中国ではここ数年、各地の鉱山で賠償金目当ての殺人事件が頻発している。犯人らは、ある映画に描かれている犯罪手口を模倣しているとも見られており、中国国内からは、人心の荒廃や良心の欠如を嘆く声が挙がっている。
3人の鉱山労働者が身寄りのない男性に近づき、山東省の鉄鉱山会社で一緒に働こうと誘った。男性が就職して10日後、3人は共謀して切り立ったトンネルからこの男性を突き落とし、更に石や岩を落とた。男性は体を強く打ちつけ死亡した。彼らはその後会社に対し、男性が誤って転落したと虚偽の報告を行った。
数日後、死亡した男性の親戚と名乗る男性3人、女性1人が会社に現れ、賠償金を請求した。鉱山所有者は、事故を当局に通報しないと彼らに約束させた上、彼らに対し70万元(約1100万円)の賠償金を支払った。
各地に存在する、賠償金詐欺殺人事件の犯罪グループ
ニューヨークタイムズ紙は、2014年に中国山東省で起きたこの事件を、ある賠償金詐欺グループがこれまでに起こした数々の賠償金詐欺・殺人事件の一例として報じた。詐欺グループは、身寄りのない男性(一部知的障害者を含む)に接近しては、鉱山の仕事に誘い込み、事故を装って殺害し、鉱山会社に対し賠償金を要求していた。
雲南省の石笋村では、鉱山での殺人賠償金詐欺がまるで一つの新興産業形態となったかのように頻発している。5月末、17件の殺人事件について74人の容疑者が起訴され、そのうち40人は同村内の人物だった。警察は、彼らがその他35件の不審死の案件にも関わっているとみて、現在調査を進めている。
だがこうした殺人事件が頻発しているのは、ここ石笋村だけではない。
2011年、四川省雷波県では男性9人が同様の容疑により起訴された。地元警察は、現地の犯罪グループが鉱山での賠償金詐欺を目的として、少なくとも20人を殺害したと発表している。2014年には、河北省邯鄲市で4人の出稼ぎ農民を殺害した疑いにより21人が告訴され、犯人らが鉱山事故を装っていたことが明らかになった。また昨年には、寧夏回族自治区で犯罪グループの構成員10人が同様の手口で5人を殺害するという事件が発生している。
同様の事件は後を絶たず、中国国内には苦い論争が巻き起こった。犯人らが、自分の生活のためには社会的弱者を殺しても構わないという考えに至るまでに、いったいどれほどの内なる良心がうち捨てられ、法律が蹂躙されたのだろうかと。
殺人で生計を立てる人々
石笋村は貧しい村だが、ニューヨークタイムズ紙の記者が取材に訪れた際、大通りに3階建ての立派なビルが立ち並んでいるのが目に入った。そのうち1棟は王福祥という村民の所有物だったが、近隣の村人は取材に対し、王と他の数人の村民が時々村から姿を消すことに気づいていたと語った。そして数日から数週間後には大金を手にして帰ってくるため、一部の村民は、彼らが麻薬の密売に手を染めているのではないかと噂し合っていたという。だが昨年、王福祥は別の容疑で逮捕された。
王福祥容疑者の娘、胡雲さんはニューヨークタイムズに対し、父親が何をしていたかを本人の口から聞いたことはないし、自分から尋ねたこともなかったと話している。
だが2年ほど前から、胡雲さん自身も何かがおかしいと感じ始めていたという。「父のお金は、正当な手段で稼いだものではないという気がし始めていた」
またある農民は同紙の取材に対し、村にあるビルのうち少なくとも8棟は、人の血(命)からできていると耳打ちした。
映画「盲井」が犯罪手口の「教科書」か
こうした犯罪手口が広まった背景には、2003年に公開された映画「盲井」があるのではないかと推測する人もいる。この映画には、鉱山労働者の男性2人が同僚を殺害し賠償金詐欺を働く様子が描かれているが、これは実際の犯罪手口と酷似している。
裁判記録により、鉱山での賠償金詐欺殺人事件の発生件数が近年増加し続けているのは、賠償金額が吊り上がっているからではないかと考えられる。中国当局が鉱山の安全管理体制を重視するようになったため、鉱山会社は当局から摘発され、事故責任を追及されるよりも、口止め料として遺族に多額の賠償金を支払って内密に処理することを好むからだ。
こうした実際の事件と、映画「盲井」との唯一の違いは、恐喝される金額がケタ違いだという点だ。映画では犯人は鉱山会社に対し3万元(約45万円)を要求したが、石笋村の犯罪グループは50万から80万元(約760万~1200万円)という巨額の賠償金を要求した。
(翻訳編集・島津彰浩)
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