【大紀元日本11月24日】 潜在市場規模1兆元(12兆円)と推計される中国のシルバー産業。しかし実際の商品・サービスの供給はそのうちのわずか15%に過ぎない。その未成熟産業の開拓を図る日本人企業家・鞠川陽子さん。彼女が作成した商業修士論文は、経済的価値が高く国内外の経済界から注目を集めていた。しかし現在、彼女は母校である中国国立大学が機密論文を無断で販売した疑いと、その関与を否定する大学側の圧力に苦しめられ、中国でのビジネス展開を妨害されている。
大学の圧力・不正
留学先である中国国立復旦大学管理学院EMBAで修士号取得後、鞠川さんは上海でコンサル会社「陽子企業管理コンサルティング」を立ち上げた。日本や諸外国のシルバー産業研究で身につけた知識を生かすため、中国のシルバー層をターゲットにした投資計画の具体的な行動に出たのだ。1.7億人という大きな潜在的マーケットを有する中国の産業界は、シルバー産業の経済効果に目覚めようとしていた。
論文発表後、中国経済紙「第一財経」や香港英字紙「グローバルタイムス」、米経済「フォーブス」などのインタビューを受け、上海金融紙は「中国でのシルバー産業のビジネス化と運営の第一人者」として、鞠川さんの成功ぶりを取り上げた。
しかし今、国営メディアや地元上海メディアに彼女の姿は見られない。なぜなら、母校の国立復旦大学が、国営学術文献データサービス「中国知網(CNKI)」と10年機密契約を結んだはずの修士論文を漏えいさせ無断で販売したことについて、鞠川さんが賠償金を求める裁判を検討していると、自分のブログで暴露したからだ。
面子を潰したくない大学側は鞠川さんに対し、「裁判をおこさないでほしい」と電話で要求し、同級生に対しては、裁判になったときには機密契約が無効であるような主張をするよう強要し、同大卒業生が多い上海メディア企業に対しては、「この件を記事にしないでほしい」といった圧力をかけていることが本紙取材によりわかった。「狡猾で、まるで悪党のようなやり方です。恐い」と鞠川さんは国立大学の圧力に怯えている。
無断で公開・販売されていた卒業生の機密論文。「中国知網(CNKI.net)」のスクリーンショット(鞠川さん提供)
1兆元マーケットの開拓 「論文漏えいは大きな損失」
最近中国の人口調査によると、中国の高齢者数は1.7億人で世界高齢者人口の2割となり、世界で最も高齢者の多い国となった。70年代末に「一人っ子政策」を導入した後、中国の人口の年齢層構成は大きく変化した。経済発展が成熟した後に高齢化社会を迎えた日本と違って、中国は発展途上の国であるにもかかわらず高齢化に突入した。
中国のリサーチ社「零点公司」によると、2010年度のシルバー産業潜在市場規模は約1兆元(約12兆円)と推計されている。しかし大和総研上海支社中国ビジネスコンサル担当の張暁光氏によると、実際の商品・サービスの供給はわずか1500億元(約1.8兆円)と約15%に過ぎないという。今後のシルバー産業の広がりについて「自動車、不動産に続いて21世紀もっとも儲かる産業」と日中経済協会は発表している。
この未開拓マーケットの先駆者として期待されている鞠川さんは、機密論文が無断販売されたことについて、「競争相手を育たせ、顧客を流失させたことになる。論文の漏えいは私の会社に大きな損害を与えた」と憤りを隠せない。
中国の大学の商業学部の論文は、学んだ理論を自分の実際の仕事と結びつけて作成することを要求され、ほとんどが自分の専門や企業、顧客の商業情報などに関連した内容となる。学生たちは論文を公開させたくないため、鞠川さんのように、論文提出と同時に、大学と数年間の機密契約を結ぶ証書を提出する。
機密扱い10年の論文がわずか1年で漏えい
10年機密契約されたはずの修士論文が、無断でネット上に流れているのに鞠川さんが気付いたのは今年7月。論文はグーグル、ヤフー、バイドゥ(百度)などの検索エンジンにかけると、中国知網、論文天下、経理人文庫、管理資源網の4つのウェブサイトにヒットし、販売されていた。
発見後、鞠川さんはすぐ各サイトと大学へ連絡し撤回するよう要求したが、サイトからは「大学から購入した」と訴えを拒否された。大学は論文に関する機密を証明する極めて簡単な文書を作成し各サイトに通達したため、8月はじめにネット上で閲覧できなくなった。公開されていた期間中に、論文はすでに数十人にダウンロード販売されてしまったが、これについて大学から謝罪はなく、漏えいの原因についての明確な説明もない。
