死体標本となった人物は誰なのか。ドイツの解剖学者グンター・フォン・ハーゲンス氏の死体保存法を用いて、生々しい肉体内部をさらした死体がポーズを取る展示会「Body Worlds(人体の不思議展)」。不透明だった遺体の出所を明確にするため、最近、中国問題に詳しいジャーナリストが同氏に対し、同館に設置された標本のDNAサンプルの提出するよう申し立てた。
誰なのかわからない死体達は十数年も世界を周り、数千万人の目にさらされてきた。世界各地の展示会でハーゲンス氏は2億ドル以上の富を得たと報じられている。現在、数カ国で倫理上の問題が指摘され、開催が禁じられているが、一方で、現在もヨーロッパ巡回展が行われ、米国ニューヨーク中心地タイムズスクエアでは同氏の「作品」が屋外無料展示されており、「死体イベント」がいまだ催されている。
ジャーナリストのイーサン・ガットマン氏は今月12日、オーストリア国立歴史博物館の前で、DNA提出は、この展示会に係る一連の問題を明らかにするための材料となると集まった報道関係者のインタビューに答えた。また、主催者側は死体は白人と主張しているが、展示中の数人の女性標本の足や体格は異常に華奢で頭は小さいため、中国人である可能性をガットマン氏は指摘した。
ガットマン氏は、中国が当局や軍、医療機関などが組織ぐるみで法輪功学習者を含む囚人から臓器を強制奪取し、移植用に売却している問題「臓器狩り」について調査し、この事件で数万人が殺害されたと主張する人物。
ハーゲンス氏は1999年から中国遼寧省大連市に建設した死体加工工場で死体標本を量産し、世界各地の展示会に供給していた。当時の江沢民政権で、大連市長だった薄熙来氏はこの「死体ビジネス」を支持し、巨万の富を得ていたと伝えられている。死体はいまだに身元が分かっていないが、同年から始まった迫害政策により不当に投獄された法輪功学習者である可能性をドイツ大手紙などが報じている。
姚家刑務所で酷い拷問を受けた、法輪功学習者の朱航氏。99年9月撮影。元大連理工大学准教授(明慧ネットより www.minghui.jp)
2004年、ドイツ紙シュピーゲルは「ハーゲンス氏の死体加工工場の周りには少なくとも3つの刑務所や強制収容所が存在していた。なかでも悪名高い姚家留置所では政治犯や法輪功学習者が拘留されていた」と報じた。後にハーゲンス氏は記事内容に不満を訴え、裁判所は「死体標本が死刑囚からのもの」との主張を禁止するよう同紙に命じている。
その2年後、ハーゲンス氏は米ニューヨークタイムズのインタビューに対して「引き取り手のない中国人の死体を用いることは全く問題ないと(隋鴻錦氏から)聞いている」と答えている。当時、同氏の研修を受けていた大連医科大学解剖医の隋鴻錦氏は2002年に独立し、中国で死体工場を作り標本を世界中で開かれる展示会へ供給し続けた。
ハーゲンス氏は中国人死刑囚の遺体利用しているとの疑惑を頑なに拒否し続けているが、一方で現在の展示物の一部には、「出典:中国警察」との説明書きがある。
ガットマン氏は、DNA鑑定は2つの側面から影響を及ぼすと指摘する。一つは、死体標本が中国人で、迫害政策の中で拷問により殺害された法輪功学習者の家族からDNAサンプルを採取し、標本のDNAと照合することで、法輪功学習者が死体標本に利用されたとの嫌疑が明らかになること。もう一つは、標本の身元が明らかになることで現在、隋氏が続けている「死体ビジネス」に圧力を与えることだ。
ガットマン氏は「いまだに死体を利用した展覧会は世界を巡回している。ハーゲンス氏の元助手の手により規模は拡大している。死体は中国公安局が供給した」「犯罪者は(罪を隠すのに)必ず間違いを一つ犯す。DNAを持つ遺体が自由に世界を回っている、これは盲点に違いない。DNA鑑定で必ず誰かが明らかになるだろう」と述べた。
(文・マシュー=ロバートソン/翻訳編集・佐渡 道世)