【大紀元日本10月19日】18日に閉幕した中国共産党第17期中央委員会第5回全体会議(5中全会)で、注目の焦点となっていた習近平国家副主席(57)の軍事委員会副主席への就任が、予測された通りに決まった。これで、現在党内序列第6位の習氏が、2年後の中国共産党第18期全国代表大会(十八大)で党の総書記に選ばれ、中国の次期最高指導者になることがほぼ確実となった。
副首相を務めた保守派の長老の子息として、「太子党」と呼ばれる高級幹部子女グループの代表格である習氏は、上海や福建省など地方での勤務を経験し、07年に党政治局常務委員に抜てきされた。対日強硬派の江沢民前国家主席に連なる「上海幇」(上海グループ)の支持を受け、これまで次期の後継者の有力候補として、胡錦濤主席の後押しを受ける李克強副首相(55)と争いを繰り広げてきた。今回の結果で、ポスト胡錦濤の中国の政局が注目される。
団派と太子党派が妥協か
今回の5中全会では、習氏の軍事委員会副主席就任について、胡錦濤主席を代表とする党内最大派閥の「団派」と、元老たちを代表とする保守派や、温家宝総理を支持する改革派の間で激しく張り合ってきた。
一説によると、胡主席は、次期党大会(十八大)のときに総書記の座を習氏に譲り、自分は最も影響力のある軍事委員会主席の座にそのまま留まろうと目論んでいるという。それを実現させるためにも、習氏の軍事委員会入りをできるだけ先送りにしようとした。そこで、政治局委員会の温家宝首相を含めて、元老派たちや改革派の党内有力者が胡主席に圧力をかけた。実際、16日に中国各地で起きた反日デモはその内部闘争の表れで、対日マイルド派の胡への姿勢であるという。
しかし、こうした両派間の激しい闘争は、習氏が次期の後継者に決まったことで緩和される見方もある。
習氏は、党内で有名な「お人好し」だとされており、胡氏の野心に挑戦するほどの度量を持ち合わせていない。前回の4中全会のとき、胡主席の意を忖度(そんたく)した習氏は中央に書簡を出し、自身の能力には限界があるため、新たなポストに付くつもりはないとの意思を伝えている。
習氏が次期で実権を握るとしても2年後になる。次期の人事が決まる第18期党大会まで、胡錦濤はおそらく現状維持のままであり、改革を唱える温首相との間に温度差がある。習氏の昇任は、党内各派の勢力関係のバランスをとる力になると見られている。
一方、「「お人好し」でトップになる野心が少ないと言われている習氏は、優柔不断の一面もあるようだ。自分の能力にも自信がない習氏に、身近に強い補佐役が必要であるとされている。中共高層内情に詳しい元中国人記者・姜維平氏が海外メディアの取材で話したところによると、団派である李克強副首相がその最も有力な人選であるという。
タイタニックの舵をとる船長?
党内権力交替制度が定着しつつある今、習氏は就任後、現在の胡錦濤主席と同じように、各勢力間のバランス取りに気を配らなければならず、政治改革などを推進するかどうか依然不明瞭である、と姜維平氏は指摘し、ポスト胡錦濤政権に期待しない見方を示した。
一方、習氏の就任に米国在住の著名中国人政治評論家・何平氏は期待を寄せている。
BBCに寄せた評論文で何平氏は、現在の中国共産党政権を「リムジン船」と例えた。1989年の六四天安門民主運動弾圧事件で欧米各国に批判された中国共産党政権は、今は当時とは異なる。現在乗っているこの船には、世界で最も先進的な技術が具えられており、世界経済が危機に陥っている中、周りから羨望の目で見られている。
しかし、このリムジン船は間もなく氷山にぶつかるタイタニックであると何氏は指摘し、舵をとる船長となる習氏は、大きな行動を取らないと、現政権が直面しているあらゆる危機を乗り越えられないとしている。
今回の5中全会が開かれた初日、政治の中心地を象徴する天安門広場で、天津市のある直訴者夫婦が車を燃やして、その中で焼身自殺を図った。これはまさに、今の中国社会における当局と民衆との間の対立関係の象徴であろう。
国際社会では経済大国とのイメージを与えている中国は、実際にはあらゆる危機が高まり、巨大な内部テンションで崩壊する臨界点に来ている。温家宝首相が最近発した一連の政治改革のメッセージの背後には、改革を行わなければ共産党政権は壊滅するとの焦りが見え隠れする。5中全会が開催される直前、中共高層幹部や元機関紙の責任者らが連名で署名した公開状も同じメッセージを送っている。
そうした中国政情の中、船を導く使命を託された習氏は、共産党政権の方向を転換する行動を取らなければ、「船と一緒に沈むか、船を捨てて自分だけが逃げるかだ」と何平氏はコメントしている。
しかし、沈む運命を回避するための選択肢として、民族主義の道を取るか、国際社会の普遍的価値観を導入する政治改革を行うか。習氏のこれまでの言動からは、どちらを取るか不明のままである。
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