【大紀元日本11月10日】10万キロにおよぶ精力的な取材旅行、ほぼ300人へのインタビューを通して、中国の愕然とする現実を浮き彫りにした一冊。
著者ジョナサン・ワッツ(Jonathan Watts)氏は、英ガーディアン紙の環境記者。日本で7年間、記者として滞在し、その後、中国に環境記者として派遣され、中国の外国人記者クラブの会長も務めた。
同著の題名『10億人の中国人が一斉に跳んだら(When a Billion Chinese Jump)』は「10億人の中国人が一斉に飛び跳ねたら、地球全体が振動して地軸がズレてしまい、私たちは皆死んでしまう」という幼少のころ耳にした警告に由来する。
著者の幼少の時の不安が的中するかのように、現在の中国では、信じがたいペースで環境破壊が進んでいる。
『Literary Review』掲載のジョナサン・マースキー(Jonathan Mirsky)は、桁外れの膨大な数字を飲み込むのは難しいが、身近な小規模な形でなら理解できるとし、観光地の例や欧米諸国と関わる側面から同著を紹介している。
陳凱歌(チェン・カイコー)が制作した映画『THE PROMISE—無極—』のロケ地である雲南省のシャングリラでは、ラブシーンのための橋と5階建ての家を建てるため、湖に100本ほどの 杭打ちが持ち込まれた。 現在も腐った橋が放置されており、打ち捨てられたゴミの上で、羊がのどを詰まらせて死んでいるという。
先進国が現在の中国事情に一役買っている実例として、「地球に優しい」リサイクルの実態も浮き彫りにされている。中国のある町の小さなリサイクルショップでは、フランス製のレゴのパッケージ、ケロッグのコーンフレーク、マークス&スペンサーのクランベリ-ジュースの容器といったプラスチック製品が、色別に分別され、バッグや包装紙の素材シートに加工される。生産コストは、ゴミの原料と健康問題を抱える町民の労働力である。
また、別の町では、何億台ものコンピュータ、携帯電話、その他の機器の山を前に、女性と子供が無防備でサーキットボードをはがしており、毒薬のカクテルにさらされている。この土地の子供たちの血液中の鉛の含有量は、米国が上限とする基準を50%上回っており、知的発達への影響が懸念される。国内でのリサイクルを主張する米国企業が、実際は香港やシンガポールの幽霊会社を通して中国などに送り込んでいる事実を同著は指摘する。
国際復興開発銀行(世界銀行)の算出によると、中国の汚染に絡むコスト(病気、早期の死亡、インフラ・穀物の被害など)は、国内総生産(GDP)の5.8%に昇る。一見奇跡に見える中国の二桁成長率も、汚染コストを差し引けば大したことはない、とマースキー氏の書評は新しい視点で中国経済を理解させてくれた同著を評価している。
英インディペンデント紙の環境担当編集者マイケル・マカーシー(Michael McCarthy)氏の書評は、全く違うアングルで、著書が浮き彫りにする汚染の規模を次々と紹介し、事態を警鐘している。
これまで建設された8万7千のダムの多くが深刻な問題の起因となっている。2006年の広東省と福建省が排出した汚水は83億トン。 一方、中国北部の地下水面は、カラカラになるまで吸い上げられ、何千万エーカーもの草地は丸裸にされ、森林は伐採されてしまった。
2020年までに都会ゴミは4億トンに昇る見込み。2025年までに、世界で建設される建物の半分は中国本土に建てられると予測され、そのうちの5万軒は高層ビルという。ニューヨーク10個分に相当する。
世界は自分たちのために存在し、資源本来の価値を見いだそうとしない現代中国。地球の資源にも地球の汚染物質の収容力にも限りがあることを考えていない。10億の民が誤った政策に率いられたとき 、地球全体の生態系が乱され、 その影響は国内に留まらず、69億の世界人口全体に影響する。中国本土に止まらず、ロシアからブラジルまで、歯止めをかけることを知らずに環境を荒らし続けていることにもマカーシー氏の書評は言及している。
同氏の書評では、儒教を精神のよりどころとする漢民族が、世界は我々のためにあるという中華思想を築いたとしているが、中国の古典『道徳経』に「人は地に法(のっと)り、地は天に法り、天は道に法り、道は自然に法る」とあるように、中国人は古来から、人と天地の融合を重んじてきた。実際に人類を崖っぷちに追い込んでいるのは、共産党政権が掲げる、「人は必ず天に打ち勝つ」という闘争哲学にあると補足させていただきたい。
同著は、7月1日、英国版発行。10月26日に、米国版が出版された。見逃せない一冊として話題を呼んでいる。
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