【大紀元日本10月15日】人民元の為替レートが過小評価されているとの国際社会からの批判に対して、中国の温家宝首相は先週、ベルギーで開催された欧州連合(EU)首脳とのビジネス会合において、「人民元変動相場制を採れば、中国経済だけではなく、世界経済にも災難をもたらす」と述べた。また、温首相は「多くの中国輸出企業の収益率は2%~3%しかないため、高くても5%に止まる。もし、人民元が一気に20%~40%切り上げられると、中国輸出企業の多くが倒産し、労働者が失業し、社会も安定し難くなる」と指摘した。
米国サウスカロライナ大学の謝田教授は「人民元の大幅な切り上げは中国輸出に大きな打撃を与えることは言うまでもないことだ。しかし、人民元切り上げ問題自体は、中国共産党政権が過去20~30年間に経済を発展する過程において、輸出企業を保護する目的で、対主要通貨の元の為替レートを故意に低い水準(元安)に抑えていた結果だ」とし、「もし、人民元が十数年前から、正常な市場需要に応じて徐々に上昇していれば、中国の輸出企業が現在のように倒産の危機に陥る、という問題は現れなかっただろう。実際に、この問題は中国当局の輸出主導政策および輸出による外貨獲得政策によって引き起こされたものだ」と述べた。
また在米の中国経済評論家の簡天倫氏は「今年1~7月の輸出統計からみると、中国の平均輸出の伸び率は35.2%で、7月単月の伸び率は38%を上回った。もし収益がなければ、あるいは輸出の収益が国内での販売収益より低ければ、企業は輸出しない。温首相が輸出企業の収益が非常に低いということが真実であれば、これは人民元が非常に過小評価されているため企業に利益をもたらすことができないという重要な問題が実証できる」と分析する。簡氏は過去30年間の元安のおかげで、輸出企業の収益が他の業界よりもかなり高かったため、輸出企業はこれまで中国経済のけん引的な役割を果たしてきたと指摘した。
中国社会科学院工業経済研究所の曹健海教授は、輸出企業は政府から提供する(工場設立などのため)低いあるいはゼロ元に近い土地価格や環境汚染コストの免除などの優遇政策を受けており、「政府はそれらの企業に対して、労働者の賃金や社会福利厚生などの労働条件を非常に低く抑えることを手助けしている。そのため、元が20%~40%切り上げられることは、間違いなく輸出企業にとって耐えられないだろう。切り上げ幅を20%以内にコントロールして、長期的に、かつ緩やかに元を上昇させるならば、輸出企業は耐えうるだろう」いう見解を示した。
温首相が述べた「人民元変動相場制を採れば、中国および世界経済に災いをもたらす」という発言について、簡氏は、「温首相は、人民元が過小評価されていることについて実によく理解しており、もし自由市場経済の変動相場制を採れば、中国経済構造が影響されることもよく分かっている」「言いかえれば、温首相は、現在中国の人民元為替政策が市場経済の構造、または中国の経済構造をゆがませたことを認めた」と語っている。
中国が人民元為替レートを不当に低く抑えてきた結果、世界の経済、資源、人的資源の分配に大きな影響を与え、他国の輸出にも被害を及ぼし、不公平な輸出競争力を付けてきた。簡氏は「不当な元安で中国輸出が拡大し、輸入国は比較的安価で中国製品を買うことができた。この影響は、まずその輸入国市場において中国製品が他の国からの輸入製品に取って代わったこと、次に中国製品がその輸入国の自国製品に取って代わったこと、最後に自国製品が中国製品に取って代わった輸入国の労働者が失業したことが挙げられる」と分析。
また、長期的な元安で、巨額な貿易黒字によって中国の外貨準備高も年々急増している。中国政府が外貨準備の運用として、アメリカなどの国の国債を大量に購入してきたことによって、世界各国の金利が低下させられた。さらに、この影響で一部の資金の流れが変えられて、中国及び他の国の貧富格差を拡大させた、と簡氏が指摘する。
最後に、簡氏は「中国の輸出企業の収入がますます増加していると同時に、輸入企業および他の産業では、ますます減収の傾向が高まっている。欧米諸国の製造メーカーが中国に工場を移転し、中国の安い労働力を雇い、元安を利用して製品を輸出する。これによりそれらの企業の収益はどんどん増えるが、自国の人々は雇用機会を失ったため収入がますます減ることとなっている」と述べた。
中国の人民元政策、世界通貨安戦争の災いのもと
10月8日~9日に、米国ワシントンで開催された世界銀行及び国際通貨基金(IMF)の年次総会や先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)において、中国の人民元問題が主要議題となり、各国金融当局の首脳は今後引き続き中国に対して人民元切り上げを促すことで一致した。しかし、中国政府は依然として大幅な切り上げを拒んでいる。
現在、世界各国は通貨安を通じて輸出を拡大させることで自国の経済景気を回復させようとしている。9月、日本政府および日本銀行は急激な円高の進行を阻止するため、為替市場で円売り・ドル買いの為替介入を行った。また、ブラジルや韓国はそれぞれ自国通貨の引き下げ政策を発表した。
謝田教授は「人民元の過小評価が世界貿易に不均衡をもたらした。現在、世界各国の間でまもなく世界的な通貨安戦争がぼっ発することに気付き始めている。しかしその原因は中国政府が極端に人民元を押し下げていることにある。各国は中国を倣って自国通貨を操作するようになった」と述べた。10月8日付ロイター通信によると、IMFのストロスカーン専務理事はフランスのルモンド紙で、「人民元の過小評価は世界経済における緊張の源となっており、脅威になりつつある。新たな危機的状況を避けるため、中国が人民元上昇のプロセスを加速させる必要がある」と語っている。
中国の人民元政策はこれまで主に固定相場制、通貨バスケット制(※)を採ってきた。2005年7月から現在までは、管理フロート制(管理変動相場制※)および通貨バスケット制を採用してきた。また、人民元は国際為替市場で自由に売買されておらず、中国人民銀行および国家外貨管理局の傘下の上海外国為替市場で、ドル/元、香港ドル/元、日本円/元、ユーロ/元の4種ペアで取引されている。もし人民元が変動相場制度に移ることになると、元が国際外国為替市場で需要と供給に応じて自由にレートを決められることを意味する。
※通貨バスケット制とは、自国通貨を複数の外貨に連動したレートにする固定相場制度のこと。
※管理フロート制とは、自国通貨の変動幅を固定し、その幅の範囲内で各国通貨が自由に取引される制度で、変動幅は中央銀行が管理する。
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