今年9月の自民党総裁選について、ロイターが全国の個人投資家に小泉首相の後継者や政策課題をアンケートしたところ、「ポスト小泉」候補として、回答者の33%が安倍官房長官を希望、29%が福田元官房長官を支持した。回答者数は4126人。最も優先すべき政策課題としては、「財政再建」が40%と圧倒的に多く、その手法としては「歳出カットを優先し、増税は避けるべきだ」との答えが8割近くに上った。
自民党総裁選では、安倍氏と福田氏の二強決戦になるとの見方が広がっているが、今回の調査では、両氏に対する個人投資家の支持がほぼ同水準に並んでいることが分かった。優先すべき政策については「対中韓外交」(14%)が2位に入ったが、「財政再建」との開きは大きく、外交よりも内政への期待が高いことを裏付けた。また、回答者の7割が「日銀の独立性を尊重すべき」としたものの、最優先課題として「日銀の金融政策」を選んだ回答は2%にとどまった。
調査は、ロイターが個人投資家向けメールマガジン「マルテックス」の会員を対象に5月21日から28日まで実施した。有効回答数が4000人台に上ったのは、ロイター個人投資家調査では初めて。
<安倍氏はイメージ、福田氏は外交手腕>
「ポスト小泉にふさわしい政治家はだれか」との質問については、安倍氏と福田氏に続いて、自民党総裁選に出馬できない小沢民主党代表が22%で第3位に割り込んだ。その後に麻生外相7%、谷垣財務相3%、河野太郎衆院議員1%と続いた。
安倍氏を支持する理由は、35%が「イメージ」を上げ、26%が「外交手腕」と答えた。「小泉政権の改革路線を継承してくれそう」(60代男性)との声に代表されるように、小泉路線の後継者というイメージが支持を集めている。外交手腕にも「国益に沿って政策を遂行する」(40代男性)など、日本の主張をはっきり表明しそうだとの点に期待が集まっている。
福田氏については、65%が「外交手腕」を支持の理由に挙げている。福田氏に「正常な対中韓首脳外交の復活」(70代男性)を期待するなど、外交面で手詰まり感のある小泉政権に対する不満の受け皿になっている面がありそうだ。さらに「総合的に政策手腕に優れ、人格もよい」(30代男性)など、福田氏の安定した政策運営スタンスへの期待感も根強くある。
ただ、安倍氏、福田氏とも経済・財政政策への評価がそれぞれ3%、8%と低く、今後はそれぞれが打ち出す経済・財政政策の中味によって、支持の割合が変化する可能性がある。
一方、小沢民主党代表の場合は、63%が「リーダーシップ」を挙げた。この項目については、安倍氏が24%、福田氏が6%だった。同代表を支持する理由について「そろそろ政権交代があってもいい」(30代女性)、「外交、経済、行政改革の大きな政策転換ができる」(40代男性)との声が出ていた。
<50代まで安倍氏リード、60代から福田氏逆転>
安倍氏と福田氏の支持の割合を回答者の年齢別で比較すると、20代から50代までは安倍氏の支持が福田氏を上回った。しかし、60代では安倍氏30%、福田氏31%と支持率が逆転。70代では福田氏は37%と、安倍氏の30%を引き離している。
両氏への支持を回答者の金融資産額で分けると、0─499万円では安倍氏34%、福田氏25%、500─999万円では安倍氏37%、福田氏30%、1000万円─1999万円では安倍氏29%、福田氏31%、2000万円─2999万円では安倍氏31%、福田氏32%となっている。
次期首相が最も優先するべき政策課題としては、「財政再建」が40%、「対中韓外交」が14%だったのに続き、「行政改革・規制緩和」が13%、「少子化対策」が12%の順になっており、総裁選の争点の1つとして急浮上してきた「格差問題」は5%にとどまった。
財政再建の手法に関しては、「歳出カットを優先し、増税は避けるべき」と答えた人が79%に上り、「増税はやむを得ない」は21%にとどまった。政府・与党内では、自民党の中川政調会長を中心に、成長率を高めるとともに、歳出削減を優先し、増税幅をできる限り圧縮すべきとの路線が主流になりつつあり、今回の調査結果では、この歳出削減優先路線に支持が集まった。
「対中韓外交」では、「対立は避けるべき」との回答が49.7%、「譲歩すべきではない」が50.2%となり、見方がほぼ2分された。「対中韓外交」と密接に絡む靖国神社への参拝については、65%が「参拝すべきでない」としており、「参拝すべき」の35%を大きく上回っている。
政府と日銀との関係について質問すると、「日銀の独立性を尊重するべき」は69%、「政府との連携を強化するべき」は31%となった。最も優先すべき政策として「日銀の金融政策」を選んだ回答は全体の2%だった。
<株が上がる首相、安倍氏が40%・福田氏が24%>
個人投資家が最も気にしているのは、「小泉後」の株価動向だ。これについて株価上昇につながるポスト小泉候補として最も好感されているのが安倍官房長官で40%、続いて福田元官房長官の24%、竹中総務相の18%の順。麻生外相と谷垣財務相、与謝野経済財政・金融担当相はそれぞれ4%にとどまった。
逆に、株価下落につながるとの回答が比較的多かったのが、麻生外相と谷垣財務相でそれぞれ18%。河野衆院議員も16%となった。
9月に退陣する小泉首相の評価はどうか。各種世論調査では、退陣を3カ月後に控えているにもかかわらず40―50%の高支持率を記録している。今回のロイター調査でも、小泉首相の評価について「非常に満足」「満足」が合わせて44%となった。
しかし、続投を望むかとの質問に対し「望まない」が72%と「望む」の28%を大きく上回る結果となった。「経済上昇のきっかけをつくった」(30代、男性)、「政策は満足できるが、全部丸投げで仕上げには消極的」(60代、男性)と意見が分かれている。
<ポスト小泉政権は07年夏までの存続が23%、09年までが22%>
次期政権の存続期間については、「2007年夏まで」との見方が23%と最も多かった。「リーダーシップ」が評価される小沢代表の下で民主党が結束を強めた結果、来年夏の参院選で連立与党が民主党に敗北し、その責任問題から短命政権に終わるとのシナリオだ。
2006年中の4%、2007年春までの12%を加えると、39%が2007年夏までで政権が倒れるとみており、次期政権が短命に終わるとの見方が少なくないことを明らかにしている。「2008年中」は22%、自民党総裁としての任期満了となる「2009年」も22%に上った。
憲法9条の改正について「改正するべき」が54%、「このままでよい」が46%だった。
また、日米関係と安全保障では、「自立する方向を探るべき」が41%となり、「このままでよい」の38%、「強化するべき」の22%を上回った。