[シンガポール 6日 ロイター] – 歴史的な米朝首脳会談が開催される会場は、第2次世界大戦中に日本軍の捕虜収容所があり、「背後から忍び寄る死の島」と呼ばれたシンガポールのリゾート地である。
この島は現在、平和と平穏を意味するセントーサと呼ばれる。12日に首脳会談が行われるカペラ・ホテルは、英王立砲兵連隊の施設を改修して造られており、伝説によると、芝生の下には銀が埋蔵されている可能性があるという。
首脳会談を6日後に控え、広大なこの高級ホテルにはほとんど観光客はいなかったが、大勢の警官や他の治安要員や職員らが準備に追われていた。
今のところ、ホテルはすでに入っている予約は受けるものの、今後は受け入れないとしている。
シンガポールではこれまでも、主要なサミットが行われてきたが、セントーサ島では一度もない。同島は、ビーチやホテル、カジノやユニバーサル・スタジオがあることで知られる。
「つまりそれは、一からセキュリティー対策を練らなくてはならないことを意味する」と、アデムコ・セキュリティー・グループのマネジングディレクター、トビー・コー氏は言う。同社はアジア数カ国の企業にセキュリティーシステムを提供している。
コー氏は米朝首脳会談のセキュリティーには関与していない。
米国と北朝鮮は、厳密に言えば、いまだ戦争状態にある。両国は、中国と共に、朝鮮戦争(1950─53年)を終わらせた休戦協定の調印国である。トランプ米大統領は、朝鮮戦争を正式に終結するための文書に署名する可能性を示唆している。
シンガポールはセントーサ島全域を米朝首脳会談のための「特別区域」と宣言。セキュリティーチェックが強化され、交通も制限される可能性がある。また拡声器やドローンの使用も禁止される。
来週の数日間、島にある他のホテルや施設も影響を受けることになるが、マネジメントを任されている政府機関は「通常通り」だと言う。
だが、セントーサ島の高級住宅に住む人たちは、さまざまな遅れを覚悟している。シンガポール本島とは、道路やモノレール、ケーブルカーでつながっている。
「セントーサ島への出入り口はたった1つしかなく、もしそれが完全に閉鎖されれば、大いに不便になることは確実だ」と同島の女性住人は語った。
かつては墓地であり、マレー語で「背後から忍び寄る死の島」を意味するセントーサ島は1970年代、埋め立てにより拡大され、観光地として開発された。
<芝生の下>
カペラ・ホテルには、英王立砲兵連隊の将校らの宿泊所として使われた植民地時代のバンガロー2棟のほか、連隊の食堂があった。ホテルのウェブサイトによると、将校らは、日本軍の侵攻を前に食堂に面した場所に銀を埋めたという。
その後、一部はマレーシアによって回収されたが、「残りの行方はいまだ不明であり、芝生の下に眠っている可能性がある」とウェブサイトには記されている。
カペラ・ホテルは、シンガポールの資産家、クウィー家が経営する不動産開発会社ポンティアック・ランド・グループが所有する。昨年、リッツ・カールトン初代社長のホルスト・シュルツ氏から買い取ったものだ。
客室112室のほか、スイートルームやヴィラやマナーハウスもある。ベッドルームが3部屋ある植民地時代のマナーハウスの宿泊費は1泊1万シンガポールドル(約83万円)。このほか、ホテルの敷地にはプール3つやテニスコート、スパがある。
発表されてはいないが、米朝首脳がセントーサ島に宿泊する可能性は低いとみられる。
シンガポール政府は、もう1つの特別区として、市街中心部に近い地域を指定。そこにはいくつか高級ホテルも建ち並び、米朝両国の代表団が宿泊できる収容能力を備えている。
オーチャード地区には、主要国大使館の大半や国際刑事警察機構(インターポール)の拠点、分譲マンションや高級ブランド店やショッピングモール、怪しげなバーやマッサージパーラーがある。
米朝会談の会場として浮上していた主要ホテルのいくつかからほど近い場所にあるオーチャードタワーには、カンボジアやルーマニアの大使館があるが、夜に活気づく「ノーティーガール」や「トップ5」といった一連の施設も入っている。
そこからそう遠くない場所にあるシャングリラ・ホテルでは2015年、中国の習近平国家主席と当時の台湾総統である馬英九氏の歴史的会談が行われた。
また同ホテルでは先週末、インドのモディ首相やマティス米国防長官らが出席した毎年恒例のアジア安全保障会議(シャングリラ対話)が開催された。地元メディアは、トランプ大統領が同ホテルに宿泊する可能性があると報じている。
セキュリティーは、世界で最も安全な国の1つと位置づけられているシンガポールにとって最優先事項となるだろう。同国は近年、テロ対策を強化している。
米朝首脳はそれぞれセキュリティーチームを同行させるだろうが、グルカ兵を含む精鋭のシンガポール警察が会場や道路、ホテルの警備に当たると、シンガポールの要人向けセキュリティーに詳しい外交官らは話す。
「米朝首脳会談という唯一無二のイベントがもつ繊細さと特異性により、予測不可能なことはほぼ何であれ、会談自体に影響を及ぼしかねない」と、ラジャラトナム国際研究学院(シンガポール)のグラハム・オンウェブ研究員は語った。
Dewey Sim and Aradhana Aravindan(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)
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