近年、中国企業による対外投資や海外企業買収が急拡大している。その背後にあるは、中国政府の「走出去」戦略(中国企業が積極的に海外進出する政策)ではなく、経済の急減速によるリスク回避を目的として資金を海外に移転することだ。6月26日付大紀元英語版が伝えた。
同報道によると、昨年1年間の中国企業による対外投資規模が1231億ドル(約12兆6100億円)だったのに対し、今年初めから4月中旬までの約4カ月間で、その規模はすでに1100億ドル(約11兆2700億円)と急速に拡大している。これに対し、在米中国経済評論家の何清漣氏は「中国資本流出の主因は、企業側が中国経済の急減速により出た損失を少しでも減らそうという狙いがあるから」との認識を示した。
中国企業の対外投資急増はリスク回避を目的としたもの
過去に海外進出を積極的に行った企業の大多数は国有企業であり、中国政府は、企業が海外資源に強く依存する問題を解決するために、海外進出によって海外の天然資源を獲得しようとした。
しかし近年、中国の民営企業が海外の開発プロジェクトや高収益の投資プロジェクトに興味を示し、それは、2011年には中国企業の41.2%に達した。民営企業の投資項目と投資先の国をみると、投資の目的は明らかにリスク回避だ。
『中国海外投資市場報告』(China Foreign Investment Market Report)によると、15年の中国企業による海外不動産市場への投資総額は前年比41.5%増で、史上最高の約214億ドルに達した。中でも、マレーシアへの不動産開発投資額が最も多い。それに次いで、香港への投資額が2位、米国が3位、オーストラリアが4位となっている。
今年4月米調査会社のロジウム・グループと米中関係全米委員会(NCUSCR)が共同で発表した調査によると、15年末現在、米国にある中国企業は1900社を超え、約9万人の従業員を雇用している。また中国企業の投資はおもに不動産、金融、IT、映画、エンターテイメントとエネルギーに集中している。
一方、米国移民局の統計によると、15年7~9月期までの「EB-5投資永住権プログラム」の申請承認件数は6498件に達し、大多数は中国人投資家だという。
中国本土から撤退する外資企業が増加
2009年以降、中国本土にある外資系企業の多くが人員削減、資本の引き揚げや経営中止を行ってきた。外資系企業が集中する広東省東莞市では、2008年~12年で約7万2000社の企業が倒産した。14年には4000社が倒産し、また15年12月には2000社の台湾系企業が東莞から撤退した。相次ぐ倒産と撤退で東莞市地区では約500万人の失業者が出た。
外資系企業撤退のおもな理由は、人件費の急騰など中国本土での企業運営が赤字の連続であることが挙げられる。
また中国に駐在する米国や欧州の企業は、本土の投資環境が悪化していると指摘している。中国政府は外資系企業に対して独占禁止法調査を頻繁に行っている。また昨年成立した「国家安全法」では当局が外資系企業の技術などが中国の国家安全を脅かしていると判断すれば、企業に対して厳しい処罰をするなど、外資企業に引き続き中国でのビジネス展開をためらわせている。
資本流出に悩まされる中国政府
外資企業の撤退と中国企業の大規模な海外進出によって、莫大な資金が海外に流出した。これによって、外貨準備高が激減し、流動性のひっ迫で国内金融市場が混乱に陥り、国内経済に大きな打撃を与える恐れがある。
中国政府はこの莫大な流出を目にしたくないが、現在流出を止める有効な措置がないのが実状だ。原因は二つある。一つ目は、中国政府は依然として外資企業の中国での投資を誘致しており、厳しく資金流出を制限すると、外資企業の中国への投資意欲に影響する。二つ目は、巨額な資金を海外に移転している人の大多数は共産党内の高層幹部とその親族であることにある。
当局は現在、金融取引課税などの措置だけに頼って、金融市場のリスクを回避しようとしている。
中国企業が莫大な資金を、失速している中国経済の発展のために費やすのではなく海外に移転することは、当局の「走出去」戦略の虚しさと政策の為すすべのなさを浮き彫りにしている。
(翻訳編集・張哲)