鞠川さんの連絡を受けて、大学が作成した極めて簡単な証明書(鞠川さん提供)
一転二転する復旦大学の主張
大学側はこれまでに主張を一転二転させ、情報漏えいと論文販売について弁解している。1回目は「機密契約の方法に問題があった」とし、2回目は「機密契約は図書館と結ばれたものだから、大学との契約の効果は保証できない」。3回めは「この論文が機密に相当するものとは認められない」と、最終的には機密であることさえも否定した。
ある法律専門家は、大学の2回目の主張である「機密扱いは図書館との契約」について、「図書館がそもそも学校を代表する機密保持協定のサインに対し十分な権限を持たないという事を知っていた上で、学生たちに契約書を提出させていたのなら、大学は悪意ある詐欺行為を行った」と指摘している。
復旦大学側は大学院の姜友芬主任がこの件の担当となり、鞠川さんに大学の主張を伝えている。姜氏は「復旦大学大学院は中国ネットと2003年から契約し、毎年全ての学生の論文はCNKIに提供され、報酬として『論文採集費』をもらっている」と説明し、鞠川さんの修士論文もそれに該当するとして、論文流出の正当性と機密扱いを否定する主張を繰り返している。しかも姜氏はここ3カ月、「裁判はおこさないでほしい」と短い電話をかけ続けてきていることが、取材によりわかった。
国立大学がメディアに圧力 口をつぐむ卒業生たち
論文漏えいを知った「上海法治新聞」の金記者は8月29日、復旦大学と鞠川さんの双方にインタビューを行った。しかし2日後、金記者の上司は金記者に復旦大学
上海法治新聞の金記者とその上司による鞠川さんとのMSNメッセンジャー履歴。スクリーンショット(鞠川さん提供)
の件は記事にしないようにと指示した。上司によると、金記者がインタビューを行った日の翌日、同大学宣伝部から「この件は記事にしないでほしい」と同新聞社の上層部に通告があったのだという。金記者と上司は、MSNメッセンジャーで大学から通告があったことを鞠川さんに伝えている。
復旦大学の卒業生が多い上海メディアは、大学側の「当該論文は機密論文として認めない」「謝罪しない」「賠償交渉をしない」との主張を一方的に伝えている。鞠川さんは「この事件について私にインタビューした上海メディアは上海デイリー英語版だけで、それ以外の中国語上海メディアは大学側だけに取材をし報道している」と、現地の報道に偏りがあると話している。
復旦大学には法学院と新聞学院もあり、上海の裁判所や弁護士事務所、メディア関係の人脈が広いため、同様の圧力が上海地方紙へあったことが予想されている。「中国では、大学による学生いじめが社会問題となっていて、『大学腐敗』はこちらではみんな知っている。しかし復旦大学と同じく、大学は地域の悪党に成ってしまって誰も告訴する勇気がない」と鞠川さんは話す。
別の同大卒業生の話では、機密論文が漏えいしネット上などで販売されるのは珍しくなく、大学の対応も不誠実だという。不正が発覚したとしても、勢力の大きさを知る卒業生は口をつぐんでしまう。今回の件を知った鞠川さんの同級生は、「上海は復旦大学の勢力範囲だから、上海でいくら告訴しても裁判では勝てない」と忠告した。
現在、鞠川さんは弁護士を通じて、復旦大学と「中国知網」に対し賠償金の請求を検討している。これについて北京の地方紙「法制晩報」が10月、中国語紙で初めて鞠川さんに取材し、「復旦は秘密を漏らす門」と批判し、話題を呼んだ。国立復旦大学は一時、上海の社会問題の最前線に推し出され、多くのネットユーザーが大学を非難し、鞠川さんのブログに支援のコメントが多数残されている。
鞠川さんは自身のブログで「中国の将来のために優秀な秀才を輩出しなればならない一流大学が、小遣い稼ぎを優先して論文を販売する行為は、学生を裏切る犯罪」と大学を厳しく批判する。また、「海賊版DVDの屋台売りのような大学側の行為は、岩を抱えて海に入るような自殺に等しい。どんどん言い訳をつくって海底深く沈めばいい。その姿を見て嘆くのは、たくさんの卒業生、現役の学生、入試を控えて一生懸命勉強している人たち」と強く述べた。
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