敷く法輪功問題という困難な裁判を有利へと運ぶために、国内外にその迫害の非人道性を知らせる目的で公開された。

法輪功迫害情報を伝えるメディア明慧ネットによると、4月23日、2人の弁護士は北京朝陽区裁判所で開かれた予備審議に出席した。検察から弁護士に対して、膨大な起訴状の読み上げや、孫さん側が主張する不当な資産没収、拘留所での拷問、虐待の証拠ビデオ提出など、不合理な要求があったという。

こうした状況を受けて、2人は北京市朝陽区裁判所、同地区検察院あてに「即刻、孫茜さんを無罪釈放するように」と題した意見書を送付した。カナダ籍をもつ孫さんの釈放に注視を呼びかけるため、カナダの国会議員向けにも書簡を海外で公開した。

書簡は、法輪功迫害の深度を説明している。「法輪功学習者が絶命に至るほどの迫害が20年近く続いている。その犠牲は(中国における)第二次世界大戦後の犠牲を上回り、終戦以来最大の人道被害といえる。何千万もの人が不当に扱われ、差別され、何十万人から何百万人に有罪判決が下り、労働教養を受け、不法に拘禁されている。数万人から数十万人が迫害により死亡し、臓器を強制摘出されている。収監されれば拷問は日常的で、そうでなければ監視される」。

2人の弁護士はまた、法輪功学習者の非暴力の姿勢を強調した。弁護士によると、中国全土で迫害が始まって以後、法輪功学習者は暴力や違法な手段で事件を起こしたことはないとした。裁判で有罪となるのは「言論犯罪」「思想犯罪」といった、政治的理由による罪名が多いと指摘した。

2人の弁護士が法的代理人を担うのは、北京リードマン化学副社長で創業者・孫茜さん(52)で、2017年2月、自宅に押し入った警察に強制連行された。法輪功を信仰する孫さんは、中国香港富豪レポート・胡潤の上位500にも名が載る総資産35億元(約500億円)の新興富豪で、北京とトロントを往復する生活を送っていた。

同年3月、検察は、中国刑法第300条「邪教を利用した法律を破る行為」の罪名で孫さんを刑事告訴した。同時期に彼女の資産20億元が司法当局に押収された。

司法・行政・国会の三権を共産党が牛耳る専制体制下の中国では、超法規的な政治的理由で、個人や組織が「犯罪者」として罪を問われることが少なくない。法輪功のケースもこれにあてはまる。

2人の弁護士は4月の予備審議で、公安部の定める「違法指定邪教14組織」に法輪功の名はなく、法律上、法輪功を信仰する孫さんは何ら違法行為をしていないと主張した。「法輪功は完全な合法である」と2人の弁護士は法的資料を掲げて、検察の主張の法的矛盾を指摘している。

1年半で11人が交代する裁判 弁護士に圧力

法輪功迫害情報を伝えるメディア明慧ネットによると、孫さんの事案を担当した弁護士は1年半ほどで11人変わった。現在の2人の弁護士の前は熊冬梅氏、黃漢中氏、高承才氏ら知名度のある人権弁護士たちが担当していた。しかし、当局の圧力のために孫さんの事案からの撤退を余儀なくされた。中国司法部(法務省)は、弁護士資格証の一時没収や、所属弁護士事務所の営業許可の停止を示唆、弁護士家族に対する嫌がらせをしているという。

高承才弁護士と孫茜さんの母親、
北京市朝暘区裁判所の前で(明慧ネット)
 

高承才弁護士は、検察院と北京市刑務所監察委員会を相手取る訴訟状を作成した。「1.邪教指定ではない法輪功の学習者を信条を理由に刑事告訴するのは法的誤りであり、逮捕や起訴は権力濫用罪にあたる  2.拷問は違法であり、法輪功学習者は警察の捜査を受けても自由と身の安全が確保される権利があり、これを犯してはならない。拷問を行った看守を処罰するべき」といった内容だったが、両組織は訴状の受け取りを拒否した。

