北京の清華大学社会学教授・孫立平氏は最近、貧富の差により生まれた中国社会の深い闇について記した文章を発表した。孫教授はビジネスマンの友人の体験談を紹介。友人が接待のために招かれた「足裏マッサージ」店では、盲目の少女が舌で客の足をなめるというサービスを提供していたという。
盲目の少女の屈辱的な仕事
孫教授は、一般企業に所属する友人が中国南部に出張したときの体験談をつづった。現地企業の社長から「足裏マッサージ」に招待された友人が目撃したものは、驚くべきものだった。
「その社長は(片方の足をなめさせながら)もう片方の足を、少女の顔に擦り付けていた。嫌々ながらも、少女は一所懸命にその社長の足の指を吸っていた。足の指を全部なめ終わると、胸元から水を取り出して何口か飲み、今度は社長のかかとに軽く歯を当てて、歯でマッサージを始めた」という。
孫教授は、こんな侮辱的な行為が商売になっているのは異常なことだが、いっぽう「辱めを受けるような仕事でしか、この盲目の少女達は生きていく(生計を立てる)方法はないのかもしれない」という残酷な現実を、深く考えさせられたとつづる。
このマッサージ店の話は極端で極めて異常な一例であるかもしれないが、現実社会では、全ての人々に対して似たような「日常的な侮辱」が、まるで一種の社会的儀式でもあるかのように普通に存在している。
カネで人を図る視点
孫教授は、人に対する日常的な侮蔑は、相手が金持ちかどうかで態度を変えたり、金持ちを優遇し貧しい人を軽蔑視したりするといった心理とつながっていると指摘している。そして、経済状況で相手の価値を判断するという風潮は、公的権力を行使する際に特に顕著であると指摘している。
例えば、2003年9月に上海公安は『浮浪者に同情してはならない』という公報を漫画で発表した。都市部の若いカップルが郊外をドライブしていると、路傍に浮浪者がいた。それを見た女性側が「よそから来た人ね、お気の毒に」と口にすると、男性の方が「彼らに同情すべきでないよ。彼らの路上生活は、私たちの文化的な都市生活にマイナスのイメージを与えるから」と女性をいさめるという内容だ。
さらに漫画には、「駅や港、高架橋の下や人通りの少ない路上、都市部と郊外との境などにいる家族を連れている路上生活者は、地方から来た者だ。ボロボロの服を着て、非常に不潔であり、怠惰で勤労意欲がないため、ごみをあさってその日暮らしをしている。文化的な大都市生活に大きな負のイメージを与え、上海の治安を悪化させている。だから市民は決して彼らに同情したり、施しを与えたりしないように」との、上海警察の但し書きが添えられていた。
孫教授は、この政府公報が典型的な「日常的な侮辱」であり、「金持ちを優遇し、貧者をさげすむ」という公的権力の体質を如実に表すものだと語り、「日常的な侮辱」が横行する社会とは、侮辱することを正当化し、侮辱されることに異議を申す人を罰する権利を持っている社会のことだと憤りを隠さない。
腐敗社会 投資額で交通ルールの罰則が軽減
孫教授は、中国当局が公的権力によって社会的勝者や富裕層を優遇し、特権まで与えていることにも大きな疑問を呈している。例えば、政府役人は金持ちを見つけると笑顔で受け入れ、社会の基本的な規則ですら(彼らのために)変えることまでやってしまう。実際、一部の県級都市の政府は、「既定の金額を上回る投資を行った企業家に対し、交通違反の罰則が軽減される」という規定を設けている。
孫教授は、06年にノーベル平和賞を受賞したバングラデシュのムハマド・ユヌス氏が創設した「マイクロクレジット」にも触れている。ユヌス氏は、貧困は社会制度によりもたらされるため、たとえ物乞いをするほどの貧者であっても、チャンスさえ与えられれば豊かになれると考えている。だが貧困層は通常、銀行から融資を受けられないため、結果的に富裕層はますます富み、貧困者はますます貧しくなってゆく。
孫教授は、ユヌス氏の創設したマイクロクレジット制度(比較的低金利で行う無担保融資)が、貧困層に対する本質的なサポート制度であり、こうした制度は、貧困者の人としての尊厳を高めることとも深くつながっているとも語っている。
(翻訳編集・島津彰浩)
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