オバマ大統領のアジア歴訪 台頭する中国を意識

2010/11/18
更新: 2010/11/18

【大紀元日本11月18日】「米国は、 中国に対抗する勢力の地域的強化を加速させる必要があることを認識した。このため、特に世界経済危機以来、 中国の行動を見守るようになった」地政学インテリジェンス企業、ストラットフォー(Stratfor)社は、こう報告している。

オバマ米大統領の11月のアジア歴訪は、 特にインド、インドネシア、韓国、日本といった民主主義国家に的を絞り、中国との緊迫関係と貿易不均衡を意識して、アジア地域の自由主義国家との連携を深めることを目的とするものだった。

各国訪問のタイミング

オバマ大統領を迎え入れることは各国にとっても意義深かった。インド訪問は、中印経済がほぼ同レベルに達している時期にあたった。インド経済は中国経済をやや下回ってはいるが、中国より高い成長率をみせている。韓国訪問は、中国政権が後押しする北朝鮮との緊迫関係が悪化する最中のこととなった。訪日は、尖閣諸島問題で日中間の領土問題が噴出する時期と重なった。

インドネシアに関しては、ストラットフォー社の報告書は次のように述べている。「中国の立場からみると、米国がインドネシアとの関係を緊密にすることは、旧ソ連に対抗する勢力を復活させようとする試みであることが明らかだ。 台頭する中国の影響を抑制することが米国の目的である。中国側はこの脅威を相殺しようと、外交のペースを加速化する。中国側の行為は、さらに米国の危惧を深める」

サイバースペース:新たな交戦領域

現在、冷戦時代の国家連帯のようなものが構築されつつある。 特に米国防総省は、 今年末までに新たなサイバー戦略を発表する予定だ。

ウィリアム・リン米国防長官代理は演説の中で、この新戦略の概略の一部として、サイバースペースを「交戦の新たな領域」として認識し、国際的な協力体制を形成することを示している。「基本的には冷戦時の概念を利用するが、 共有される警戒に基づいて新たなものを構築する。すでに英国、オーストラリア、カナダとはこの体制にある。現在NATO(北大西洋条約機構)加盟国に目を向けている」と方向性を打ち出している。

オバマ大統領の訪印中完全な形ではないが、サイバーセキュリティーの同盟国としてインドを招き入れることにした。「信頼のおける情報・伝達のインフラストラクチャーを促進し、 自由・公平・安全なサイバースペースへのアクセスを目標として、米国とインドは協力への努力を押し進めていく」とホワイトハウスの報告書は記述している。

各国の中国との紛争

世界経済危機以来、中国共産党政権は、権威主義的な声を国際社会に発するようになった。特に日本、インドとの領域問題と、それに関わる米国に対しての強い語調が顕著になった。

韓国の哨戒艦天安チョンアン)」の北朝鮮による撃沈を受け、米国は韓国近海の国際水域で韓国と合同演習する計画を発表。中国共産党政権は、演習の行われる予定の水域は自国の領土であると主張して、米国を威嚇した。

これに応え、クリントン米国務長官は7月23日、次のような声明を発表している。「米国は、ほかの全ての国家同様、航行の自由とアジア共有海域へのアクセスという利権を持ち、南シナ海における国際法を尊重する。…いかなる権利主張者からの武力行使・威嚇にも反対する」(米国務省の原稿より)

日本も、東シナ海の海域をめぐって、中国共産党政権と対峙する状況に立たされた。9月初め、中国漁船が日本の海上保安庁の巡視船に衝突。船長が逮捕されたが、日中外交に配慮した日本の判断から、処分保留で釈放。両国間の関係は緊迫している。

南シナ海での海域を主張する国家に対して強硬路線をとる中国は、航空母艦ジョージ・ワシントンの黄海への配備にも抗議している。今年4月、中国人民解放軍海軍は、日本の近海で軍事演習を挙行。翌月、日本の海上保安庁の測量船「昭洋」が、日本の排他的経済水域(EEZ)内で、中国の国家海洋局の海洋調査船「海監51」に接近・追跡されている。

領土問題は、インドではさらに顕著。中共政権は、北東部のアルナチャルプラデシュ州が中国共産党政権の領土であると主張し、当地にかなりの軍備体制を敷いている。「中共政権の主張は長年にわたるものだが、最近は、インドと中国の実質的な境界線である実行支配線(LAC: Line of Actual Control)に沿った東側で、攻撃的な姿勢を強めている)とインドのシンクタンクである防衛問題研究所(Institute for Defence Studies & Analyses)は報告している。

「東側区域での中共政権による攻撃性の強化は、米印の戦略的な提携が理由と考えられる。中国はこの提携を極めて警戒している」と同報告書は記述する。「米印関係の強化は、『中国封じ込め』という何にも優る動機が背後にある、と中国は解釈している」とも加えている。

覇権への野望

中国発信のメッセージとして繰り返されていることは、米国を世界のリーダーの座から引き下ろし、自分がその座に就くことへの願望だ。

中国現代国際関係研究院(CICIR:China Institute of Contemporary International Relations)発行の『現代国際関係』4月号には、他の中国発信の報告書同様、この野望を達成するための戦略が要約されている。

同報告書に掲載されているLi Limin氏による「世界の地政学の変化と中国の戦略的な選択肢」(Global geopolitical changes and China’s strategic choices)という記事を 欧州外交評議会(the European Council on Foreign Relations)が英文で要約しており、中国の戦略が下記のように明確に著されている。

「中国は、可能な限り、米国、日本、インド、ロシア、オーストラリアといった他の主要権力の地域内での活動を監視し管理しなければならない」

さらに、中国共産党政権は、日米関係を分裂させる必要があるとし、 「永田町とホワイトハウスの距離を引き離していくことを目的とする」政策が勧告されている。

一方、次のように「すべきこと」も列挙されている。「中国の軍備戦略は、他の権力から隠しておくべきである。必要に応じて武力行使できるよう準備を整えるべきである。ただし軍の力が前面に押し出されるべきではない。アジア太平洋地域は、中国の国益の中核にあり、台湾または南シナ海での予測不可能な危機を管理できるよう、中国南東部に軍の指令センターを設置すべきである」

「Li Limin氏は、今後この戦略の実践は容易くなる一方だと確信している。2026年から2037年の間に、中国は、世界経済のリーダーとしての米国を追い越すことになるだろう。こうなれば、より幅広い舞台で、戦略的イニシアチブをとるために能力を発揮できるようになる。何の制約もなく命令を発することができるようになるのだ」と、報告書の要約は結んでいる。

(記者・Joshua Philipp/翻訳編集・鶴田)