【大紀元日本10月3日】共産党が中国で政権を設立した10月1日の記念日を祝う式典で、温家宝首相は再び政治改革に言及した。9月30日に各界関係者を招待した際の祝辞で、「経済体制の改革を全面的に深め、積極的かつ適度に推進し、文化と社会の各領域で改革を総括的に推し進め、この体制を(市場)経済社会の発展に適応させる」と演説した。8月22日、経済特区30周年を迎えた広東省深圳(しんせん)を訪れた際の発言以来、わずか40日間で6回も政治改革に触れている。「政治改革」を明言した中国共産党政権のトップリーダーは、天安門事件以来、温氏が初めてであり、その背景にはどのような真意が隠されているのか、注目を集めている。
「政治体制の改革を推進しなければ経済改革によって得られた成果が再び失われる」。温首相は8月22日、改革開放のモデル実践から30年を迎えた深圳市を視察した際に発言した。中国共産党は1987年秋の第13回党大会以降、政治改革に言及することはなくなった。以来、あらゆる改革が「行政制度の改革」であると位置づけられてきたため、今回、温首相が政治改革を明言したことは尋常ではないと受け止められている。
9月6日の米国カーター元大統領との面会や、13日の天津で開かれた世界経済フォーラム、22日のニューヨークでの中国語メディアとの会談でも政治改革に言及し、その上、個人の自由にも触れている。さらに23日の国連大会でのスピーチでも、政治体制の改革を推進しなければ経済改革の最終的な成功は保証できないと発言している。
黙認された「体制内の異見」か
8月の深圳での政治改革発言は、中国の知識人の間で話題となり、政治体制改革についての討論会まで行なわれ、温氏を「エリツィン並の人物」と評価した。中南海高層との太いパイプを持つ国内政情誌「炎黄春秋」の編集長を務める楊継縄(よう・けいじょう)氏によると、9月30日の温首相による再度の政治改革発言について、北京の知識人の間では、「温家宝現象」としてあらゆる憶測が飛び交っているという。「中国政治は壁に囲われているので、壁の外にいる人間は憶測するしかない。(温首相の発言は)個人の行為なのか、(中共高層の)集団行為なのか?ほかのリーダーとの意見交換があったのか?現在は全て謎のままである」と同氏は述べる。
北京の知識人の間で、「ほかのリーダーとの意見交換があったのか」との疑問が出されているのは、胡錦濤総書記が9月6日に深圳を訪ねた際のスピーチでは、政治改革に言及しなかったことによる。江沢民派閥と激しい政治闘争をしてきた胡・温政権に亀裂が入ったのかとの憶測もあるが、2012年の党大会の人事更迭を目指す激しい派閥闘争の中、胡・温はそれぞれ「白い顔」と「黒い顔」の役割分担を演じているだけで、激しい党内闘争や高まる社会衝突に曝されて崩壊する危機から体制を安定させる意図との見方もある。
米国在住の中国政治評論家・李天笑氏は、政治改革発言において「孤独」に映る温首相の異例な発言は、中国共産党高層に認められた政治行為であると見ている。「温の発言に誰も応じていない。つまり、トップの間では、やってはいけないタブーに触れていると分かっているため、厄介なことを招かないように発言を控えている。しかし一方、温の発言を批判するトップもいない。つまり、温の『体制内の異見』はトップの了解を取った行動であろう。温首相に発言させるが、正式な形は取らないという按排だ」と同氏は見ている。
「中共の政治ルールとして、正式な改革の宣告は中共中央の核心から出すことになっており、国務院総理から発信することではない。つまり、温の発言は個人行為の形をとっているため、中共の根本利益には触れていない。いざ何かあった場合、中共中央は、これは温個人の考えであり中共の決定ではない、と言える余地が残されている」と李氏は語る。
党内メディアの論争:政治改革は「資本主義ブランドか社会主義ブランドか」
党内の分裂に見える温首相の発言について、国営報道機関の間でも論争が起こった。北京の知識人たちは8月末、温首相の深圳での発言について北京郊外で温支持の討論会を開いた。その後、共産党機関紙の「光明日報」は9月4日、「性質が異なる2種の民主を混同してはならぬ」との評論文を発表した。「政治改革は、社会主義民主と資本主義民主との間の境界線を区別すべき」と主張し、矛先を温首相に向けた。光明日報のスタンスにネットユーザーらが驚きの発言を続発し、「時代の逆戻りだ。偽りの社会主義民主より、真の資本主義民主のほうがましだ」と温首相を支持した。
二日後、胡錦涛総書記が深圳でスピーチを行った。同日、広東省の共産党機関紙「南方日報」は「深圳市は政治体制改革の先駆者になるべき」という異例の社説を出した。特集記事ではさらに、「政治体制の改革と民主政治の建設は、思想の束縛から解放され、資本主義ブランドか社会主義ブランドかという枠を突破すべき」と「光明日報」の論調に対抗した。
広東省の省総書記は胡錦濤派閥の汪洋氏であるため、南方日報の異例の社説は、温首相に対する胡錦涛総書記の暗黙の支持との見方もある。
9月8日、南方日報の挑戦に光明日報はさらに反撃し、民主政治は中国特有の社会主義を堅持し、資本主義民主を捨てるべきだという、江沢民派閥が指揮する中共中央宣伝部のスタンスで、評論記事を再び掲載した。加えて、軍部の機関紙「解放軍報」が、社会主義価値観の体制で多様化した社会思想のトレンドをガイドすべきとの評論を出し、論争をさらに炎上させた。
その後、深圳市のテレビから、8月の温家宝首相による深圳市での政治改革発言は消えた。
保守派と改革派を代表する北と南の2大党機関紙の論争について、中国国内の知識人の間では、90年代初めの「改革は資本主義ブランドか社会主義ブランドか」という論争を思い出すと指摘されている。天安門六四事件後の1992年春、_deng_小平氏が深圳市を視察して改革路線を再び強調する発言をした期間、党の機関紙は中国の経済改革を案出した_deng_小平氏を批判する論調を連続して発していた。
党内の政治改革は実現しうるか
バブル経済、貧富の格差拡大、幹部の深刻な腐敗で民衆の利益が損なわれることによって激化する官民対立など、中国社会の危機が高まる中で、現政権が解決の糸口をさぐろうと焦る窮境は、民間知識人が民主化を要求する声の高まりや、党内メディアの政治改革を巡る論争に現れている。最近、日中間で起きた漁船衝突事件で緊張した日中関係に関しても、国内に対して反日の世論操作をすると同時に、対外的に友好外交を呑むという中共トップのこれまでの略策が、党内に深まった対立のために機能しなかったようにも思われる。
しかし、党内で政治改革は実現しうるのか。「中国のエリツィン」として温首相に期待する国内の知識層は、旧ソ連の解体につながった共産党解体を思い出すだろう。
香港政情雑誌「開放」の金鐘編集長は、改革開放でもたらされた経済発展の中、権力者と社会のエリート層が最大の利益者となったわけだが、これらの利益獲得層は政治改革によって既得権益を失うことを恐れており、党内での政治改革には否定的だと考える。
在米の政治評論家・三妹氏は、中国の共産党政権はすでに機会主義と実用主義の段階に入っており、もう一人のゴルバチョフを生み出すことはないし、すでに手に入れた利益と権力を譲ることはないと考えている。かつての旧ソ連のインテリたちが行ったように共産党を徹底的に否定するということが起こらない限り、政治改革などは望めず、その場合は、中共が崩壊して初めて真の民主自由が実現されるとしている。
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