【大紀元日本11月25日】過去20年余りの間、中国共産党(中共)政権は大陸において経済改革を実施してきたが、その経済発展のペースは世界の注目を集め続けてきた。高い伸びを続ける経済成長率は、中国経済が強大であることを示しているかのようであるが、同時に、社会に貧富の急速な二極化現象をもたらしており、このこともまた、次第に関心を集めつつある。この他にも、ますます多くの社会衝突が出現している。では、様々な情報をどう見れば、中国経済の前途をより明確に観察できるのだろうか。11月3日、中共の元総書記・趙紫陽ブレインの一人であった程暁農氏は、テキサス大学ダラス校(UTD)政治学部のシンポジウムにおいて講演し、中国改革モデルの謎について分析した。
シンポジウムは、UTDのGreen Hallにおいて開かれた。程氏はまず、北京清華大学の社会学者・李強氏が2005年に発表した、中共政府の統計に基づいて描写した中国社会の構造図を紹介した。ここで李氏が発見したのは、中国の現在の社会構造は逆T字型であり、大多数の国家が擁しているピラミッド型、カンラン型では決してないということであった。この中では、農業人口の96・7%と都市就業人口の55・3%が社会の最下層に属している一方、都市就業人口の18・2%だけが、社会の中上級層を構成している。李氏の指摘によると、こうした現象は、社会の中上級層と下級層との間の緊張関係を反映しているという。
程氏の指摘によると、この分析には、失業者の数字が含まれていない。かりに、失業人口をカウントすると、社会最下層の人口は、中国の人口の90%を占めるが、これらの人々は、先ほどの逆T字の横棒を代表している。一方、縦棒のほうは、一部のホワイトカラー及び政治エリート(党政幹部及び政府に任命された企業家)を代表している。ここから明らかなことは、中国経済の発展は、政治エリートが利益を得る助けにはなったが、貧困階層を主体とする民衆の助けには全くならなかった。この逆T字型社会構造は、社会構造の二極化であると広く認識されている。これに対応する結果として、社会の最下層の不満がますます大きくなり、多くの地区で小規模な抗議を引き起こしている。
では、なぜ、中国の経済発展は、社会における各主体の利益にならなかったのか。また、なぜ、社会の緊張を緩和させなかったのか。
程氏によると、この点については、過去20年余りにおける中国の発展のロジックについて理解しておかなければならないという。中国の発展は、他国のように、国民消費者を主体とする購買力の成長に基づくものでは決してなかった。収入レベルの格差が拡大し、不平等になっており、大部分の資産は少数者の手中にある。経済成長を維持するため、中国政府が採用したのは、次の3つの方法であった。①外資を導入し、ますます大きくなる世界市場を占領した②公共施設及びインフラ建設の方面に大量の財政投資と銀行融資を投入した③不動産開発を刺激しこれを急速に拡大させた。こうした政策は、確かに経済成長を支え、都市の現代化を支援し、外資企業や海外からの旅行者の、中国の経済発展に対する印象を深くした。しかし、同時に、これらの分野は、腐敗官僚が最も荒稼ぎできるビジネスとなった。
程氏はまた、政府は「改革」の名の下、教育、医療、住宅等の方面で、もともとあった社会福利を大幅に削減し、中下層の日常消費購買力を大きく縮小させた。他方、党政官の鉄飯碗(解雇されない職業の意)について、住宅、医療等福利はもとのままで手はつけられなかった。それだけではなく、一部政府官員は、手中に掌握していた国有資源を利用し、外国投資者からの賄賂を受け取って資産をその懐に収めた。このほか、大多数の外国投資者が中国で建設したのは、みな労働集約型の輸出産業であったため、彼らが雇用したのは、技術のない若年農民だけであった。彼らの賃金は極めて低く、その結果として、外資による投資は多くの就業機会をもたらしたが、「国内の需要不足」を改善することは全くなかった。これは、正常な経済成長に影響を与える重要な問題である。
中国の発展の過程において遭遇した一連のボトルネックについて、程氏は、直面しなければならない5つの問題を指摘した。
(1) 世界市場は、巨大な労働力のストックを擁する国家の輸出製品を無限に吸収することは不可能である。従って、中国が、より多くの国際市場のパイを占領することを目論む時、各国との貿易における衝突は避け難くなる。
(2) 都市、インフラ建設の投資は既に過度となっており、今後、経済成長の牽引役として依存することはできない。
(3) 危険な不動産バブルが既に発生している。
(4) 中国の中小企業の生存環境がかなり苦しくなっている。
(5) エンジニア、大学卒業者の高失業率
現在の中国の発展における特徴について言及した際、程氏が特に指摘したこととして、中国の高成長には、異常なことに、高失業率が伴っている。特に、大学卒業者に対する国民経済の需要は、経済発展とともに増加することはないばかりか、逆に、日を追って減少している。最近に到っては、世界でも稀有な、“working without payment”(賃金を得ず働くこと)という雇用類型が出現しており、社会の最下層出身の大学生は、都市で就業機会を得るため、この方法を取らざるを得ない。このほかにも、潜在的な銀行システムの危機、各方面に遍くある腐敗、巨大な収入格差、日増しに強くなる政治的統制=メディア、インターネット、学術分野、社会不満に対する圧制及び大学において構築された「情報員(学生スパイ)」ネットワーク等において表出されている=といった問題が挙げられる。
