中国当局は、国内保険大手の安邦保険集団(以下、安邦)に対して、海外での投資や買収を認可しない姿勢を示した。また、中国国内外メディアはこのほど、安邦の呉小暉会長に対してマイナスの報道が目立っている。背景には、習近平当局による金融セクターへの粛正強化と関係するとみられる。
香港紙「蘋果日報」(4月22日付)によると、中国当局は、2016年から米国保険会社の「フィデリティ・ギャランティ生命」や高級ホテルグループの「ストラテジック・ホテル&リゾート」と「スターウッド・ホテルズ&リゾーツ」との総規模212億ドル(約2兆3532億円)の買収を計画してきた安邦に対して、ストップをかけた。
同報道によると、中国金融当局の一つである保険監督管理委員会(保監会)は、総資産に占める海外での投資額比率が高すぎるため、同社の海外買収案を却下した。これを受けて、安邦は4月に「フィデリティ・ギャランティ生命」の買収を断念すると発表した。「ストラテジック・ホテル&リゾート」買収案に関しては、中国当局はまだ認可していないという。
中国大手企業は、海外企業の買収をあいついで取りやめている。中国共産党政権が資金の国外流出を厳しく規制しはじめていることが主な原因とみられ、専門家は今年、中国企業の対外投資は低迷期に入ると予測している。
「爆買い」安邦、資産は32兆円 トランプ氏娘婿の不動産交渉や日本の不動産に触手のばす
2004年9月に中国浙江省寧波市で設立した安邦の総資産規模は、設立当時の5億元(約81億円)から現在の1兆9710億元(約32兆円)に急速に拡大した。近年海外の保険会社やホテルなど次々と買収したことで注目された。
なかでも、2014年10月、安邦は19億5000万ドル(約2164億5000万円)との米国史上最高金額で、ニューヨーク市にある最高級ホテル「ウォルドルフ=アストリア」を爆買いしたことで、世界にその名を知らしめた。
2016年11月には、安邦は、米投資大手ブラックストーンが保有する日本の東京、名古屋、大阪などの不動産の買い取り交渉をしたと、ロイター通信が報じている。
「蘋果日報」によると、汚職の疑いで保監会元トップの項俊波氏が失脚した後、習近平当局は国内保険企業などへの取り締まりを一段と強化した結果、活発に海外企業を買収してきた安邦には、その動きが突如、止まったという。
さらに、安邦は今年3月、トランプ米大統領の娘婿で上級顧問のジャレッド・クシュナー氏の親族が経営する企業、クシュナー・カンパニーズとの間で、ニューヨーク市マンハッタンのオフィスタワー「666フィフス・アベニュー」の再開発交渉も打ち切りとなった。
海外へ急進出、次の粛正のターゲット?
中国国内では、海外への急進出を果たした安邦には批判の声が集まった。
3月20日、人民銀行(中央銀行)の潘功勝副総裁は国内の講演会で、「一部の企業はすでに高い負債を抱えているが、また莫大な借金をして海外で買収を進める。また一部の企業は直接投資との名義で、資産を海外に移転している」と暗に、安邦を批判した。
朱鎔基元首相の息子で、金融投資大手中国国際金融有限公司の前社長の朱雲来氏は、3月末に開催された「ボアオ・アジア・フォーラム」で、安邦が米「ウォルドルフ=アストリア」の買収を言及し、「空手套白狼(本来、素手で白い狼を捕まえるとの意味だが、現在では、投資も努力もしないで高価なものを手に入れようとすることや、ハイリスクハイリターンな商売をすることを指す)のやり方だ」と批判した。
米国の中国語紙「明鏡郵報」は4月26日に、安邦の呉小暉会長は民生銀行から1000億元(約1兆6100億円)以上の不正な資金貸し付け問題で当局からと取り調べを受けたと報じた。しかし、呉会長は同日、国内メディアの取材に応じて、「明鏡郵報」の報道を否定した。
しかし一方で、親習近平陣営とされる国内経済情報サイト「財新網」は27日、安邦傘下企業の「安邦人寿」と「安邦財産保険」の純現金収支がマイナスとなったことを報じた。さらに29日、同サイトは安邦が過去違法増資を行ったとの分析記事を掲載した。また、呉会長には、再々婚した中国元最高指導者の鄧小平の孫娘・鄧卓芮氏を含めて、3回の離婚経験があったとも報じた。
それに対して、安邦側は30日同公式ウェブサイトで、財新網の分析記事が「安邦に恥を掻かせた」「3回の離婚経験や、(鄧卓芮氏との)夫婦関係が終わったことを確認されたというのは全くのデマだ」として、今後財新網親会社の財新転媒グループを相手に訴訟を起こすとの声明を発表した。
今後、業界大手の安邦と呉会長の動きに注目がさらに集まるとみる。
(翻訳編集・張哲)
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