【大紀元日本7月21日】周錦興(クレセント・チャウ)は、カナダモントリオール市の中国語新聞・「華僑時報」の発行者。2年前、ライバルの大紀元新聞に対して、大紀元の報道記事が周のことを「北京の代理人」と言及したとして、名誉棄損で訴訟を起こした。訴訟に必ず勝つと信じていた周は、今年4月、ケベック州最高裁から、「他に噛みついた者が、噛みつかれたと苦情を言っただけ」と訴えを却下された。同案を審理したマンデヴィル判事は、「華僑時報」が北京当局から資金援助を受けていることを確認した。
2年前にあったこの出来事が、最近カナダの権威誌「マクリーンズ」で再び取り上げられた。背景には、最近カナダ国内で波紋を起こしたカナダ安全情報局(CSIS)のファデン長官の発言がある。ファデン長官は、中国胡錦濤国家主席が6月にカナダを訪問した前夜に、カナダ最大のテレビ局の取材に、政治家や高官が外国政府の影響を受けていると発言した。特に中国がカナダに浸透していると特定、いくつかの華人団体を名指ししたため、一部の政府関係者に辞職を求められたが、カナダの世論から多大な支持を得た。
マクリーンズ誌7月8日付けのこの報道のタイトルは、「影響の問題」(A Question of Influence)。北京当局がカナダ国内の中国語新聞やテレビ放送に資金援助などの利益を与え、それらのメディアをコントロールして、カナダ国内へ中国共産党当局の宣伝やイデオロギーを輸出し、独立派の中国語メディアを打撃していると指摘した。
上述の華僑時報は、あくまでも操られた中国語メディアの一つに過ぎないとして、マクリーンズ誌は、数々の事例を挙げて、「北京当局は、カナダの中国語メディアを自分のデマや宣伝のプラットフォームに変身させている」と警告した。
「祖国のイメージを守る使命」
共産党国家から民主国家に足を運び、その国で中国語メディアを運営するものは、ほとんど、現地で長く生活し、民主国家の教育を受け、民主や自由の意志に影響された知識人たちであろう。彼らはどんな目的から所在国で中国語メディアを立ち上げたのか。
2年に1度、海外の中国語メディアを対象に中国政府が開催する「世界中文メディアフォーラム」で、華僑時報の周錦興は、メディア運営の理念について、「祖国のポジティブなイメージを守る」ことであり、それが海外中国語メディア従事者らの使命であるべきだと発言した。
周が言う「祖国のポジティブなイメージを守る」ことの一つであろうか、2002年、華僑時報は中国国営メディアのラインで法輪功がいかに悪いかを書き立てた特集版を作り、通常の4千部の発行数をはるかに越える10万部を無料配布した。
同じ内容と部数の特集は、4回も無料配布された。広告は一つも載せていない。この資金をどのように捻出したのか。
同時期、中国政府機関紙「人民日報」は中国国内で、周が発行した特集のことを報道した。
同市で発行される大紀元新聞は、周の行為について報道した。亡命した元中国領事官へのインタビューも含まれ、中国政権の代理として周が働いていたことが示唆された。周は大紀元を名誉棄損で訴え、25万ドル近くを要求していた。
しかし、マンデヴィル判事は、周が固執する共産党政権の地位を擁護するための使命や、特集版発行に関する不透明な資金源を指摘し、「大紀元は、事実に基づいて意見を構築した」と判定をくだした。
中共の息のかかる「星島日報」
香港資金の「星島日報」は、海外の主要中国語新聞の一つ。90年代香港返還の前まで、「星島日報」や「明報」など香港をバックグランドに持つ海外の中国語メディアは、報道の自由を提唱、中国大陸を背景に持つメディアと異なるスタンスを取ると主張していた。
カナダ安全情報局の元アジア事務室長マイケル・ジュノーカツヤ(Michel Juneau-Katsuya)氏の話によると、香港返還の2年後、「星島日報」の親会社である星島新聞グループが、何柱国(チャールズ・ホー)氏の管轄下となった。ホー氏は中国のたばこ業界の大物で、中国共産党内でも高い地位にある。これまで大陸とは一線を画して自由な報道を享受していた「星島日報」は、それ以降、論説記事などがすべてホー氏の意向を伺う幹部のところで抑えられるようになった。カナダ版は「トロント・スター」が50%所有しているが、最終の編集はホー氏の息がかかった幹部のところで止められる。
2年前、オリンピック・トーチへの抗議に関する「トロント・スター」の英文記事を、「星島日報」が中国語記事に翻訳編集した際、人権や抗議活動の内容をほとんど削除、「人権侵害」の前に「いわゆる」という言葉をつけたり、「チベット人」を「チベット分離主義者」に変えたりなどした。トロント・ライフ誌は当時、「星島日報」の翻訳編集記事がどのように共産党ラインに従って書き直されたかという分析記事を掲載した。
中国共産党北京市委員会宣伝部と懇意にすると、本土で金融面のチャンスが与えられることに他のメディア企業も気づいている。これらの企業は、広告主への中国政府の影響力を踏まえ、自己検閲し、中共ラインの表現を採用したりしていると、ワシントンに本部を置く中国語メディア研究団体「チャイナスコープ」(Chinascope)の編集長リ・ディン(Li Ding)氏は語る。
「これらの中国語メディアに北京当局が影響を与えている証拠は増えている」とリ氏は話す。
事実、トロントの中国民主化協会会長、関卓中氏(Cheuk Kwan)氏は、カナダの中国語メディアにメッセージを送ることが日に日に難しくなっていることを、実例を挙げて指摘する。本当に掲載を望むならば、1989年の天安門事件に関するインタビュー記事から「虐殺」の言葉を除くよう、編集者や記者からアドバイスが常に来るという。
グローバル世論の獲得に予算66億ドル
北京が狙う目標は、海外の中国語メディアだけではないようだ。国外では、中国語メディアを管轄下に抑えても、中国語以外のメディアが、中国の人権侵害、中国製品の有害性、国外の非民主主議政権の中共による支援などを、毎日のように自由に書き立てている。しかし、この「自由」も永遠に続くものではないかもしれない。
超党派の政策諮問機関である米国経済安全保障調査委員会2009年の報告書によると、北京当局はグローバル世論獲得のための世界戦争に乗り出しており、このために66億ドルの予算を組んでいるという。
同報告書は、「中国政府や国営企業が裏で影響をおよぼすことのできる“独立”した新しいメディアを生み出すことに力を入れている」と記述。 具体的には、広告を提供したり、直接融資するか、領事館の高官などを派遣して手助けをしている。中国政府が国外メディアに掲載させたい記事を、どのような活動を通して掲載させるかを示した書類も、漏えいしている。
メディアチャンネルとしては、CNNと中東発の報道チャンネル「アルジャジーラ」をベースにした24時間のテレビ放送などの外国語によるニュース報道や、中国の国営テレビ局である中央電視台の英語国際放送CCTV-9などが設置されており、CCTVは北米全体で放映されている。