【大紀元日本11月1日】中国北西部の甘粛省省都・蘭州市から南西部の重慶市に向かう蘭渝鉄道の建設現場で10月29日、施工用車の横転で24人が死亡、4人が負傷する重大事故が発生した。今回の事故は同鉄道の残りわずかな施工区間内で起きており、資金繰りの問題で9割が休止していた同鉄道にとって、追い打ちをかける形となった。
蘭渝鉄道のみならず、中国の鉄道建設は温州高速鉄道事故以来、中断や遅延が深刻化し、建設中路線の9割にあたる1万キロ以上は工事がストップしている。
蘭渝鉄道建設、ほぼ停止
事故が起きた蘭渝鉄道は全長820キロ。2008年9月に着工し、2014年に開通する予定だった。総投資予定額744億元(約9000億円)の同工事は、7月の温州高速鉄道事故以来、鉄道部(省)からの支払いが怠っているため、ほとんどの区間で建設を停止せざるを得ない状態に陥っている。現在、同路線の9割が無期限にストップされており、建設に参加した労働者や関連業者、地方財政に深刻な影響を与えている。
国内紙・経済観察報10月29日付の報道によれば、同鉄道の四川省広元における151キロの区間だけでも、各種の建設費用および作業員賃金の未払いが6億元(約72億円)以上にのぼり、うち半分は、農民工への賃金と地元業者への原材料費となっている。
「長期にわたった積み重ねではない。この3ヶ月ぐらいのできごとだ」と、広元市政府の趙宏氏は説明する。8月末には、数百人の農民工が管轄する中鉄8局に押し掛け、抗議する事件が起きたという。香港紙・明報は、沿線数万人の作業員が給与支払いを求めて請願している、と報じている。
工事の停止は地方財政にも響いている。ほとんどの鉄道建設は鉄道省と地方政府の共同出資によるため、工事が停止すると、地方政府に多大な財政負担が残る。蘭渝鉄道建設では、四川省は45億元(約550億円)を出資することになっているが、広元市はそのうちの半分の22.5億元を負担する。昨年1年間の財政収入が16億元の広元市にとって、工事がいつ再開できるか、開通により潤される日が来るのか定かではない蘭渝鉄道は、悩みのタネとなっている。
「まるでドミノ倒しだ。工事がストップすると、みな共倒れになる」。蘭渝鉄道の現場指揮を務める劉煥涛氏が嘆いた。
全土に広がる工事中断
蘭渝鉄道の中止は氷山の一角に過ぎない。同じ10月29日に、国内紙・京華時報は、中国全土の工事路線の9割にあたる1万キロ以上がストップしていると報じた。アモイ-深セン、貴陽-広州、南京-広州など多くの高速鉄道も含まれる。
同記事では、中国の鉄道専門家・王夢恕氏の見解として、資金繰りの悪化が工事停止の主な原因だと指摘。王氏によれば、中国の鉄道部は鉄道建設大手2社(中国中鉄と中国鉄建)への支払い1300億元(約1兆5600億円)以上を滞納しており、会社側は工事を進められない状態だという。
各地の工事現場では約600万人の農民工が働いていると王氏は見込んでおり、その大半は工事の中断により、契約打ち切りや給料未払い問題に直面している。「中断路線の建設に携わった農民工は3ヶ月~6ヶ月間の給料が支払われていない。材料費、設備費などの未払いも深刻だ」と王氏は指摘する。
8月末、工事が中断または遅延した路線は7割だと報じられていたが、事態はさらに悪化した様子だ。温州高速鉄道事故後、鉄道部の信用が下がり、銀行からの融資条件が厳しくなったため、鉄道建設の資金チェーンが断ち切られたという。
鉄道建設費用は、政府予算と鉄道部の出資(運賃収入や銀行からの融資、鉄道債)、地方政府の出資でまかなってきた。だが、鉄道部の今年1月から9月までの投資額は3469億元(約4兆円)で、昨年同期と比べ、830億元の減少だ。また、8月1日に発表された鉄道部の報告書によると、今年6月末までに、鉄道部の負債総額は、5年前の3倍以上の約2兆900億元(約25兆円)に達した。急ピッチで進められた鉄道建設に暗雲が立ち込めている。
王夢恕氏は、給料未払い問題が陳情や抗議活動など社会不安につながることへの懸念も示した。7月以来、中国中鉄の管轄区間だけでもすでに2000件以上の陳情活動が起きている。
さらに一部の専門家は、工事の長期中断は鉄道の安全リスクを高める恐れがあると指摘している。たとえ再開できたとしても、安全性の再評価など、建設コストは3割増しになると見られる。