中国には、親が都市部に出稼ぎに行ったために農村に残されている幼い子供たちが、6100万人以上いると言われている。また、出稼ぎに行く親に連れられて都市部を転々とする子供も4千万人にのぼる。このような子供たちは生活環境が極めて劣悪で、教育も満足に受けられない状態のため、大きな社会問題となっている。
この問題について中国国務院が最近、「農村留守児童に対する保護対策を強化する意見書」を発表し、問題解決に乗り出した。この「意見書」では次のように規定されている。「出稼ぎに行く時はできるだけ未成年の子供を連れて行って一緒に生活する、或いは片親を残して子供の世話をすべきである。これらの条件が満たせないならば、子供は世話をしてくれる人に委託すべきである。16歳未満の児童を一人で生活させてはならない。警察が一人で生活している児童を見つけた場合は、両親をすぐに呼び戻すか、或いは世話人を擁立すべきである」
この「意見書」の実施に関して、民政部副部長の鄒銘(ちゅうめい)氏は2月19日、次のように述べた。「保護責任の不履行、子供に対する家庭内暴力や虐待、農村への子供遺棄が発覚した親には、勧告、教育、治安処罰、立案審査、監護権はく奪などを実施することを規定している」
これに対し、中国労働関係学院の王江松教授は次のように指摘する。「この意見書は恐喝式の規定であり、出稼ぎ労働者の問題を根本的に解決するものではない。農村で子供の世話をしていると収入が得られず、生計を立てられない。子供を連れて出稼ぎに行ったとしても、仕事場で子供を養育する環境は無いに等しく、教育を受けさせることすらできないのが農村の現状なのだ」。吉林省から出稼ぎに出てきた王教授は自分の経験も踏まえ、「農村の経済条件が改善すれば、わざわざ出稼ぎに行く必要はない。出稼ぎ先で一年間働いた給料の全額をきちんと貰えるのであれば、翌年は出稼ぎに行かずに済むかもしれない」と話す。
現在の中国では、収入、教育、養老保険などの面で、都市と農村の間のギャップがかなり大きい。中国の統計局が公開したデータによると、都市と農村の住民の収入の格差は、08年は3・3倍、11年は3・23倍。15年はある程度縮小したが、それでも2・73倍に達している。国際労働機関が05年に公表したデータによると、都市と農村の収入格差は世界の国家の絶対多数で1・6以下に納まっており、2・0を超える国家は中国を含め3ヶ国しかないという。
農村の現状に詳しい河南省麟格弁護士事務所の姫来松弁護士は、次のように指摘する。「伝統的な倫理観念を持つ親は当然、子供を自分の元に置いておきたい。しかし現在の農村では、出稼ぎに出なければ家族を養えない。強制的な命令を定めているだけの国務院の規定で、農村における生存、生活、教育、医療等の根本的な問題を解決することは不可能である。これらの問題を根本から解決しようとするのであれば、まずは都市と農村の格差を解消し、移住を禁じている現在の戸籍制度を廃止しなければならない」
一年間の養老保険金(年金)の平均受取額は現在、農民720元、都市部住民1200元、企業退職者1万8千元、政府機関退職者2万4千元となっており、格差の大きさは一目瞭然である。都市部と農村の中学校における教育経費の格差も、地域によっては10倍以上となっている。農民が都市部の人たちと同程度の年金や教育経費を得られれば、留守児童の問題は自然に解決されると専門家は指摘している。
(翻訳編集・東方)
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