1999年に江沢民・中国共産党主席が発動した法輪功弾圧政策は「徹底的な殲滅(せんめつ・残らずほろぼすこと)」のもと、膨大な資金を投じて全国各行政に弾圧専門組織「610弁公室」を設置し、恐怖による弾圧が繰り広げられた。官製メディアは今日もなお法輪功に対するネガティブキャンペーンを終わらせていない。「違法」とみなし、婚姻手続きを受理しない、理由のない解雇、警察による家財押収、風評被害など、信仰者は正常な生活を送ることができない。

同時に、法輪功学習者の裁判を担当する弁護士も、当局の弾圧対象となっている。クリスチャンである高智晟・弁護士は、法輪功や家庭教会の無報酬の弁護を引き受けていた。2006年、当時の胡錦涛国家主席に「法治の徹底」を求める公開書簡を発表したことで、「政権転覆罪」で有罪判決が下った。以降、収監所ではすべての歯を抜かれたり、爪をはがされたり、説明されない薬物を注射されるなどの拷問を受け、釈放後も自宅軟禁や拘束が繰り返されている。

2015年12月ごろの高智晟弁護士。新疆の自宅で撮影、拘留や軟禁が繰り返されている(大紀元資料)

2015年7月に中国公安部が300人以上の弁護士たちを一斉拘束したが、この多くの弁護士たちは、法輪功学習者の無罪を主張する弁護士たちだった。

北京の著名弁護士・余文生氏は2016年の大紀元の取材に対して、「法輪功学習者は十数年来、真実、善良、寛容を信仰とするだけで有罪判決が下った」「過去の非暴力性からみても、すでに法輪功は無罪であると証明している」と述べた。法輪功迫害や人権問題を多数請け負ってきた余弁護士は2018年1月に公務妨害罪、扇動転覆国家政権罪の罪で検察に起訴され、徐州市看守所に収監されている。

ニューヨーク在住の著名な人権弁護士・滕彪氏は大紀元の取材に対して、孫さんの代理人を務める2人の弁護士は非常に勇敢だと称えた。同時に、共産党当局による圧力や報復に遭う可能性が高いと指摘した。

滕彪氏の推察通り、書簡公開から約1週間後、謝燕益氏が所属する北京弁護士協会は、謝氏を辞職させると発表した。事務所の外にいた謝弁護士と妻、香港メディアは警官から暴行を受け、一時拘禁された。

謝陽氏は湖南省の人権弁護士。土地収用問題や宗教弾圧、公民運動などを担当してきた。2015年の弁護士大量拘束事件でも国家転覆扇動罪で逮捕され、収監中は拷問を受けた。釈放後も、人権弁護を担当している。

滕彪氏は「中国共産党による弁護士への抑圧はより厳しくなり、人権裁判での担当者の危険性はますます高まっている」と述べた。また共産党は、党が隠蔽したい事案や国際的な評判を下げる人権問題を担当する弁護士全員を抑圧しているという。「恐怖で弁護士の動きを封じ込めるのが狙いだ」と語った。

孫茜氏の裁判を担当する謝燕益弁護士と謝陽弁護士は、法輪功に対する迫害は、良識と人間性を傷つけ道徳をゆがめたと、問題の深刻さを指摘している。2人の弁護士は書簡で、法輪功迫害は中国の抱える問題の根本があり、これを違法とするか合法とするかの判決により、中国の善悪と正邪の判断が評価されるだろうと述べている。

2人の弁護士は書簡の中で、法輪功迫害問題について「人々の人生を痛めつけ魂を毒害したこの迫害は、人道に対する災害といえる。しかし、私たちは状況を変化させることができると信じている。法の支配と正義の権利は、この迫害に手を染める政府の力より大きい」と使命感をつづっている。

(編集・佐渡道世)