【大紀元日本1月21日】中国の江蘇省と浙江省の境界にある太湖。かつては風光明媚な観光スポットとして有名だったが、近年は、水質汚染が深刻な問題となっている。中国政府は水質改善のために数億元を投じてきたが、未だその効果は現れていない。米紙ワシントンポストはこのほど、21年来、太湖汚染のために奔走し続け「太湖の護衛」と称される環境保護活動家・呉立紅さんに対し取材を行った。太湖の水質改善策の失敗について呉さんは、「汚染は経済成長を際限なく追求した結果だ」と指摘した。
この記事は、記者自ら目にした汚染状況を述べることから始まっている。「太湖が視界に入る前から腐った鶏卵と糞便を混ぜたような悪臭を感じ取ることができ、目を向ければ、汚染が広範囲に及んでいるのがわかる」「有毒なアオコが湖岸の水面を覆っている。その量は湖の中心に向かって減るものの、水の流れに沿ってくるくると絡み合い、大きな緑色の巻きひげを形成し、湖面上に浮かんでいる」
太湖のアオコ。2008年11月撮影(CJA Bradshaw/Creative Commons)
太湖湖畔の江蘇省宜興市に住む呉立紅さんは、21年来、たった一人で太湖を守る戦いに臨んできた。呉さんは太湖周辺に建つ数千の化学製品工場の廃棄物を徹底的に調べ、これらの工場から流れ出た廃水・汚物の写真を撮り、証拠をとった。また湖水のサンプルを調査員に送り、テレビ局にも詳しい情報を伝えた。現地の工場長や地方の権力者からの脅しも恐れず通報を続けた呉さんは、嫌がらせに遭ったため職を失い、家庭生活にも支障が出た。
2007年には「詐欺罪」と「脅迫罪」の容疑で有罪とされ、3年の禁固刑を言い渡された。昨年4月に刑期が満了し出所した呉さんは、太湖の汚染状況がほとんど改善されていないのを目にする。
ワシントンポストの記者は取材時、政府の呉さんに対する厳しい監視を目の当たりにした。携帯電話は盗聴されているため、呉さんと記者は町の外で面会した。後に呉さんの自宅を訪問した記者は、呉さんに身体にある多くの傷を見て驚いた。その中には昨年湖畔で暴漢に襲われた際に付けられた刀傷や、警察が自白を強要するためにタバコを腕や手の甲につけた火傷痕もある。
呉さんが服役している期間中は、当局が派遣した見張り役が妻と娘を監視していた。呉さんの出所後間もなく家の近くには監視カメラが取り付けられたという。
最初のうちは、環境問題に関心を持つ他の活動家も太湖汚染を告発していたが、当局による圧力のため皆手を引き、呉さんだけが残ったという。呉さんも初めのうちは、地元である江蘇省宜興市の汚染監理部門に対してのみ活動を続けていたが、2007年にその宜興市が当局に「全国環境保護模範都市」に認定され、呉さんが数年来抗争してきた市の幹部が表彰されたのをきっかけに、呉さんは更なる資料を集め、当局によるこの表彰を取り下げるよう訴える準備を始めた。その数週間後、呉さんは逮捕された。
警察は手錠を使って呉さんを5日間吊るしあげた上、柳の枝で背中を打ち、供述に署名させた。結局、呉さんは「詐欺罪」と「脅迫罪」で3年の実刑判決を言い渡された。これについて宜興市の幹部は、呉さんに対する起訴は汚染告発活動への報復ではないとしている。
皮肉なことに、呉さんが逮捕されて間もなく、彼が警告してきた最悪の事態が起こった。太湖に流れ込んだ有毒な廃水と汚物は大量の有毒藻類(アオコ)を発生させた。地方政府は湖水の飲用不可の緊急宣言を余儀なくされ、200万人以上の飲用水源が失われると同時に、ペットボトル入り飲用水の価格が6倍に高騰した。
アオコ大量発生以降、太湖周辺の工場は数百軒が閉鎖され、責任を問われた地方幹部も免職となった。その後、政府の高層が太湖汚染について関心を持ち、巨額の資金を投入したが、太湖の環境に改善が見られなかった。現在でも、太湖の水は飲むことが出来ず、魚やエビがほぼ死滅し、近隣の町にはその悪臭が漂っている。昨年7月政府発表のデータによると、太湖の85%の場所の水質は「極めて悪い」と評価された。
際限なく経済成長を追求した30年後の現在、中国各地では同じような環境汚染問題が現れている。また、近年得た微々たる改善の甲斐もなく、経済振興という大義名分の下で生態環境は再び犠牲となっている。
太湖の汚染は周辺の化学製品工場からの廃棄物が主な原因だが、同時に工場は地方経済発展を促進させる原動力でもある。2007年に閉鎖を強いられた多くの化学製品工場は、その後別の名称で営業を再開していると環境保護団体は批判する。それらの工場の責任者たちは汚水処理設備を設置していると主張するが、水質専門家は「これらの設備は検査の時だけ起動させ、検査員が帰れば停止させている」と指摘した。
現在、太湖周辺の各都市では密かに別の水資源を探し始めている。これは当局が巨額を投じても太湖の水質が改善する見込みがないからだという。これについて北京公衆環境研究センターの責任者・馬軍氏は、一旦これらの都市が太湖を飲用水源とすることをあきらめれば、太湖整備への切迫性は失われ汚染状況は更に悪化していくだろうと分析する。
3年前の光明日報に掲載された太湖汚染に関する記事には、「太湖汚染の元凶は天災ではなく、正真正銘の人災である」と記されていた。ワシントンポストの取材の最後に呉さんは、「故郷が人災により破壊されている時に一人だけ逃避することは出来ない」と述べ、今後も戦い続ける決意を表した。