【大紀元日本4月7日】近年、デジタル・オーディオ・プレイヤーとして、若い世代を中心に急速に広まりつつある、アップルコンピュータのiPodシリーズ。もともと手軽に大量の音楽を持ち運んで聴くために開発されたiPodが、ここ1、2年の間に、教育現場で活用されるケースが増えてきた。日米の活用事例をいくつかご紹介した上で、今後の課題について考えてみたい。
音声、文字、ビデオ教材の携帯が可能に
ZDNet Japan(http://japan.zdnet.com/、2006.3.7~3.10)の報道によると、日本でもいくつかの教育現場でiPodが授業などに活用されているようである。
・大阪女学院大学の場合
大阪女学院大学は、世界で最初にiPodを授業に導入した大学として知られている。従来から英語教育に力を入れていた同大学は、2004年4月、新入生全員に15Gタイプの第3世代iPodを配布し、授業での活用を始めた。主に、英語のリスニング力強化のために利用されており、従来の英語学習用のCDの内容を全てiPodに入れることによって、「通学途中でも(気軽に)教材が聞けるため、学生の勉強する時間が増えた」(同大学国際・英語学部教授・加藤映子氏)ようである。
・名古屋商科大学の場合
名古屋商科大学は、情報教育を強化するため、2005年4月にiPodシリーズの一つであるiPod Shuffleを全学生に配布した。同大学は、コンピュータをビジネスに役立てるための取り組みの一環として、1990年から早くも、約4000人の学生全員にコンピュータを無償配布してきた実績を持つ。ただ、必ずしもパソコンを十分に活用できていない学生もいることから、「パソコンを使うためのモチベーションをさらに上げようという観点で新たな施策を考え、iPodの無償配布に至った」(同大学助教授・栗本博之氏)ようである。また、情報教育以外の授業でもiPodを使った教材の配布やレポートの提出が行われているし、外国語学部では、音声教材をサーバーに登録し、学生の自習用に提供している。
・東京リーガルマインドの場合
各種資格や国家試験の指導を行っている東京リーガルマインドでは、2004年9月から、通信教育講座に「iPod講座」を追加した。その最大の理由は、従来のカセットテープでは膨大な量になる講座があり(660時間、350本)、受講生に圧迫感を与えていたことから、全ての内容をiPod一台に収めて、圧迫感を軽減するためであった。同校では、iPodをカセットテープ代わりに使うほか、「メモ機能」を使って、ディスプレイにテキストの演習問題を表示させたりしている。また、複数年度にわたって学習している受講生には、講義内容のアップデートをポッドキャスト(iPodなどの携帯プレイヤー用の配信番組)にて配信し、受講生が自由に最新のものをダウンロードできるようにもした。
・アメリカの場合
一方、AP通信によると、iPodが生まれた当のアメリカでも、教育現場で徐々にiPodの導入が始まっているようである。
米ジョージア州のジョージア・カレッジ・アンド・ステート・ユニバーシティでは、約300人の教職員のうち100人以上が教育や研究にiPodを利用している。例えば、歴史担当のベス教授は、学生たちに、従来授業中に見せていた39本の映画を第5世代のビデオ機能付iPodにダウンロードさせ、課外で見させることによって、3時間の授業の全てを討論に充てることができるようになった。
また、同大学は今年度、iPodを使って「iVillage」とよばれるバーチャル・コミュニティを作り、新入生に、授業や宿舎などのキャンパス生活に関するサバイバル術をアドバイスした。同大学ではこれまで、多くの学生が入学1年後に他大学に移って行ってしまうのだが、今年度はこの「iVillage」によって、そういった学生を減らせるのではないかと期待されている。
教員の意識改革と教材作成が今後の課題
このように、今後教育現場で大いに活用されることが期待されるiPodだが、問題がないわけではない。
第一に、学生にいかに積極的に使わせるかということである。モノだけ提供しても、それを使う環境を提供しない限り、宝の持ち腐れになる。一般に新しい技術の導入に必ずしも積極的でない大学教員が自ら意識変革を行い、学生が授業や課題で積極的にiPodを使わなければならないよう仕向ける必要がある。その意味では、300人の教職員のうち100人以上が教育や研究でiPodを利用しているジョージア・カレッジ・アンド・ステート・ユニバーシティは、かなり先進的であると言えよう。
第二に、iPodで利用できるコンテンツ(教材、または教材用の素材)を増やさなければならない。アップルコンピュータのジュークボックスソフト「iTunes」を使えば、市販のオーディオCDを自由にiPodに取り込むことができるが、それは、著作権法に触れる可能性がある。ポッドキャストとして配信した場合はなおさらである。ということはつまり、iPodで利用するコンテンツは、基本的に教員が自ら作成しなければならないということになる。
大阪女学院大学の場合は、従来から英語教育に熱心で、独自のコンテンツを数多く持っていたため、それらをiPod用に加工すればすぐ使えたわけだが、他の多くの大学では、必ずしもそのような条件がそろっていないため、既成の限られたポッドキャストの中から選んで使うか、一から独自に作成する必要がある。
日本版「iTunes U」の早期開設を
この点に関しては、アメリカが一歩先を行っている。アメリカでは、アップルコンピュータの呼びかけで、「iTunes U」なるシステムが開設された。これは、各大学がiPod用オリジナルコンテンツを配信するシステムで、ユーザーは自由に好みの大学のコンテンツをiPodにダウンロードして利用することができる。現在すでに、スタンフォード大学、デューク大学、ミシガン大学などが同システムに参加しており、今後さらに拡大するものと思われる。複数大学が各自のコンテンツを一カ所に持ち寄るわけだから、現在の日本のように各大学が自分用に細々と作るより、ユーザーが利用可能なコンテンツ量ははるかに多くなるわけである。
ただ、日本に全く打開策がないわけではない。日本でも「eラーニング」(パソコンやインターネットなどを利用して行う教育)ということが言われて久しく、各大学が独自にコンテンツを作成してきたところであるが、最近になってやっと複数の大学が共同でコンテンツを開発・利用しようという動きが見られるようになった。例えば、奈良の帝塚山大学が中心となって運営されているネット教材配信システム「TIES(タイズ)」には、現在全国37大学が参加しており、利用可能なコンテンツは、人文・社会分野を中心に5000以上蓄積されている。そこで、これらのコンテンツをiPod用に加工すればたちまち、コンテンツが充実することになる。
TIESに相当するネット教材配信システムは、他にも数多くあり、これらの大学が協力し歩調を合わせれば、アメリカの「iTunes U」に匹敵するシステムの確立も決して夢ではない。今後に期待したい。
(文・大西)