【大紀元日本10月4日】中国で最大、最長の人工河川プロジェクトが北京で進められている。2009年、北京市政府は建設総工費として過去最高額の170億元(約2100億円)を投入して、河北省最大級の河川・永定河の北京市区間を修復するプロジェクトを推し進めている。だが専門家は、このプロジェクトが成功するかどうかは一つの賭けであり、上流の水不足や下流の断水および水質汚染を改善することはできず、さらに、洪水が起きれば一瞬にして人工河川に造られた景観が消え去ってしまうだろうと指摘している。
最も高価な人工河川
永定河上流には南側の桑乾河と北側の洋河という支流があり、内モンゴルから流れてきた両支流は、山西省、河北省、北京、天津を経て河北省内官庁附近から永定河となる。全長650キロ余りで、流域面積は約5万平方キロメートル。10月中旬ごろから少なくとも3か所の大型人造湖が永定河の北京地域において貯水を開始する。
北京の計画によると、永定河河川プロジェクトの区間は170キロ。長江の漢江から北京に12億立方メートルの水を引くという南水北調プロジェクトが2014年に完成する時、永定河の修復プロジェクトも同時に完成される。全人工河川計画には170億元が投じられ、永定河が必要とされる年間1.3億立方メートルの水も全てこの人工河川が頼りとなる。
資金170億元のうち3分の2以上が平原の都市部32キロの区間に投入される。計算すると、この平原区間の1キロあたりの投資額は3億元近くで、これは都市LRTと地下鉄の建設費に相当することになる。
だが、この建設費はプロジェクト本体の費用でしかない。給水や浄水場増設費用は含まれておらず、年間1.3億立方メートルの用水本体の価格も含まれていない。さらに、このような建設後の永定河は、もはや1本の川とは言えず、細い渓流でつないだ6つの大型人造湖にすぎない、と専門家は指摘している。また、北京水利部門に詳しい水利専門家によると、水不足のため、永定河が数十年前の水流の豊かだった自然の河川に戻ることは不可能である。さらに大部分の水のない川筋の区域は庭園式に緑化されることになる。
洪水が来れば一朝にして消え去る
このプロジェクトに詳しい水利専門家は、永定河の建設費用が高いことは別に問題の焦点ではなく、上記のような配置で建設された人工河川は、ちょっとした規模の洪水が来れば、一朝にして消え去るという大きなリスクを伴っていると指摘している。
今回のプロジェクトの設計を担当した北京市水利規定設計研究院の副シニアエンジニア_deng_(とう)卓智氏は20年以上、メディアから「都市川筋の整形師」と呼ばれ、北京五輪水系を含む数多くの水利、建築、景観、環境プロジェクト設計を手掛けた人物だ。
今年7月24日、同氏は個人のブログで永定河の管理について、「生態修復および砂地施設の洪水防止設計基準は、3年に一度の洪水に対応」「染み出し防止工事の設計基準は10年に一度の洪水に対応」と書かれている。しかし、水利専門家は、川筋の人造湖と緑化案がどのように設計されても洪水防止基準を高めることはできず、上述の案が提案されたのは、北京地区でこの55年間大洪水が発生していないということによると指摘する。
中国の全河川の中でも永定河の洪水防止の重要性は極めて高く、全国の4大洪水防止重点河川のひとつに挙げられている。
1956年8月3日、永定河北京区間上流の官庁山峡区で突然豪雨が発生し、全山峡区の総降水量が4.16億立方メートルに達した。翌日、毎秒2500立方メートル以上の最高水量が北京と三家店の境界線である盧溝橋を通過。8月7日、西麻各庄の堤防が決壊。この洪水で北京近郊の大興、廊坊、武清など合わせて908平方キロメートルが水没している。
しかしこの大洪水後、華北には異常な長期干ばつがやって来た。多くの水利専門家は、北京で55年間洪水が発生していないことから、今後、数年間のうちに洪水に見舞われる確率は高くなったと考えている。
「これは大きな賭けに等しい。もし将来10年、20年洪水が発生しなければ北京政府は賭けに勝ち、このプロジェクトも価値あるものと言えるが、洪水が早く発生したらこの賭けは負けで、巨額の浪費となるだろう」
死んだ河川の見本
8月中旬は本来、北方河川の増水期だが、永定河の三家店水門では水門上の川筋内にわずか1キロほどの水面しか見られなかった。20世紀の数十年間、官庁ダムが放出した水をこの水門が遮り、永定河の引く用水路に入ってから北京の一般庶民の水道の蛇口までたどり着いた。だが、今の永定河の用水路は、水がわずかに川床を覆うだけで、ほとんど静止して動かない状態だ。
水門下流の永定河川筋は一滴の水もなく干乾びている。川床は大小の丸い石に覆われ、枯れた雑草がわずかにあるだけだ。
北京の母なる河で、海河最大の支流のひとつでもある永定河は50-60年代には、まだ20数億立方メートルの水量を誇っていた。1954年に、永定河の北京区間上流の河北省懐来県で1949年以来初めてのダムが建設された。官庁ダムと呼ばれるこのダムは総貯水量41.6億立方メートルだが、一度も満水になったことがない。
1997年、水質汚染により官庁ダムは北京の飲用水源から外されたが、たとえ汚染問題がなかったとしても、永定河は水量の点で北京の水源地にはなりえなかった。データによると、2006年から2009年の4年間、官庁ダムの貯水量は1億立方メートルをきっていた。北京水務局の事情を知る人物は、「これはダムからの水流が北京市内に流れ着く前に、全て地下にしみ込んでしまったということで、断流したことを意味している」と話した。
北京区間より上流の永定河の状況も、どこへ行ってもよくない。永定河源流および上流に何度も視察に行った環境保護活動家の王建さんの話によると、山西省内の桑乾河にダムが林立しているが、多くのダムは溜め池状態であり、川の水量も豊富ではない。その他の区間の様子は、深刻に汚染された渓流のようだという。また、多くの小さな支流は干上がり、埋め立てられていたそうだ。
河北省水利庁の専門家・魏智敏氏によると、国際水利学界の共通の認識は、1本の河から人が利用する水量が20%以内であれば、河の自然な生態に対する破壊はまだそれほど大きくはない。30%になると警戒ラインに触れ、河の生態が深刻な影響を受けることになる。「しかし、我々の永定河の水量に対する使用率は90%を超えている。ここまで絞り尽くし飲みほしてしまえば、河川が壊滅するのは必然である」と同氏は警告する。
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