三菱重工業が外部からサイバー攻撃を受けた問題で、83台のサーバーやパソコンが感染したウイルスの操作画面に、中国で使われる簡体字が使用されていたため、中国の関与が浮上している。専門家は今回の件から、中国政府による世界範囲のサイバー侵入はかなり進んでいると解読する。
「超限戦」の一環か
「このような大規模な攻撃は、政府や軍の関与がなければ実現できない」。中国当局による人権弾圧を独立調査する国際団体「追査国際」の責任者・汪志遠氏は、三菱重工業などの防衛産業メーカーが受けたサイバー攻撃は中国からのものだとみており、このように断言する。
汪氏は、「超限戦」という新しい戦争の概念と戦略が中国の軍部内で呈示されていると指摘。この「超限戦」には、通常の武力戦のほかに、グローバリゼーション時代に特徴的な「戦争」である外交戦、諜報戦、金融戦、サイバー戦、文化戦、心理戦、メディア戦など様々な方法が含まれる。「今回の日本へのサイバー攻撃は彼らが世界に挑む『超限戦』の一環であり、非常規的な手段で自らの目論みの実現をはかっている」と汪氏は分析した。また今回の件から、「中国政府による世界範囲のサイバー侵入はかなり進んでいる」との見解を述べた。
政府と軍の関与
中国軍がサイバー攻撃に関与していることは、7月に中国中央テレビ(CCTV)が放送した番組が裏付けとなった。7月16日にCCTVの軍事専門チャンネルで放送された「軍事科技のネット暴風が来た」という番組内で、人民解放軍の電子工程学院は「ネット攻撃システム」を研究していると紹介された。
テレビ画面に映し出された軍部のパソコン画面には、その攻撃システムが表示され、「攻撃目標選択」という具体的な操作画面が確認できる。また、番組の中で中国当局の軍事専門家は、サイバー攻撃の手口がたくさんあると紹介し、「トロイの木馬」ウイルスを感染させることや、バックドアやロジック爆弾を設けること、アクセスを集中させ閲覧不能にすることなど具体的に説明した。
「攻撃目標選択」という操作画面(スクリーンショット)
今年に入ってから中国によるサイバー攻撃が相次いで明らかになっている。2月にカナダ政府は、同国の財務省と防衛研究所を含む3つの主要機関のコンピューター・システムが受けたハッカー攻撃は中国のサーバーからであることを公表した。セキュリティ問題の専門家であるカナダ諜報機関のマイケル・ジュノーカツヤ元高官はその時、同国テレビ局CTVの取材に対し、そのハッカー攻撃は明らかに諜報活動であると指摘し、中国当局は事前に把握していたことはほぼ確実である、と述べた。
また先月、マカフィー(McAfee)が報告書を発表し、米政府、国連、国際オリンピック委員会など、72の国・組織を標的とした大規模なサイバー攻撃が、5年前の2006年から行われていたと公表し、背後には「ある国家」が関与していると示唆した。ワシントン・ポスト紙は専門家の見解として、「ある国家」は中国の可能性がもっとも高いと報じた。一方、マカフィーは報告書の中で、ハッカーが政府の支援を受けていると結論付けている。
ドイツテレコムの昨年10月の報道では、中国のサイバースパイやサイバーへの破壊活動に参与しているハッカーは4万人以上に上ると報じている。英タイムズ紙も人民解放軍の元将軍の話を引用して、中国の軍部は多くのネットワーク人材を有していると伝えている。「卓球などのスポーツのようだ。我々には(サイバー戦争に)参与する人が多いから、我々が得意になるのだ」とこの元将軍は言う。
一方、今回三菱重工業のコンピューターがウイルス感染した問題について、中国外務省は20日、会見で「根拠がない」と関与を否定し、「中国政府はサイバー攻撃に一貫して反対し、犯罪行為として厳しく禁じている」と強調した。
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