中国の元テレビキャスターが5月末、ソーシャルメディア上で、中国著名女優ファン・ビンビン氏が脱税していると告発した。これを受けて、中国国家税務総局は芸能人の脱税問題を調査すると表明し、政府系メディアもファンビンビン氏への批判を強めた。専門家は、ファン氏の脱税騒動を利用して当局は国内世論の天安門事件などへの注目をそらそうとしたとの見解を示した。
騒動のきっかけ
中国国営中央テレビ(CCTV)の元アナウンサーの崔永元氏は5月28日と29日の2日間連続で、中国版ツイッター「微博」を通じて、ファン・ビンビン氏について「陰陽契約」が存在するとし、「たったの4日間の撮影で出演料合計6000万元(約10億2000万円)を得た」と主張した。陰陽契約とは、芸能事務所は税務当局に提出用の契約書と、実際に所属タレントと交わす契約書を別々に作成する二重契約のことで、脱税の手口の一つだ。
渦中の女優・ファンビンビン氏は山東省出身で、デビュー後その美貌でたちまち人気スターとなり、数々の作品に出演した。2017年、「世界の果てまでイッテQ!」に出演し、日本でもその名が知られるようになった。
ファン氏はこのほど、国内最新映画『手機(携帯電話)2』のヒロインにキャスティングされた。同映画は2004年に上映された人気映画『手機』の続編。前編では、主人公である人気討論番組の司会者がある日、携帯電話を家に忘れ、慌てて取りに帰るその様子が妻に怪しまれ、やがて浮気がばれた。しまいには離婚され、うつ病に罹り、その後携帯の使用をやめたという内容だった。ファン氏が主人公の浮気相手役を演じた。
中国国内では、映画『手機』の主人公のモデルは崔永元氏とされている。同氏は2002年、うつ病が理由でCCTVの人気討論番組「実話実説」の司会者を降板した経緯があった。崔氏はこの映画で侮辱されたとして、たびたび、SNS上で同映画の監督の馮小剛氏らを非難した。
『手機2』は近日中に撮影が開始される予定。ファン・ビンビン氏は前作と同じ役を演じる。
共産党機関紙も批判
騒動を受け、国家税務総局は芸能界の脱税問題を調査するよう指示した。中国紙・法制日報(3日付)によると、ファン・ビンビン氏の個人事務所、「范氷氷工作室」がある江蘇省無錫市の税務当局はすでに捜査を始めたという。
この問題に国営メディアも「関心」を示し、連日のように取り上げた。国営中央テレビは3日、「違法行為があった場合、厳罰に処するべきだ」とファン氏に厳しい姿勢を示した。
共産党機関・人民日報は4日、国際的に有名でファンが多く人脈も広いファン・ビンビン氏に「特権はない」と手厳しく批判した。
当局の狙い
一方、一部のネットユーザーは、芸能人らの脱税は「公然の秘密」で、なぜ崔氏と国営メディアがファン・ビンビン氏だけを非難するのかと疑問視した。
大紀元コメンテーターの李沐陽氏は、6月4日は1989年天安門事件の29周年記念日で、また3日に北京で米中通商協議が終了したばかりで、当局は神経をとがらせていると指摘した。
「当局がファン・ビンビン氏の騒動を繰り返し報道することで、天安門事件などについて世論の関心をそらすためだ」とした。
ネット上では、当局が今後芸能人の脱税問題に対する取り締まりを強化し、同氏の資産を没収する可能性が高いと予測される。ネットユーザーは、没収される資産は「空っぽになった国庫に充てるだろう」との見方を示した。
また、一部のネットユーザーは、芸能界における二重契約の根本原因は当局の政策と関係すると指摘した。当局は、芸能人が高い出演料を取ることを禁止し、違反者に厳罰を下す。こうした干渉行為によって二重契約の問題が生じた。
中国の税制度に不満を示したネットユーザーもいる。中国国民が収めた税金の大半は、国営・国有企業や地方政府と癒着する民営企業に融資されたり、汚職官僚に着服されたりしており、社会保障や教育に全く投入されていない。中国の富豪や芸能人も様々な手法で脱税し、「一般市民は真面目に納税しているのに、金持ちは数千万の収入があっても脱税できてしまう。この国に正義はもうない」とユーザーは批判の声を寄せている。
一方この騒動で4日、中国国内株式市場で、映画関連銘柄が急落した。映画製作大手「華誼兄弟」の株価は前日比で約1割下落した。ファン・ビンビン氏が株式を保有する「唐徳影視」はストップ安となった。株安で、この日映画関連銘柄全体で114億元(約1938億円)規模の時価総額が消えた。
ファン・ビンビン氏の事務所は5月29日声明文を公表し、二重契約による脱税を否定し、崔氏が「誹謗中傷した」と非難した。
(翻訳編集・張哲)
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