こうした複雑な局面について、程氏の見解によれば、上述のボトルネックには、簡単なルートで安易に対処することができないことから、社会の緊張と潜在的な社会危機が、中共政権をさらに緊張させているという。最近、国内の学者が改革について再考する討論が、中共によって停止された。また、政治面において、国内の知識分子の一部は、顕著な後退現象の兆候が出現していると考えている。
こうした状態で市場化を進めれば、民主化がもたらされるのだろうか。政治改革を基礎としない経済改革は、経済成長をもたらすであろうが、それは健全な発展ではない。程暁農の指摘によると、中国の経済体制は、真の市場では決してない。市場は数多くの腐敗官員にコントロールされており、多くの民間企業家は、彼らと協力することが、ビジネスを行う最善のルートとなる。こうした環境の下で、外国投資家や商人は、その政治的態度を変えて執権者の愛顧を受けようとする。他方、国内の執権者もまた、経済、知識エリートを不断に受け入れ、その権力を維持する。程氏は、こうした経済政治同盟が、中国における収入、資産のいびつな分布を形成したと述べている。現在、既に、社会の二極化が発生しており、日増しに深刻化する社会衝突が発生しているのは必然的なことである。
程氏は、3分の1の時間を聴衆に残し、出席者に対して自己の問題や考えを提起し、ともに検討を行った。このシンポジウムにやってきた人々は皆、中国問題への関心が比較的高いか、あるいは、この点についてより多くの理解を深めようとしていた。このため、問題は一つまた一つと生まれ、会において質問できなかった人が、列をなして程先生との交流を待った。
中共の経済発展、政治改革などの方面について言及した際、中国の人権状況に関心を持つ者がいた。ある米国の学生は、「もし、中国の大学生が政治活動、討論などを組織した場合、どのような事態になるのか」と質問した。
程氏は「彼らは、直ちに監獄に送られるでしょう」と答えた。更に解説を加え、中共は、民間のこうした活動が、すべて政権に対する脅威になると考えていることから、活動に従事する学生に対し、おそらく、国家政権に脅威を与え又は転覆させようとした罪を着せ、処分を下すであろうと述べた。また、中共は、あらゆる手段を使って民衆を監視しており、民衆の監視にハイテクが利用されていることにも触れた。当局は、大量の資金を投じ、都市部に撮影監視システムを構築し、街頭での人々の活動を撮影・監視しているほか、電話、インターネットなども監視している。これが、中共が実施している「ゴールド・シールドの構築(金盾工程)」である。
当然、異なる観点を持つ者もおり、とりわけ、大陸から来た華人がこれに該当した。男性2名の次のような視点は、それらの観点を代表していると言えるだろう。「我々は、出国して長年になるし、中国に帰国もしている。貴方(程氏)が提起したようないくつかの問題は存在しているが、中国が進歩した面もある。人々の生活が改善し、生活が良くなった」。程氏は「我々が一つの物事を見るとき、必要なのは、全体的な視点から見ることであり、身の回りで触れるような一部の事だけを見るわけにはいかない。全体的に、マクロの視点から見ることで、はじめて、よりはっきりとした、より正確な観察が可能になる。特に、国家政策等に関ることについては、それが多数派をなす者にとって有利なものであるかを見るべきである。また、人々の生活が改善し、向上したという点について、長期的に、こうした向上が見られなかった国家、地区がどこにあるというのか」と答えた。
このほか、物事の考え方の衝突も顕著に現れた。大陸から来た学生は、程氏の視点に不満を持つとともに、あらゆるメディアが、このシンポジウムを報道しないよう求めた。程暁農は穏やかに「自分は、一人の学者として、物事に対する考え方を表明する権利があり、真剣な、厳格な学者として、真実を語る責任を持っている。米国において、言論の自由は基本的な権利であり、学生は、学内で、大統領や政党に対して意見、不満を述べることができる。それでも、この学生は愛国的でないとは言われない。根本的な問題として、我々は、党と国家を分けるべきである」と述べた。
ちょうどその時、大陸から来たもう一人の留学生が、立ち上がり、「私もUTDの学生であり、程先生の講演に感謝する。いま、多くの人にとって明らかになっているというべきであるが、1500万人の華人が中共を脱退していると聞く。私は、会場の写真をとって、学校の新聞にレポートを書くつもりだ」と語った。
程氏の夫人で、著名な経済学者である何清漣氏もずっと会場におり、時折、一部の人と言葉を交わしていた。
シンポジウムに参加した楊さんという女性(大企業に勤めるプログラマー)は、「私は、経済については部外者で、今日は、名を慕ってやって来ましたが、非常に有益でした。私にとって最も感慨深かったのが、程先生の教養ある気風、何清漣女史のお淑やかな容貌、お二人の温和な態度、風格です。彼らが立ち上がり、各地で講演をするのは、自分のためではなく、皆のため、国家のためだと思います。私は、他の人々に対する、彼らの思いやりを実感しましたが、これは、私たちの多くに欠落しているもの、または、既に失ったものです。彼らが今後、より多くの場面で活躍され、各界の友人と交流されることを希望します」と感想を語った。
(米国ダラス=記者・蕭紅)
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